2019年2月13日水曜日

大腸内視鏡検査を「有用」と断言する井手ゆきえ氏の誤解

医学ライターの井手ゆきえ氏は「信じてはいけない書き手」と言えそうだ。週刊ダイヤモンド2月16日号に載った「カラダご医見番 ライフスタイル編 Number 434~陰性だったら次は10年後 大腸内視鏡検査の間隔」という記事には様々な問題を感じた。記事の全文を見た上で具体的に指摘したい。
平和公園(長崎市)※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

受けたくない検査の一つに大腸内視鏡検査がある。

事前の食事制限や下剤の服用のほか、検査時に鎮静剤を使うので、検査後の自動車運転が禁じられるなどわずらわしい。

さらに、頻度はまれだが検査に伴う“偶発症”として、出血や腸管穿孔(腸に穴が開くこと)、激しい腹痛などのリスクのほか、検査時の投薬による死亡例も報告されている。早期発見のためとはいえ、偶発症リスクに何度も曝されるのは勘弁してほしいものだ。どの程度の間隔で大腸内視鏡検査を受けるべきなのだろう。

先日、米国の保健維持組織の一つ「KPNC」から、この疑問に答える調査の結果が報告された。

同調査は、1998~2015年の利用者のうち、平均的大腸がんリスクを有する50~75歳の125万1318人(男女比は1対1、平均年齢55.6歳)が対象。大腸内視鏡検査で陰性とされた1万7253人(陰性群)と、非検査群25万9373人とで、大腸がんの発症と関連死を追跡した。

ちなみに、平均的な大腸がんリスクとは、50歳以上、腸管の良性腫瘍やポリープ、炎症性腸疾患の既往なし、大腸がんの家族歴がない、である。

追跡1年後、大腸がんの発症率は陰性群で、10万人・年当たり16.6、10年後は同133.2だった。一方、非検査群の追跡1年後の発症率は同62.9、12年以上で同224.8だった。

米国の診療ガイドラインでは、大腸内視鏡検査の結果が陰性だった場合、検査間隔を10年としている。その10年で区切って解析した結果、陰性群の大腸がん発症リスクは非検査群に対し46%、関連死リスクは88%低下していた

つまり、大腸内視鏡検査は死亡リスクを下げるという意味で有用であり、検査結果が陰性だった場合は、少なくとも10年間は非検査群より安心できるわけだ。

がん化リスクが低い腺腫が1、2個ある、という場合もきちんと切除すれば陰性とほぼ同じ。

平均的な大腸がんリスクの持ち主の大腸内視鏡検査は、がん化が疑われる病変が見つからない限り、10年に1回で十分である。

◇   ◇   ◇

(1)エビデンスとしての有効性は?

記事の書き方から推測すると「KPNC」による調査はランダム化比較試験ではなさそうだ。だとすれば、エビデンスとしての有効性は低い。調査結果を記事に使うなとは言わないが、ランダム化比較試験でないならば、その点を明示すべきだ。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)
     ※写真と本文は無関係です

なのに「この疑問に答える調査の結果が報告された」と、決定的なエビデンスが見つかったような書き方をしている。これは感心しない。ランダム化比較試験ではない場合、健康に自信がない人、健康管理が面倒な人が「非検査群」に偏ってしまい、「検査」の影響以外の要因で「発症率」などに差が出てしまいやすい。


(2)「陰性群」と比べて意味ある?

陰性群」と「非検査群」を比べ意味があるのか。「非検査群」には「検査をすれば陽性になる人」が最初から含まれている。これでは、その後の「発症率」が高く出るのは当然だ。ランダム化比較試験にした上で「非検査群」と「検査群」を比べるべきだ。

仮に「非検査群」も「検査群」も10年間で100人中10人が「大腸がん」になるとしよう。最初の検査で陽性(単純化のために「陽性=がん確認」と考える)となるのは5人とする。これを「陰性群」と「非検査群」で比べてしまうと、「陰性群」は95人中5人(約5%)が発症する。一方の「非検査群」は100人中10人(10%)だ。

陰性群」の発症率は「非検査群」の約半分だ。だからと言って「大腸がん」になるリスクを検査が下げてくれているとは言い難い。

ついでに言うと「陰性群の大腸がん発症リスクは非検査群に対し46%、関連死リスクは88%低下していた」というくだりの「低下していた」が引っかかる。「低かった」とすべきだろう。


(3)「死亡リスクを下げる」?

つまり、大腸内視鏡検査は死亡リスクを下げるという意味で有用」と井手氏は断定している。この説明に問題があるのは既に述べてきた通りだ。

付け加えると、「大腸内視鏡検査」に「(大腸がんの)関連死リスク」を下げる効果があるとしても「死亡リスクを下げるという意味で有用」とは言い切れない。「関連死」以外の「死亡リスク」を考慮する必要があるからだ。ここは正確に書いてほしい。

「大腸がん関連で死ぬリスク」を減らせても「大腸がん関連以外で死ぬリスク」で相殺されれば意味がない。そして、がん検診には「がん以外での死亡も含めた総死亡率を下げる効果は確認できない」との研究報告がある。なのに「大腸内視鏡検査は死亡リスクを下げるという意味で有用」と言い切ってしまうのは罪深い。


(4)「10年に1回で十分」?

百歩譲って「大腸内視鏡検査は死亡リスクを下げるという意味で有用」だとしよう。その場合、「10年に1回で十分」と言えるだろうか。井手氏は「非検査群」との比較を基に「10年に1回で十分」と判断したようだ。これは解せない。

「1年に1回」の群は「10年に1回」の群に比べて大幅に「死亡リスク」が低いとしよう。この場合「10年に1回で十分」と考えるべきか。常識的には「1年に1回」を推奨すべきだろう。しかし記事には、こうした比較がない。それで「10年に1回で十分である」と言われても納得できない。


※今回取り上げた記事「カラダご医見番 ライフスタイル編 Number 434~陰性だったら次は10年後 大腸内視鏡検査の間隔
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/25790


※記事の評価はD(問題あり)。井手ゆきえ氏への評価はDで確定とする。井手氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「最大18時間は絶食」で意味通じる?  週刊ダイヤモンドに疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/09/18.html

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