二連水車(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です |
記事の前半を見ていこう。
【日経の記事】
6月25日に社名を変えたばかりのENEOSホールディングスが難局を迎えている。欧州の石油最大手、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルが同30日に発表した巨額減損の主因を探ると、原油価格の下落や実需低迷という業界共通の悩みが鮮明。ENEOSも稼ぐ力の劣化につながり積極還元の方針にも響きかねない。
シェルは2020年4~6月期に最大220億ドル(約2兆3800億円)の減損計上を発表した。減損は、資産価値を引き下げた分を損失として認識する会計上の処理で、一過性で終わることが多い。問題は、減損が必要と判断した今の経営環境の悪化。コロナ禍を機に世界の原油需要が本格的に縮小する可能性が出ている。
今のところ海外メジャーほどの大規模な減損リスクは小さそうだ。シェルは20年の原油レートを1バレル60ドルから35ドルに下げたが、ENEOSは20年3月期の半分の30ドルで設定済みだ。資源安の影響が大きい石油・天然ガス開発部門の売上高もシェルの数十分の1。備蓄原油の在庫や石油・天然ガス開発に関する減損で合計3000億円近くを計上するなど前期に資産価値を下げており、追加損が出にくい面もある。
◎「重ならない」と強調しているような…
上記のくだりでは、「巨額減損」を発表した「英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル」などと比較して「ENEOSホールディングス」の「減損リスクは小さそうだ」と分析している。「シェルに重なる」感じはあまりない。
では、ここから「シェルに重なる」のだろうか。続きを見ていこう。
【日経の記事】
それでも気になるのが販売の減少だ。お金を稼ぐ力を示す営業キャッシュフロー(CF)の悪化につながるからだ。コロナ影響で4~9月の国内ガソリン需要は2割、ジェット燃料で8割減る見通し。21年3月期の最終損益は減損が無くなり400億円の最終黒字(前期は1879億円の赤字)に改善するが、営業CF(休日影響除く)は4990億円と前期から約1100億円減る。運転資金の増減などを勘案した実質ベースでは3700億円規模と1500億円減る見通しだ。
同社は23年3月期まで3年間で計1兆5000億円の設備投資を計画する。40年に国内ガソリン需要が半減するとみて戦略投資は8300億円と手厚くする。水素や再生エネルギー、電力・ガス小売り拡大、EV(電気自動車)充電やカーシェア拠点向けサービスステーション設置などを予定。3年間で創出する営業CFはすべてこの投資分で無くなる見通しだ。
株主還元額は3年で計3000億円程度と前期までの3年間と同水準を計画する。予定する資産売却(1500億円分)で賄いきれないため、有利子負債を積み増す計画だ。負債を増やした場合、財務の健全性を示す純有利子負債資本倍率(ネットDEレシオ)は現在の0.7倍から0.8倍に悪化する。1倍を下回り健全だが、コロナ後は原油の需要や価格へのリスクがある。来期以降は1バレル60ドルと見込んでおり、実需低迷が長引けば想定する営業CFを創出できるかは不透明だ。
◎「シェル」との比較は?
「稼ぐ力の劣化」の話になったが「シェル」との比較は見当たらない。「シェルに重なる」と打ち出し、減損に関しては「重ならない」と分析したのだから「稼ぐ力の劣化」に関しては、しっかり「シェルに重なる」ように見せてほしかった。
付け加えると「来期以降は1バレル60ドルと見込んで」いるのが気になった。「シェルは20年の原油レートを1バレル60ドルから35ドルに下げたが、ENEOSは20年3月期の半分の30ドルで設定済み」とその前に書いていたが、「シェル」は21年以降をどう見ているのかに記事では触れていない。
日経の別の記事では「21年は40ドル、22年は50ドルと、それぞれ従来の60ドルから引き下げる。23年以降の長期は従来と同じ60ドルとした」と報じている。「ENEOS」の方がかなり楽観的だ。となると「ENEOS」にも「減損」リスクがそこそこありそうだ。筆者の武田健太郎記者はなぜそこに言及しなかったのか。
記事の最終段落にも注文を付けておく。
【日経の記事】
「戦略投資は絶対に削れない」(杉森務会長)以上、やれることは効率化と投資選別しかない。これまで国内の製油所・製造所を統廃合してきたもののコロナ危機を想定しておらずさらなる一手が必須。投資面では戦略分野以外での絞り込みが急務だ。
◎「やれることは効率化と投資選別しかない」?
「『戦略投資は絶対に削れない』(杉森務会長)以上、やれることは効率化と投資選別しかない」という分析には賛成できない。少なくとも「株主還元」を減らす手はある。
「株主還元」に関しては最初の段落で「積極還元の方針にも響きかねない」とも書いている。なのに「株主還元」が減る可能性に関しては第2段落以降で触れていない。ここも気になった。
さらに言えば「積極還元の方針」があるのかどうかも疑問だ。「株主還元額は3年で計3000億円程度と前期までの3年間と同水準を計画」しているらしい。「同水準」なのに「積極還元」なのか。
さらについでに言うと「これまで国内の製油所・製造所を統廃合してきたもののコロナ危機を想定しておらずさらなる一手が必須」というくだりは「しておらずさらなる」と平仮名が続いて読みにくい。「コロナ危機を想定しておらず、さらなる一手が必須」と読点を打ってほしかった。
※今回取り上げた記事「ENEOS難局 シェルに重なる~原油需要減、稼ぐ力が低下 『積極還元』に影響も」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200704&ng=DGKKZO61162020T00C20A7DTA000
※記事の評価はC(平均的)。武田健太郎記者への評価はD(問題あり)からCへ引き上げる。武田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。
デサントは「巨大市場に挑まない」? 日経ビジネスの騙し
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_11.html
「人生100年」に無理がある日経ビジネス「幸せ100歳達成法」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/100100.html
年金支給開始85歳でも「幸せ」? 日経ビジネス「幸せ100歳達成法」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/85-100.html
今世紀中は高齢者が急増? 日経ビジネス「幸せ100歳達成法」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/100_7.html
「高齢者人口が急増」に関する日経ビジネスの回答に注文
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_8.html
問題多い日経ビジネス武田健太郎記者のロボアド記事
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_15.html
武田健太郎記者のロボアド記事に関する日経ビジネスの回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_18.html
記事批判内容をよむ限りで、評価がCというのは平仄が合わない。また武田記者の評価をDからCにひきあげるのはまして腑に落ちない。
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