2019年2月7日木曜日

「オリオン買収」に関する日経ビジネス長江優子記者の誤解

日経ビジネス2月4日号の「時事深層 INDUSTRY~野村とカーライルがTOBで傘下に オリオン買収、アサヒは乗らず」という記事で、「オリオン買収」に絡めて「今回のTOBはファンドが日本の中小の経営に手を出す先駆けとみることもできる」と筆者の長江優子記者は結論付けている。しかし「先駆けとみること」はできない気がする。

鏡山(大分県玖珠町)※写真と本文は無関係
この件に関する問い合わせと回答は以下の通り。

【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 長江優子様

2月4日号の「時事深層 INDUSTRY~野村とカーライルがTOBで傘下に オリオン買収、アサヒは乗らず」という記事についてお尋ねします。記事では「国内ビール5位のオリオンビールが野村ホールディングスと米カーライル・グループに買収されることが決まった」ことを受けて「今回のTOBはファンドが日本の中小の経営に手を出す先駆けとみることもできる」と解説しています。

オリオンの2018年3月期の売上高は283億円」なので「中小」に分類するのは厳しい気もしますが、長江様の見解に従って「中小」だとしましょう。この場合「カーライル」自身が既に「日本の中小の経営」に手を出した実績があります。2003年のキトー買収です。03年3月期のキトーの売上高が200億円をやや超える程度なので、「オリオン」が「中小」ならばキトーも「中小」に入るはずです。03年の時点で「カーライル」自ら「日本の中小の経営」に手を出していたのに「今回のTOB」を「ファンドが日本の中小の経営に手を出す先駆けとみる」のは無理がありませんか。

他にも「ファンドが日本の中小の経営に手を出す」動きは珍しくありません。日本大百科全書(ニッポニカ)では「中小企業再生ファンド」に関して「2012年から2013年初頭にかけ、全国で中小企業再生ファンドの設立ラッシュとなり、新規ファンド額は2012年度だけで1000億円を超えている」と説明しています。

これらを考え合わせると「(オリオンに対する)今回のTOBはファンドが日本の中小の経営に手を出す先駆けとみることもできる」との説明は誤りではありませんか。

他にも疑問に感じた点を挙げておきます。

(1)「オリオンは経営の立て直しが必要」ですか?

オリオン」に関して「規模は小さいが、沖縄県内で高シェアを保つ。営業利益率は10.75%と高く、国内大手メーカーが買収してもよさそうだ」と長江様は説明しています。ここからは「経営面で大きな問題はない」と読み取れます。

しかし、その後に「アサヒの幹部は『オリオンは経営の立て直しが必要』と終始、距離を置いていた」と出てきます。こちらを信じれば、「オリオンは経営の立て直しが必要」な追い詰められた状況です。「営業利益率は10.75%」ならば安泰とは言いません。ただ、「立て直しが必要」なほど経営状況が悪いのならば、それが分かるような材料を読者に提示すべきでしょう。

(2)「協力」には出資が必須ですか?

記事には「2002年の提携以降、アサヒはオリオンに社員を出向させ、販売支援だけでなく製造開発で技術を供与。今回、アサヒが株式を持ち続けるのも『アサヒが抜けたらオリオンは商品を作れなくなる』(アサヒ幹部)からだという」との記述があります。ここには2つの疑問を感じます。

アサヒが抜けたらオリオンは商品を作れなくなる」から「アサヒが株式を持ち続ける」のだとしたら「アサヒには何のメリットもないのに、オリオンが商品を作り続けられるように株式保有を続ける」とも考えられます。上場企業として褒められたやり方ではありません。アサヒは本当に慈善事業のような感覚でオリオンの株式を保有しているのでしょうか。記事からはそう判断できますが、常識的にはあり得ない気がします。

さらに言えば「アサヒが抜けたらオリオンは商品を作れなくなる」としても「アサヒが株式を持ち続ける」必要はないはずです。「オリオンに社員を出向させ、販売支援だけでなく製造開発で技術を供与」するのに出資は必須ではありません。業務提携で十分です。

百歩譲って株式保有が欠かせないとしても、出資比率は10%でなくてもいいはずです。アサヒにとって必要のない株式保有ならば出資比率ははるべく低く抑えたいはずです。10%でないとダメな理由があるのでしょうか。あるならば記事中で説明が欲しいところです。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いします。


【日経BP社の回答】

日経ビジネスをご愛読頂き、ありがとうございます。ご質問に回答させていただきます。

今回のスキームに参加している野村ホールディングスは、高齢化社会の進展を受け、事業承継に伴う悩みが増えているとみて、出資を通じたソリューションビジネスを提供する意向を示し、カーライルと手を組みました。このため、ファンドが中小の経営に関与するビジネスが今後本格化する先駆けという意味で記事化しましたが、初めてのことと受け止められ、誤解を生む余地があったかもしれません。真摯に受け止め、その他のご意見も含め、今後の記事の参考にさせて頂きたいと思います。

以上です。引き続き、日経ビジネスをご愛読頂きますよう、お願い申し上げます。

◇   ◇   ◇

回答の内容自体は苦しい。ただ、これでいいと思う。全体を通して、あまり深く考えずに記事を作った印象が強い。「それではダメだ」と長江記者が気付いてくれることを期待したい。


※今回取り上げた記事「時事深層 INDUSTRY~野村とカーライルがTOBで傘下に オリオン買収、アサヒは乗らず
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00024/


※記事の評価はD(問題あり)。長江優子記者への評価はDで確定させる。長江記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「日本ワインも需要増に追いつかず」が怪しい日経ビジネス
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_26.html

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