2019年2月28日木曜日

ネタ切れ? 日経「Neo economy 進化する経済(4)」の苦しい中身

書くことがなくなってきたのか。28日の日本経済新聞朝刊1面に載った「Neo economy進化する経済(4)役所仕事、1400年分削減 『可処分時間』の争奪戦」という記事は苦しい内容だった。特に最初の「エストニア」の話は問題が多い。そこを見ていこう。
旧出島神学校(長崎市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

北欧エストニアの首都タリンのスーパー。会社員のカトリンさん(40)は手に持つスキャナーでパンや飲料のバーコードを読み取りかばんに入れた。セルフレジでカード決済し、買い物はわずか2分で終了。「以前はレジで待たされた。今は買い物が気楽になった」

政府の電子化を急ぐ同国では税の申告から処方箋の発行まで公的手続きの99%がオンラインで済む。その結果、1人当たり年間で平均2週間分の時間の余裕が生まれた。不要になった役所仕事を試算すると、のべ1400年分だという



◎関係ある?

スーパー」の「セルフレジでカード決済」する話と「政府の電子化」は何の関係があるのか。「オンライン」化で共通すると言いたいのかもしれないが、「カード決済」を「オンラインで済む」取引と見るならば、それは「セルフレジ」導入前から実現しているのではないか。

数字の見せ方も雑だ。「1人当たり年間で平均2週間分の時間の余裕が生まれた」という「1人当たり」は「国民1人当たり」なのか、それとも「公務員1人当たり」なのか。特に断りがないので「国民1人当たり」かなと思うが、直後に「不要になった役所仕事を試算すると」と出てくるので「公務員1人当たり」の線も残る。これでは困る。

不要になった役所仕事を試算すると、のべ1400年分」という説明も謎だらけだ。例えば「2001年以降に不要になった役所仕事の合計は、公務員の総労働時間(2018年)の1400年分に当たる」と書いてあれば、状況を飲み込める。しかし、この例文に入れた情報の多くは自分が適当に差し込んだものだ。

経済記事はデータが重要だが、説明が不十分だと役に立たないし、読者を迷わせる。取材班のメンバーはその点をしっかり自覚してほしい。

記事の続きも見ておこう。

【日経の記事】

どんな人でも等しく、1日の時間は24時間。だがIT(情報技術)化は生産性を高め、17年までの半世紀で先進国の1人当たり労働時間は11%短くなった。「24時間の壁」を破れないか。世界では新たな価値を生む「可処分時間」を増やし、奪い合う動きが広がる。

みずほ銀行は18年8月、JR東日本のICカード乗車券「スイカ」に銀行口座から直接チャージできるサービスを始めた。利用した会社員の田中秀明さん(45)は「駅で30秒かかっていたチャージが一瞬ですむようになった」と喜ぶ。

東京都の映像クリエーターの瀬川三十七氏(30)は2台のパソコンに向かい、「1秒でも長くユーザーをつなぎ留めたい」という顧客の注文に応えるための作業を進める。作っているのは浮世絵の登場人物が奇妙な動きを繰り返す6秒の動画。英アパレル大手が18年にネット広告に採用した。

ちょうど中国発の動画投稿アプリ「TikTok」が15秒の再生時間で世界的な人気を集めていた。「企業がユーザーに入り込もうとする時間の隙間は分単位から秒単位に小さくなっている」(瀬川氏)。細切れのわずかな時間が経済活動を生み出す源泉になる。

シンガポールの銀行最大手、DBSグループ・ホールディングスは個人口座を90秒で開設できるサービスを16年にインドで始めた。2年で口座数は200万超に。「隙間時間の取引への適応が事業の未来をつくる」。最高経営責任者のピユシュ・グプタ氏は語る。



◎「24時間の壁」はどうなった?

「『24時間の壁』を破れないか」と書いてあるので、「」を破ろうとする動きを紹介するのかと期待してしまった。しかし、そんな話はいくら読み進めても出てこない。話を大きく見せたいのは分かるが、期待に応える気がないなら単なる騙しだ。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)※写真と本文は無関係

出てくるのは「『スイカ』に銀行口座から直接チャージできる」といった地味な話ばかり。「24時間の壁」を破るような動きではない。そもそも「チャージが一瞬ですむ」のか。「チャージ」する金額を入力するといった作業だけでも数十秒はかかりそうだ。少なくとも自分は「一瞬」ではできそうもない。

ここまで来たら最後まで見ておこう。

【日経の記事】

商品やサービスの普及までの時間軸は極端に短くなった。金融アドバイザーのブレット・キング氏によると、電話は5千万人の利用者を獲得するまで登場から50年かかったが、ツイッターは2年だったという。競争は加速し、株式市場では高速取引業者が瞬時に大量の売買をこなすため、ナノ(10億分の1)秒を削る競い合いを繰り広げる

18世紀、アダム・スミスは「国富論」で国民が消費できるモノの量を豊かさだととらえた。生活必需品にも事欠く、モノ不足の時代だったからだ。そして現在。豊かさの尺度はモノから時間へと移った

ドイツの作家ミヒャエル・エンデは「モモ」で、時間泥棒から時間を取り戻す少女の物語を描き、時間とは生きることそのものだと語りかけた。経済や技術の進歩で増える「可処分時間」をいかに自分らしく生き、豊かさに変えていくかを考えるときを迎えている。



◎脱線してない?

商品やサービスの普及までの時間軸は極端に短くなった」という話は「可処分時間」という今回のテーマからはズレている。「株式市場では高速取引業者が瞬時に大量の売買をこなすため、ナノ(10億分の1)秒を削る競い合いを繰り広げる」との説明に至っては「商品やサービスの普及までの時間軸」の話からも脱線している。

ついでに言うと「豊かさの尺度はモノから時間へと移った」との説明には同意できない。「豊かさの尺度」が「時間」ならば、資産をほとんど持たず月10万円の年金を頼りに六畳一間のアパートで暮らす老人は、豪邸に住んで高級自動車を乗り回す年俸10億円のスポーツ選手よりも「豊か」なはずだ。しかし、「どちらが豊かか」と問われれば、圧倒的多数が後者と答えるだろう。


※今回取り上げた記事「Neo economy進化する経済(4)役所仕事、1400年分削減 『可処分時間』の争奪戦
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190228&ng=DGKKZO41733960V20C19A2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。

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