大雨で増水した大分県日田市の三隈川(筑後川) ※写真と本文は無関係です |
筆者の山内菜穂子政治部次長は以下のように説いている。
【日経の記事】
少子化は先進国で共通する悩みと言える。女性の職場進出で低下した出生率は、男女ともに仕事と家庭を両立できる環境づくりや子育て世帯への経済的な支援によって、一部の国で持ち直してきた。
長らく日本とともに出生率の下位グループにいたドイツも回復傾向にある。近年の出生率は1.5台を維持する。13年に1歳以上のすべての子が保育を受ける権利を保障したほか、父親の育児休業の取得など両立支援に力を入れた。
日本の少子化対策の起点は30年前に遡る。90年、前年の出生率が調査開始以来最低となる「1.57ショック」が起きた。その後、バブル経済が崩壊。政府は経済や高齢化問題に注力し、大胆な少子化対策を出せないまま時間が過ぎた。
「この30年は一体、何だったのか」。自民党が6月に設置した少子化問題のプロジェクトチームで厳しい意見が相次いだ。座長の松山政司元少子化担当相は「政府の施策は必ずしも成果をあげていない。この現実を直視し、政治が前に進めたい」と力を込める。
孤独な子育て、子育てと仕事の両立の難しさ、不安定な雇用――。コロナ禍で露呈した不安は、政府のこれまでの少子化対策の根本的な弱点と重なる。
少子化は、政治が子育て世代やこれから家族をつくる若い世代の不安を解消できなかった結果でもある。危機に左右されることなく、失われた30年を見つめ直す作業こそが「86万ショック」からの第一歩となる。
◎論理展開が強引では?
「少子化」について論じる筆者の多くは、なぜか欧州を引き合いに出し「仕事と家庭を両立できる環境づくりや子育て世帯への経済的な支援」が克服のカギという結論に導きたがる。山内次長も例外ではない。
今回は「ドイツ」だ。「回復傾向にある」と言うが「近年の出生率は1.5台を維持する」のならば「近年」に限れば横ばい傾向だ。
移民に頼らず人口を維持するには2を少し上回る出生率が必要なのだから「1.5台」では話にならない。日本が「1.36」ならば、どんぐりの背比べだ。
単純に「少子化対策」を考えれば「出生率の高い国の真似をしろ」となるはずだ。しかし、そうした国のほとんどは途上国なので「仕事と家庭を両立できる環境づくり」が大切だと考える人には都合が悪い。そこで「先進国の中だけで考えましょ」となってしまう。
しかし「少子化は先進国で共通する」現象なので、学ぶべき国が見当たらなくなる。それだとさらに都合が悪いので、わずかな差異に目を付けて、そこに学ぶべき点を見出そうとする。なので説得力がなくなってしまう。
例えば「仕事と家庭を両立できる環境づくりや子育て世帯への経済的な支援」で北欧諸国が先行しているとしよう。そして北欧諸国が出生率でも安定して2を上回っていれば、山内次長のような書き手にとっては都合がいい。
だが、現実はそうはなっていない。「仕事と家庭を両立できる環境づくりや子育て世帯への経済的な支援」をしても、先進国の「少子化」問題は解決しそうもないと考えるのが自然だ。
なのに「少子化は、政治が子育て世代やこれから家族をつくる若い世代の不安を解消できなかった結果でもある」と書いてしまう。山内次長には世界の出生率ランキングを見てほしい。「政治が子育て世代やこれから家族をつくる若い世代の不安を解消」した国が上位に来て、そうでない国が下位に集まるという傾向が読み取れるだろうか。
※今回取り上げた記事「風見鶏~少子化対策 失われた30年」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200816&ng=DGKKZO62640960U0A810C2EA3000
※記事の評価はC(平均的)。山内菜穂子次長への評価も暫定でCとする。
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