2018年9月20日木曜日

「労働生産性は先進国最下位」とまた間違えた日経ビジネス

日経ビジネス編集部は失敗に学ばない組織なのだろう。9月17日号の特集「凄い生産性アップ 人を動かす科学と技術」で、日本の労働生産性を「先進国最下位」とまた書いていた。以前にも「G7で最下位=先進国で最下位」ではないと指摘したので、学んでくれたと思ったのだが…。
ベストアメニティスタジアム(佐賀県鳥栖市)
          ※写真と本文は無関係です

そう言えば「持分法適用会社連結対象外」という誤りも、指摘を受けたにもかかわらず繰り返していた。誌面の誤りを共有する仕組みがないか、あっても機能していないはずだ。そんな編集部に属する記者らに「生産性アップ」の手法を説かれてもとは思う。

筆者らには以下の内容で問い合わせを送った。

【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 古川湧様 広田望様 津久井悠太様

9月17日号の特集「凄い生産性アップ 人を動かす科学と技術」の中の
Prologue~社員のやる気は それじゃ湧かない 昇給、昇進、飲み会、運動会……」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

日本生産性本部は17年12月、16年の日本の労働生産性がまたしても主要7カ国(G7)中最下位を記録したと発表した(経済協力開発機構=OECDのデータで日本の時間当たり労働生産性は46ドル)。データが取得可能な1970年以降の46年間、先進国最下位から一度も抜け出せていない

主要7カ国(G7)中最下位」だとしても「先進国最下位」とは言えません。「日本生産性本部」の資料でも、「日本の労働生産性」は先進国の一角をなすニュージーランドを上回っています。

このことは2018年1月22日号の特集「『おもてなし』のウソ」でも指摘しました。「先進国中で最下位──。各種の統計が示すように、日本の産業全体の生産性は極めて低いと指摘されている」との記述に関して、「『先進国中で最下位』とするのは誤りではないかと問い合わせたところ「グラフのタイトルで明示したように、日本の生産性は主要7カ国で最下位で、冒頭リード文で『主要先進国で最下位』と記しましたが、本文中では読者の混乱を招きかねない表現になっていたこと、頂戴したご指摘を踏まえ、今後の編集作業の参考とさせて頂きます」との回答を頂きました。

今回もほぼ同じパターンです。改めて問います。「日本の労働生産性」が「データが取得可能な1970年以降の46年間、先進国最下位から一度も抜け出せていない」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、日本より下位にニュージーランドがいることをどう理解すればよいのか教えてください。

せっかくの機会なので、今回の特集に関する疑問を他にもいくつか挙げてみます。

<今のままではなぜダメなのですか?>

まず「なぜ生産性を上げる必要があるのか」を抜きに「生産性を上げるにはどうすれば良いのか」を論じているのが気になりました。特集では「豊かな日本では、粉骨砕身で働かなくてもそれなりの暮らしが保証される」とも書いています。この見方に同意はしませんが、仮にそうした状態にあるのなら、今のままでも良さそうです。

時間当たり労働生産性」で見れば日本はOECD加盟35ヵ国中20位です。世界全体では上位に入ると推測できます。OECD加盟国中20位だとなぜ問題なのかが知りたいところです。

G7の中では最下位なのでしょうが、日本生産性本部によると日本は「英国(52.7ドル)やカナダ(50.8ドル)をやや下回るあたりに位置している」そうです。つまりG7の中で特に劣後している訳でもありません。

時間当たり労働生産性」が「46ドル」ではなぜダメなのでしょう。そして、どこを目指せば良いのでしょうか。G7で6位ですか。それとも世界1位ですか。あるいは「時間当たり労働生産性で100ドル」ですか。


<説明になっていますか?>

次に以下のくだりを取り上げます

この労働生産性の国際基準をもって『日本の生産性が低い』とするロジックには、専門家から反論が多いのも事実。簡単に言えば、『国際比較で用いる労働生産性の計算式、GDP(国内総生産)÷労働量では、生産性の実態を正確に把握できない』という主張で、『だから日本人の働き方は非効率ではない』との指摘もある

これは説明になっていないと思えます。「国際比較で用いる労働生産性の計算式、GDP(国内総生産)÷労働量では、生産性の実態を正確に把握できない」と言える根拠を「簡単」でもいいので説明しないと、「労働生産性の国際基準」にどんな問題があるのか把握できません。


<「生産性の低さ」を示していますか?>

次は以下の記述です。

ただ、たとえそうだとしても、日本企業の生産性の低さを示す指標は労働生産性だけではない。例えば有給消化率。大手旅行サイト運営の米エクスペディアによる国際調査では、2017年の日本の有給消化率は約50%で、2年連続で世界30カ国中、最下位だった。また、OECDが公開するデータベースによると、日本人の1日の平均労働時間(最新集計値)は363分と調査対象31カ国中最長。男性だけで見れば毎日452分も働いている。働き方改革が叫ばれた後も残業時間は減らず、厚労省の毎月勤労統計によれば、17年は12カ月連続で『所定外労働時間』が前年を上回り続けた。『働き方改革は不発だった』といわれても仕方がない現状だ

生産性」の意味を調べると「生産のために投入される労働・資本などの生産要素が生産に貢献する程度。生産量を生産要素の投入量で割った値で表す」(大辞林)と出てきます。「有給消化率」や「平均労働時間」は「(日本の)生産性の低さを示す指標」とは言えないのではありませんか。

有給消化率」が低くても、「平均労働時間」が長くても、生産性は高くなり得ます。「生産要素の投入量」に対して「生産量」が多ければ良いのです。一方、「有給消化率」が100%で「平均労働時間」が短くても、何も「生産」しなければ「生産性」はゼロです。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。

◇   ◇   ◇

16日(日)に問い合わせを送り「この度お問い合わせいただきました内容について
編集部担当者へ確認中でございます。回答が届き次第ご連絡いたします。恐れ入りますが、今しばらくお待ちくださいますようお願い申し上げます」と返ってきたのが18日(火)。そして20日(木)午後8時の段階で回答はない。

追記)この件の回答は以下の投稿を参照してほしい。

「労働生産性は先進国最下位」に関する日経ビジネスの回答
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_39.html


※今回取り上げた特集「凄い生産性アップ 人を動かす科学と技術
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/special/091101074/?ST=pc

※特集の評価はD(問題あり)。担当者らの評価は以下の通りとする(敬称略)。

古川湧(暫定D)
広田望(暫定C→暫定D)
津久井悠太(暫定D→D)

※2018年1月22日号の特集「『おもてなし』のウソ」に関しては以下の投稿を参照してほしい。

日本の生産性は「先進国中で最下位」? 日経ビジネスに疑問
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_25.html


※「持分法適用会社=連結対象外」の誤りについては以下の投稿を参照してほしい。

33%出資の三菱製紙は「連結対象外」? 日経ビジネスに問う
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/33.html

「33%出資は連結対象外」に関する日経ビジネスの回答
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/33_21.html

「持分法適用会社=連結対象外」は日経ビジネスの癖?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_87.html

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