2019年3月12日火曜日

「サントリー 紅茶飲料に参入」に無理あり 日経ビジネス 長江優子記者

例えば、アパレルメーカーのA社がBというブランドで婦人服を手掛けているとしよう。新たにCという婦人服ブランドを立ち上げる時に「A社はCというブランドで婦人服市場に参入する」と言うだろうか。個人的には、誤った説明だと感じる。
復旧した花月川橋梁(大分県日田市)
         ※写真と本文は無関係です

「10の婦人服ブランド持てば、一度も撤退を経験していなくても『10回目の婦人服市場参入』になる」と理解する人はまれだろう。

日経ビジネス3月11日号の「時事深層 COMPANY~サントリーが『ボス』ブランドで紅茶飲料を売る理由」という記事では、冒頭で「サントリー食品インターナショナルが缶コーヒーブランド『BOSS(ボス)』で紅茶飲料市場に参入する」と記している。しかし、同社は「リプトン」のブランドでも「紅茶飲料」を手掛けてきた。それでも「紅茶飲料市場に参入する」と言えるのか。

この点を問い合わせてみたので、回答と併せて内容を紹介したい。

【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 長江優子様

3月11日号の「時事深層 COMPANY~サントリーが『ボス』ブランドで紅茶飲料を売る理由」という記事についてお尋ねします。冒頭で長江様は「サントリー食品インターナショナルが缶コーヒーブランド『BOSS(ボス)』で紅茶飲料市場に参入する」と記しています。だとすれば、「サントリー食品インターナショナル」はこれまで「紅茶飲料」を手掛けていなかったはずです。

しかし、記事を読み進めると「サントリー食品は米蘭ユニリーバが手掛ける紅茶ブランド『リプトン』のペットボトル製品をライセンス契約している。にもかかわらずなぜ、缶コーヒーブランドのボスで紅茶市場に参入するのか」と出てきます。こちらを信じれば「リプトン」のブランドで既に「紅茶飲料市場に参入」済みです。サントリーのホームページで「ソフトドリンク一覧」の中から「紅茶飲料」の項目を開くと「クラフトボスTEA」とともに「リプトン」の商品が表示されます。

サントリー食品インターナショナル」の過去のニュースリリースでは「ユニリーバ・ジャパンとサントリーは、2000年9月に紅茶ブランド『リプトン』について、両社が商品開発からマーケティングまで共同して推進することで基本合意しており、現在、サントリー食品インターナショナルが、日本における『リプトン』ブランドの缶・PET容器入り紅茶飲料を製造販売しています」と説明しています。

これで「紅茶飲料市場に参入」していないと見なすのは無理があります。「サントリー食品インターナショナルが缶コーヒーブランド『BOSS(ボス)』で紅茶飲料市場に参入する」との説明は誤りではありませんか。

付け加えると、上記のくだりに続く「柳井常務執行役員は『コーヒーだけではカバーできていなかった顧客を取り込みたい。それにはボスの認知度を生かすことが近道だと考えた』と話す」との説明も腑に落ちません。これでは「紅茶飲料は『リプトン』だけではなぜダメなのか」の理由になっていません。

まず「コーヒーだけではカバーできていなかった顧客(例えば、コーヒーは嫌いだが紅茶は好きという顧客)」は「リプトン」でも「カバー」できます。そもそも「コーヒーだけ」という前提が解せません。これまでも「リプトン」の「紅茶飲料」はあったのです。

ボスの認知度を生かすことが近道」という説明も引っかかります。「ボスの認知度」が低いとは言いませんが「紅茶飲料」で言えば「リプトン」の方が上でしょう。少なくとも圧倒的に下ではないはずです。なのになぜ「ボスの認知度を生かすことが近道」と言えるのですか。

例えば「コーヒーは飲むが紅茶は馴染みがないという顧客にもアピールしたかった。それにはボスの認知度を生かすことが近道だと考えた」となっていれば納得できます。記事では「柳井常務執行役員」の発言をそのままコメントとして使っているのでしょうが、長江様は取材していて何も疑問を感じませんでしたか。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。


【日経BP社の回答】

日経ビジネスをご購読頂きまして誠にありがとうございます。メールでご指摘頂いた点につきまして、お答えさせていただきます。

記事のリードや本文では「ボスで紅茶飲料市場に参入」と記しました。サントリー食品が「リプトン」ブランドを扱っているのは、ご指摘の通りです。ただし同社が「BOSS(ボス)」というブランドを冠した紅茶飲料を市場に投入するのは、これが初めてです。そうした意味から、このような表現を用いました。

内容としては以上の通りですが、誤解を受ける可能性を少なくするため、より丁寧に説明するべきだったと考えております。真摯に受け止め、今後はより正確な表現になるよう心がけたいと思います。ご指摘ありがとうございました。

◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「時事深層 COMPANY~サントリーが『ボス』ブランドで紅茶飲料を売る理由
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00071/


※記事の評価はD(問題あり)。長江優子記者への評価はDを据え置く。長江記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「日本ワインも需要増に追いつかず」が怪しい日経ビジネス
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_26.html

「オリオン買収」に関する日経ビジネス長江優子記者の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_7.html

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