2019年2月17日日曜日

日経ビジネスに問う「知的障害者は家庭では必要とされない?」

日経ビジネス2月18日号の特集「どこにある? ベストな人生」は問題が多かった。企画の方向性自体は悪くないが、これだけ粗が目立つと高い評価は与えられない。
山地獄(大分県別府市)※写真と本文は無関係です

筆者らには以下の内容で問い合わせを送った。

【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 北西厚一様 佐伯真也様 武田健太郎様 広田望様 古川湧様

2月18日号の特集「どこにある? ベストな人生」の中の「PART3~『感動チョーク工場』に学ぶ仕事の幸福感を増やす方法」という記事についてお尋ねします。記事では「日本理化学工業」の「大山泰弘会長」が「住職」から聞いた話を以下のように紹介しています。

人間の究極の幸せは、『(1)愛されること、(2)褒められること、(3)役立つこと、(4)必要とされること』。施設や家庭でできるのは(1)だけで、(2)や(3)や(4)は働くことでしか得られない

これが全ての人に当てはまる話なのか、「日本理化学工業」で働く「知的障害者」に限定した話なのか微妙ですが、狭く考えて「知的障害者」に関するものだとしましょう。

だとしても「施設や家庭でできるのは(1)だけで、(2)や(3)や(4)は働くことでしか得られない」とは思えません。「知的障害者」は家庭で家事を手伝ったりしても「褒められること」も「役立つこと」もないのでしょうか。「愛される」存在であれば、それだけで「必要とされ」そうです。なのに「家庭」では決して「必要とされること」がないのでしょうか。答えは明らかです。しかし記事では「大山泰弘会長」だけでなく筆者も「住職」の話をありがたく受け入れてしまっています。

施設や家庭でできるのは(1)だけで、(2)や(3)や(4)は働くことでしか得られない」という説明は誤りではありませんか。また、今回のような偏見に満ちた誤った考え方を無批判に紹介するのは、「知的障害者」とその家族、さらには「知的障害者」を支える施設の関係者に対して配慮に欠けると思えますが、いかがでしょうか。

ついでで恐縮ですが、特集の中の「PROLOGUE~同窓会行かない症候群 原因は『昭和の働き方』の破綻」という記事にも注文を付けさせていただきます。記事ではまず「全国の同窓会で中高年参加者が伸び悩む現象が起きている」と記しています。これを信じれば「参加者の増加は続いているが、増加率は鈍化傾向」となっているはずです。しかし、記事にはこれを裏付けるデータが出てきません。また「伸び悩む(増加の勢いが衰える)」だけならば「同窓会行かない症候群」という話自体が怪しくなってきます。

記事には以下の記述もあります。

同窓会幹事代行サービスを手掛ける笑屋(東京・千代田、真田幸次代表取締役)によると、日本では現在、『同窓会の小規模化』が進行しているという。同社が20~50代の男女1107人を対象にしたアンケート調査によると、2010年の時点で既に89%の人が『50人以上の同窓会に参加した経験がない』と回答

笑屋」は「『同窓会の小規模化』が進行している」と分析しているだけです。これだと「全国の同窓会で中高年参加者が伸び悩む現象が起きている」かどうかの手掛かりにはなりません。さらに言えば「アンケート調査」は「同窓会の小規模化」の裏付けにもなっていません。「同窓会の大規模化」が起きていても調査結果と矛盾はないからです。

そもそも「調査」自体が9年前のものです。「既に89%の人が~」と書いていますが、その後にこの比率が高まったというデータは示していません。また、「中高年」に限った数字でもありません。「中高年」に関しては、記事の中で上記の話に続いて以下のように説明しています。

特に参加率が低いのが50代で、温泉旅行の予約サービスを運営するゆこゆこホールディングス(東京・中央、池照直樹社長)の調査によると、この世代の参加率は24.8%にとどまるという

記事を素直に読めば「50人以上の同窓会」への「50代」の「参加率は24.8%」と理解したくなります。しかし「20~50代」で「参加した経験」ありは11%しかいないので「24.8%」であれば「特に参加率が低い」とは言えません。

別々の調査を一体であるかのように紹介したため、こうした問題が生じたのでしょう。「ゆこゆこホールディングス」のデータは2016年の「シニアの同窓会に関する調査」から持ってきたと思われます。

この「調査」によると「この1年間の同窓会参加状況」は「50代24.8%、60代42.5%、70代以上62.2%と、高年齢者ほど参加している」ようです。

御誌の記事では調査時期が不明な上に「この1年間」だと示していません。「特に参加率が低いのが50代」と書くと、全世代の中で「50代」が特に低いと理解したくなりますが、この調査では「シニア」のみが対象です。様々な意味で、データの見せ方に問題があります。

なぜこうなったのかは想像できます。「中高年」に「同窓会行かない症候群」が広がっているとの仮説を立てて、それを裏付けるデータを探したのでしょう。しかし適当なデータは見つけられなかった。だから、いくつかのデータを強引に並べて、それらしく書いてしまった。そんなところではありませんか。気持ちは分かりますが、お薦めしません。

「きちんとした説得力のある記事を読者に届けたい」との気持ちを持っているならば、この手のごまかしからは距離を置くべきです。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。

◇   ◇   ◇

回答に関しては以下の投稿を参照してほしい。

「知的障害者は家庭では必要とされない?」に日経ビジネスが回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_21.html

※今回取り上げた記事

PART3~『感動チョーク工場』に学ぶ仕事の幸福感を増やす方法
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00037/

PROLOGUE~同窓会行かない症候群 原因は『昭和の働き方』の破綻
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00034/


※記事の評価はいずれもD(問題あり)。担当者らの評価は以下の通りとする(敬称略)。

北西厚一(暫定D→D)
佐伯真也(暫定D→D)
武田健太郎(Dを維持)
広田望(暫定D→D)
古川湧(暫定C→暫定D)

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