九州鉄道記念館(北九州市)※写真と本文は無関係です |
エコノミスト編集部には以下の内容で問い合わせを送った。
【エコノミストへの問い合わせ】
週刊エコノミスト編集部 種市房子様 編集長 藤枝克治様
9月25日の特集「商社 7社の野望 7つの不思議」の中の「不思議4 株価が上がらない~株主還元の強化でも市場の成長期待は低く」という記事についてお尋ねします。まず問題としたいのは以下の記述です。
「配当と並ぶ株主還元策である自社株買いについては、各社で対応が異なる。三井物産や伊藤忠は17年度に実施したが、三菱商事は否定的ニュアンスが漂い、未実施だった。自社株買いに否定的なIR(投資家向け広報)担当者の中には『自社株買い期間の値上がり益は、利ざやを稼ぐ短期投資家だけを利することになる。長期投資家の利益になる株主還元策を実施したい』という思いがある。また、自社株買い=株式希薄化よりは、投資や有利子負債返済に回すことによって、株価を上げたいという姿勢も透けて見える」
この中の「自社株買い=株式希薄化」との説明が引っかかります。株式の「希薄化」とは「時価発行増資や新株予約権の行使等による新株発行によって、発行済株式総数が増加し、一株当たり当期純利益等の減少をもたらすこと」(野村証券の証券用語解説集)です。「自社株買い」は増資とは逆に「発行済株式総数」が減少します。故に「希薄化」は起きません。
「自社株買い=株式希薄化」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。誤りの場合、次号で訂正してください。
付け加えると「自社株買い期間の値上がり益は、利ざやを稼ぐ短期投資家だけを利することになる」とのコメントは間違っていると思えます。「自社株買い期間の値上がり」が実現するとの前提に立てば、その恩恵は「長期投資家」にも及びます。10年前に1株100円で投資に踏み切った「長期投資家」がいるとしましょう。10年後に株価は200円になり、さらに「自社株買い期間」に250円まで上昇したところで売却に踏み切りました。この場合「自社株買い期間の値上がり益は、利ざやを稼ぐ短期投資家だけを利することになる」でしょうか。
また、全体的に記事が冗長です。上記のくだりに関して改善案を示してみます。同一文中で「実施」を繰り返している点なども直しています。情報の内容自体は変わらないはずです。どちらが簡潔に書けているか比べてみてください。
「配当と並ぶ株主還元策である自社株買いは各社で対応が異なる。三井物産や伊藤忠は17年度に実施したが、三菱商事は否定的ニュアンスが漂い、見送った。自社株買いに否定的なIR(投資家向け広報)担当者の中には『自社株買い期間の値上がり益は、利ざやを稼ぐ短期投資家だけを利する。長期投資家の利益になる株主還元をしたい』との思いがある。また、自社株買い=株式希薄化よりは、投資や有利子負債返済によって株価を上げたいという姿勢も透けて見える」
見出しの「株主還元の強化でも市場の成長期待は低く」にも注文を付けておきます。この見出しには「株主還元を強化すれば、本来ならば市場の成長期待は高まるはずだ」との前提を感じます。しかし、「株主還元の強化」によって「市場の成長期待」を高めることは基本的にできないと思えます。
今回の記事でも「世界中で投資候補の資産価格が上昇しており『買いづらい』状況であること」が「余資を生み出し、株主還元に回っているのでは」という「SMBC日興証券の森本晃シニアアナリスト」のコメントを紹介しています。
「株主還元の強化」とは、有力な投資対象がないことの裏返しでもあります。そうなれば「市場の成長期待」は高まらないのが当たり前です。「株主還元の強化」を受けて「成長期待」を高める投資家がいないとは言いませんが、そうならない方が自然です。
追加でもう1つ質問させていただきます。記事では「PBR(株価純資産倍率=株価÷1株当たり純資産額、または時価総額÷純資産額)は、株価の割安感を判断するのに使われる代表的な株価指数(バリュエーション)だ」と解説しています。本当に「PBR」は「株価指数」と言えるでしょうか。
SMBC日興証券の用語解説では「株価指数とは、取引所全体や特定の銘柄群の株価の動きを表すものです。株価指数はある時点の株価を基準に増減で表します。これによって時系列で見た場合に、連続性を保ちながら、対象とする取引所などの株価の動きを長期的に評価することができます。日本の代表的な株価指数としては、日経225(日経平均株価)やTOPIX(東証株価指数)などがあります」と説明しています。
これを信じれば「PBR」は「株価指数」ではありません。「PBR=株価指標」ならば分かります。「株価指標」についてSMBC日興証券の用語解説では「代表的な株価指標には、株価収益率(PER)や、株価純資産倍率(PBR)などがあります」と記しています。
「PBRは代表的な株価指数」との説明は誤りではありませんか。そうであれば、次号で訂正してください。
問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を取っているメディアとして責任ある行動を心掛けてください。
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※今回取り上げた記事「不思議4 株価が上がらない~株主還元の強化でも市場の成長期待は低く」
https://mainichi.jp/economistdb/index.html?recno=Z20180925se1000000033000
※記事の評価はD(問題あり)。種市房子記者への評価は間違い指摘への対応を見てから決めたい。
追記)その後、種市記者から回答があった。内容については以下の投稿を参照してほしい。
「人格攻撃やめて」と訴える週刊エコノミスト種市房子記者に贈る言葉
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_21.html
※種市記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。
事前報道に懐疑的な週刊エコノミスト種市房子記者に期待
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/04/blog-post_12.html
不足のない特集 週刊エコノミスト「固定資産税を取り戻せ」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/05/blog-post_6.html
英国EU離脱特集 経済4誌では週刊エコノミストに軍配
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/07/blog-post_7.html
一読の価値あり 週刊エコノミスト「ヤバイ投信 保険 外債」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/07/blog-post_20.html
これで「バブル」? 週刊エコノミスト「電池バブルがキター」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/02/blog-post_7.html
「独占」への理解が不十分な週刊エコノミスト種市房子記者
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_17.html
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