2020年6月10日水曜日

「低下」の分析が雑な日経社説「出生率低下に危機感もっと」

10日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「出生率低下に危機感もっと」という社説には納得できなかった。中身を見ながら具体的に指摘したい。
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        ※写真と本文は無関係です

【日経の社説】

若い世代からのSOSと受け止めるべきだ。ひとりの女性が生涯に産む子どもの数にあたる合計特殊出生率が2019年、1.36に下がった。低下は4年連続で、07年以来の低水準だ。

国が17年に出した人口推計では、19年の合計特殊出生率は1.42と見込まれていた。少子化に歯止めはかかっていない。

少子化の最大の要因となっているのは、未婚化、晩婚化だ。結婚するか、子どもを持つかはもちろんそれぞれの選択だ。だが経済基盤が安定しなければ、希望があってもかなえることは難しい。1993年からの10年あまりは、団塊ジュニア世代らが就職氷河期の直撃を受けた。

今は新型コロナウイルス流行拡大による影響が懸念される。通年採用や中途採用などによる採用機会の拡大、非正規から正社員への転換など、若い世代が安定雇用を得るチャンスを増やしたい。実効性のある職業訓練なども大切だ。



◎低下の分析になってる?

出生率は2015年まで回復傾向だったのに、16年から「4年連続」で低下した。この要因を探るためには、その辺りから何が変わったかを考える必要がある。

子どもを持つかはもちろんそれぞれの選択だ。だが経済基盤が安定しなければ、希望があってもかなえることは難しい」と社説は説く。順調だった日本経済の状態が15年頃から悪化に転じたのならば、この解説にうなずける。しかし経済状況に大きな問題はなかった。なのになぜ「低下は4年連続」となったのか。

その答えを見つけないまま「今は新型コロナウイルス流行拡大による影響が懸念される」と逃げてしまう。「19年の合計特殊出生率」に「新型コロナウイルス流行拡大による影響」はない。

社説の続きを見ていこう。

【日経の社説】

共働きを前提とした支援も、経済基盤の安定につながる。安心して子どもを預けられる保育サービスを増やすとともに、働く場所、時間を柔軟にするといった働き方改革が欠かせない

あわせて大事なのは、家事・育児を夫婦ともに担うことだ。女性に負担が偏ったままでは、両立は難しい。日本は先進国のなかで飛び抜けて、男女の分担格差が大きい国だ。新しい働き方とともに新しい暮らし方を定着させたい。


◎思考停止に陥っているような…

安心して子どもを預けられる保育サービスを増やす」と出生率が上向くのならば、かなり効果が出ていてもおかしくない。日経も6日の朝刊1面の記事で「政府や自治体は保育所の整備、教育の無償化などで少子化対策に力を入れてきたが、実を結んでいない」と言い切っている。「実を結んでいない」対策をさらに推し進めるべきなのか。

大事なのは、家事・育児を夫婦ともに担うことだ。女性に負担が偏ったままでは、両立は難しい。日本は先進国のなかで飛び抜けて、男女の分担格差が大きい国だ」という分析も解せない。「だから先進国の中で日本が飛び抜けて出生率が低い」となるのならば分かる。だが、「先進国 出生率軒並み低下」という6日付の日経の記事によると日本はフィンランドと同水準。フィンランドは「家事・育児を夫婦ともに担う」イメージがあるが、なぜ出生率は低いのか。しかも低下傾向だ。

こうした問題に関して山田昌弘氏は「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか」という本の中で以下のように述べている。

【本の引用】

保育所が不足していようが、育児休業がなかろうが、夫が家事・育児を手伝わなかろうが、2005年くらいまでは、既婚女性は平均2人、子供を産み育ててきたのである。

一方で、たとえ保育所を増やし、育児休業制度を作り、夫が家事を手伝うようになっても、「結婚していない女性」にとっては何の関係もない。

夫婦が持つ子ども数、つまり出生率が低下してきたのは、2010年以降、保育所を整え、育児休業制度が整備され、夫の家事参加が推奨されて以降なのは、皮肉な現象だと思う。(これは、赤川学・東大教授が述べるように、出産支援政策によって、かえって「子育て期待水準」が上昇してしまったという考察が当たっている可能性が高い。

◇   ◇   ◇

社説を最後まで見ていこう。

【日経の社説】

これらの課題は長年、繰り返し指摘されてきた。だが十分な手立てがないまま、時間ばかり過ぎた。少子化は社会や経済の活力を奪い、社会保障の維持も難しくする。もはや一刻の猶予もない。

政府は5月に25年までの少子化大綱を策定した。そのなかで強調したのは、若い世代が希望通りに子どもを持てる「希望出生率1.8」の実現だ。コロナ禍で将来への不安は高まっている。政府は強い危機感を持って改革に取り組み、希望を阻む壁をなくしていかねばならない。


◎やはり少子化は放置でいい

元々、自分は少子化放置論者だ。理由は単純で「世界にも日本にも人間が多過ぎる」と感じるからだ。今回の「コロナ禍」でも、その思いは強くなった。人が少なくなれば「コロナ禍」のダメージを小さくしやすい。

少子化は社会や経済の活力を奪い、社会保障の維持も難しくする」という日経のような主張には共感できない。「経済の活力」や「社会保障の維持」のためと言われると、子供を道具として見ているような印象を受ける。

自分が子供の頃に比べると、今は子供が大事にされていると感じる。「少子化」の効果でもあるだろう。生まれてきた子供を大事に育てていけば、それでいい。出生数や出生率を目標にはしたくない。やはり少子化は放置でいい。


※今回取り上げた社説「出生率低下に危機感もっと
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200610&ng=DGKKZO60156220Z00C20A6EA1000


※社説の評価はD(問題あり)

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