2019年2月24日日曜日

「総総分離論」でも自説なしの日経 大場俊介政治部次長

日本経済新聞の大場俊介 政治部次長に関しては「訴えたいことのない書き手」と評してきた。24日の朝刊総合3面に載った「風見鶏~外交からの『総総分離』論」という記事でも、その傾向は変わっていない。記事の全文を見た上で問題点を指摘したい。
杵築城(大分県杵築市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

「総総分離という手がある」。自民党内で浮上している安倍晋三首相の党総裁4選論に、首相の外交ブレーンの一人はこう返す。

 「総総分離」は総理(首相)と総裁を別の人物が務める手法だ。自民党内でたびたび持ち上がったことがあるが、一度も実現したことはない。一歩手前までいったのは1982年10月に鈴木善幸首相が退陣表明したときの後継選びだ。

鈴木、田中、中曽根の主流派は話し合いで「中曽根康弘総理・総裁」の選出をめざしたが、非主流派の福田、河本、中川の各派は難色を示した。鈴木氏と田中派の二階堂進幹事長、福田赳夫元首相の3人に調整が委ねられたが難航し、告示日を迎えた総裁選には中曽根、河本敏夫、安倍晋太郎、中川一郎の4氏が立候補した。

選挙活動を凍結して調整を続けた最終段階で突如、浮上したのが「中曽根総理・福田総裁」の総総分離案だった。河本氏ら3候補は受け入れたが、田中角栄元首相が支援する中曽根氏は拒否し、総裁公選に突入し、中曽根氏が大勝した。

総総分離論が取り沙汰されたのは主流派と非主流派の抗争を収める一つの知恵だった。いまさら古色蒼然(そうぜん)たるこの手法が浮上するのはなぜか。

大きな理由は外交だ。

首相と距離のある議員ですら「安倍首相が会いたいと言えばどこの首脳も断らないだろう。長期政権の最大の強みだ」と語る。安倍首相は主要7カ国(G7)の首脳のなかでドイツのメルケル首相の次に在任期間が長い。

安倍首相が平和条約交渉を加速させるロシアのプーチン大統領は昨年3月に通算4選を決め、任期は24年5月までとなった。トランプ米大統領も来年の大統領選で再選すれば、任期は25年1月まで延びる。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は2期10年までだった任期を撤廃した。

首脳間の個人的関係が影響する外交は長期政権が有利だ。プーチン氏との領土交渉では安倍首相のいまの総裁任期があと2年半余りで切れることから「足元をみられる」との指摘がある。仮に首相が総裁4選すれば任期は24年9月までと逆転する。

プーチン氏が北方四島に在日米軍が基地を建設するのではないかと懸念していることも領土交渉の障害になっている。これを払拭するためにも安倍首相とトランプ氏との蜜月関係に期待する向きは多い。

とはいえ現状では総裁4選の現実味は乏しい。自民党は連続2期までと定めていた総裁任期に関する党則を連続3期までに変えたばかりだ。いま60歳代の「ポスト安倍」の有力者らはあと5年たてば70歳をうかがう年齢になる。

そこで安倍氏が首相は続投し、総裁は別の誰かが務めればよいというのが、外交面からの総総分離論だ。

だが難点も多い。多数党の党首が首相になる議院内閣制の趣旨からも、総理と総裁はもともと密接不可分なものだ。

ほかにも安倍首相が日ロ交渉や北朝鮮の拉致問題などの「戦後外交の総決算」に引き続き取り組む手はある。安倍首相は第1次政権後、5年余りの歳月を経て首相の座に返り咲いた。プーチン氏もかつてメドベージェフ氏に大統領を譲り、4年後に再登板した。

「私とプーチン大統領で終止符を打つ」と領土問題で首相は意気込む。「安倍1強」を脅かす勢力は今のところ自民党内にも野党にも見あたらない。ならば外交は安倍氏に任せればよい――。これが外交ブレーンが語る、総総分離論の背景だ


◎結局、何を訴えたい?

首相の外交ブレーンの一人」が「外交」を理由に「総総分離論」を唱えてます--。この記事は簡単に言えば、それだけの話だ。署名入りでコラムを書くのならば「総総分離」に関して大場次長がどう見ているのかが肝だ。なのにそこをごっそり省いて、自らの主張はほぼ出していない。「鈴木善幸首相が退陣表明したときの後継選び」の細かい経緯はなくていい。代わりに以下の要素を入れてほしかった。
大分県立日田林工高校(日田市)※写真と本文は無関係

(1)「総総分離」の実現可能性は?

現状では総裁4選の現実味は乏しい」と大場次長は言う。ならば「総総分離」による首相続投の「現実味」はどうなのか。「いま60歳代の「ポスト安倍」の有力者ら」の中に「総総分離」を受け入れてくれそうな人物はいるのか。その辺りは気になるが、大場次長は何も教えてくれない。


(2)「総総分離」には賛成? 反対?

そもそも大場次長は「総総分離」に賛成なのか。「難点も多い」とは書いているが、賛成なのか反対なのか判然としない。そこは明確にしてほしい。


(3)領土問題は「2年半」では決着しない?

安倍首相」の「総裁任期」は「あと2年半余り」ある。この間に「領土問題」は解決しそうにないが、「総総分離」によってさらに長く首相を務められるようにすれば、解決の可能性が高まるとの前提を「外交ブレーン」の「総総分離論」には感じる。

この前提をどう見るのかを大場次長には論じてほしかった。個人的には、「2年半余り」の時間があっても解決しそうもないのに、さらに期間を延ばすと「いけるかも」と思うのは楽観的過ぎる気がする。

ついでに、記事で気になった点を2つ指摘したい。

◎「どこの首脳も断らない」?

まず「首相と距離のある議員ですら『安倍首相が会いたいと言えばどこの首脳も断らないだろう。長期政権の最大の強みだ』と語る」という説明が引っかかる。

安倍首相が会いたいと言えばどこの首脳も断らないだろう」との見方は妥当なのか。「首相『拉致解決する決意』 日朝会談に意欲」という2018年6月10日付の日経の記事では「安倍晋三首相は9日の主要国首脳会議(シャルルボワ・サミット)後の記者会見で、日朝首脳会談を実施して日本人拉致問題を解決することに改めて意欲を示した。『日本と北朝鮮の間で直接協議し解決する決意だ』と述べた」と報じている。

しかし、半年以上が経過しても「日朝首脳会談」は実現していない。そういう状況下で「安倍首相が会いたいと言えばどこの首脳も断らないだろう」というコメントを使うのは適切なのか。あるいは「日朝首脳会談」は実現間近で、それを「首相と距離のある議員」や大場次長は知っているということか。


◎そんな「趣旨」ある?

多数党の党首が首相になる議院内閣制の趣旨からも、総理と総裁はもともと密接不可分なものだ」と大場次長は書いている。これに関しては「そんな『趣旨』ある?」と感じた。

議院内閣制」とは「政府(内閣)の存立が議会の信任を必須要件としている制度」(大辞林)だ。「議会の信任」が得られれば「党首が首相」である必要はないし、「制度」の「趣旨」にも反していないと思える。

今回の記事にも出てくる「ドイツのメルケル首相」は「党首」を辞任した後も首相を続けているが、これは「議院内閣制の趣旨」に反するのか。


※今回取り上げた記事「風見鶏~外交からの『総総分離』論
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190224&ng=DGKKZO41625150S9A220C1EA3000


※記事の評価はD(問題あり)。大場俊介政治部次長への評価はDを維持する。大場次長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

行数埋めただけの 日経 大場俊介次長「風見鶏~清和会がつなぐ人口問題」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_13.html

「訴えたいことがない」のが辛い日経 大場俊介政治部次長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_9.html

0 件のコメント:

コメントを投稿