有明海(佐賀県太良町)※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
てんか。1585年、関白となった秀吉は以降、手紙にこう自署したという。乱世をほぼ平定、天皇から国の支配を任されたとの自負がにじむ。しかし、この後の高慢は史書や小説が示す通りだ。野上弥生子「秀吉と利休」はささいな言葉が側近に災いした経緯を描く。
「唐御陣(からごじん)は明智討ちのようにはいくまい」。朝鮮半島への出兵を危ぶむ利休の感想である。漏れ聞いた秀吉は呼びつけて、ただした。「おれを、それほど非力と見ているのだな」。目玉として打ち出した国策への不安とひけめの分、怒りも激しい。「面も見たくない」。権力の座をつかんだ者のおごりがあらわなひと幕だ。
◎「史書や小説が示す通り」?
豊臣秀吉について筆者は「この後の高慢は史書や小説が示す通りだ」と書いている。この説明が正しいのならば「乱世をほぼ平定」した後の「高慢」さを描いた小説は全て史実通りとなる。少なくとも「野上弥生子『秀吉と利休』」は史実から少しも踏み出していないはずだ。
しかし、一般的に言えば歴史小説は史実と創作を織り交ぜたものだ。「この後の高慢は小説が示す通り」と思い込むのは危険な気がする。
小説「秀吉と利休」では「朝鮮半島への出兵」に関する「利休の感想」が「秀吉」の怒りを買ったとの見立てなのだろう。しかし、利休が秀吉に切腹を命じられた理由については「利休の娘に秀吉が横恋慕したからであるとか諸説あって明らかでない」(朝日日本歴史人物事典)という。その辺りを筆者は分かって書いているのか。
ついでに言うと、初出から「秀吉」「利休」としているのも引っかかる。初出を「豊臣秀吉」「千利休」としても、文字数はわずかしか増えない。「利休」については、怒りを買う前の「秀吉」との関係についても多少の説明が欲しい。
ついでに記事の後半にも注文を付けておこう。
【日経の記事】
自民党総裁選があす告示される。安倍晋三首相と石破茂元幹事長の一騎打ちの様相で、8日は討論会も予定されている。現状では、安倍陣営の優位は揺るぎそうにない。先日、5派閥合同で選挙対策本部が発足したと報じられた。圧勝ムードの中、政策論争より内向きの忠義立てや猟官が目立ってしまうようではさびしい。
吉村真晴・石川佳純選手のパネル(東京体育館) ※写真と本文は無関係です |
「3年で雇用と社会保障の改革を進める」。安倍首相は本紙に述べた。これまで放った矢の行方も見えませぬ、とお友達なら諭してもよさそうだが、党内にものを言えない空気が漂っているのだろうか。同調圧力ならば闊達な議論のため除かねばなるまい。来秋の首相在職日数の最長記録がレガシーでは困るのだ。いちい。
◎自分たちはなぜ諭さない?
「これまで放った矢の行方も見えませぬ、とお友達なら諭してもよさそうだが、党内にものを言えない空気が漂っているのだろうか」と書くのならば、まずは日経自身が「これまで放った矢の行方も見えませぬ」と首相に迫るべきだ。
4日の朝刊に載った「首相インタビューの一問一答」(聞き手は丸谷浩史政治部長)での問いは以下のようになっている。
「世論調査で関心の高い社会保障分野でどんな改革を検討しますか」
「後期高齢者には医療費負担増の懸念があります」
「消費税率10%への引き上げは予定通り実施しますか」
「物価2%の目標を達成できなくても『脱デフレ』を宣言する可能性はありますか」
「トランプ政権は日米自由貿易協定(FTA)を求めています」
「外国人労働者の受け入れ拡大策の今後は」
「来年の参院選前に憲法改正を国会で発議する可能性は」
「北朝鮮問題は米朝首脳会談などで急速に動きました」
「これまで放った矢の行方も見えませぬ」とは諭していないし、厳しい質問をぶつけてもいない。首相に「これまで放った矢の行方も見えませぬ」と迫るのは、まさにメディアの役割だ。「党内にものを言えない空気が漂っているのだろうか」などと心配する前に、自らの至らなさを省みるべきだ。
※今回取り上げた記事「春秋:てんか…」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180904&ng=DGKKZO34935000T00C18A9PP8000
※記事の評価はD(問題あり)。過去の「春秋」に関しては以下の投稿も参照してほしい。
シン・ゴジラの「主役」はゴジラ? 日経「春秋」への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_17.html
ネットやスマホは「ここ数年」で普及? 日経「春秋」のお粗末
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/01/blog-post_6.html
「大雪報道は渋谷駅の情報ばかり」と誤解した 日経「春秋」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_27.html
地下鉄サリン事件当日の説明が雑過ぎる日経「春秋」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_64.html
「保育所整備で女性活躍」は「自明の理」? 日経「春秋」の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_59.html
「撃たれても文句言えない」の状況が謎な日経「春秋」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_4.html
「コンビニの生ビール販売」に誤解あり 日経「春秋」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_37.html
「広島には空襲がなかった」と誤解した日経「春秋」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_40.html
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