2017年6月11日日曜日

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解

元日本経済新聞編集委員でジャーナリストの大西康之氏は東芝の問題を正しく理解できていない--。文藝春秋7月号の「東芝 深層ドキュメント『倒産』までのシナリオ~技術と雇用を守る唯一の方法は法的整理だ」という記事を読んで改めてそう思った。大西氏は産業革新機構による東芝メモリへの出資に関して、大きな勘違いをしているようだ。問題のくだりを見た上で、具体的に指摘してみる。
ヒシャゴ浦・姉妹岩(大分市)
     ※写真と本文は無関係です

【文藝春秋の記事】

5月17日、国会の経済産業委員会で民進党議員の近藤洋介が世耕に噛み付いた。

「東芝は現在、決算について監査法人から同意意見をもらえない異様な状況にある。その会社に産業革新機構を通じて公的資金を投入するのは、大いに問題だ」

銀行の融資継続すら危ぶまれる会社に、何千億円もの血税を投入しようというのだから、野党が懸念するのも当然だろう。世耕はこう答弁した。

「東芝の会計に問題があることは承知しているが、産業革新機構が投資する東芝メモリは子会社として成長性がある。投資によってオープンイノベーションが進むと産業革新機構が判断し、その件が経産省に上がってきたら、私はその判断を認めるだろう」

詭弁だ。

東芝が東芝メモリを売却するのは、オープンイノベーションを促進するためではなく、原子力事業の失敗によって陥った債務超過を解消するため。すなわち「東芝救済」だ。しかも再建が成功する見込みは薄く、何千億円もの血税が泡と消えかねないギャンブルなのだ

東芝の「原子力敗戦」は、官民癒着が招いた途上国型資本主義の破綻を意味する。今や「疑惑とリスクのデパート」になった東芝を公的資金で救済すれば、日本の前近代性を世界にさらけ出すことにもなる。しかも一時的に公的資金で救っても、潜在的に2つの危機が残る東芝はいずれ再び危機を迎え、血税が焦げ付くことになる


◎根本的に分かってない?

世耕氏の答弁を大西氏は「詭弁だ」と斬って捨てる。「東芝が東芝メモリを売却するのは、オープンイノベーションを促進するためではなく、原子力事業の失敗によって陥った債務超過を解消するため」というのはその通りだろう。だが、「(東芝の)再建が成功する見込みは薄く、何千億円もの血税が泡と消えかねないギャンブルなのだ」との解説は奇妙だ。

産業革新機構が投資する東芝メモリは子会社として成長性がある」と世耕氏は述べているのだから、「何千億円もの血税」は東芝メモリに投じられるはずだ。この「血税が焦げ付く」かどうかは、東芝メモリの経営がどうなるかにかかっている。東芝の「再建が成功する」かどうかとは基本的に関係ない。

なのに大西氏は「(東芝の)再建が成功する見込みは薄く、何千億円もの血税が泡と消えかねないギャンブルなのだ」「潜在的に2つの危機が残る東芝はいずれ再び危機を迎え、血税が焦げ付くことになる」と憂慮する。

産業革新機構が東芝本体に出資するのならば、大西氏の憂慮も分かる。だが、産業革新機構の出資対象はあくまで東芝メモリだ。東芝の再建が失敗する一方で、出資した東芝メモリが順調に成長した場合「血税が焦げ付くことになる」だろうか。むしろプラスのリターンが期待できる。大西氏は根本的に分かっていないのではないか。

それは記事の結論部分からも窺える。

【文藝春秋の記事】

中途採用を斡旋する人材会社の社長は「東芝関連の仕事が殺到して、大忙しだ」と顔を綻ばせる。倒産の危機を察知した東芝社員の大量流出が始まっているのだ。転職先に韓国、台湾、中国企業を選ぶ技術者も少なくない。経産省は東芝メモリへの公的資金投入で「技術者流出を防ぐ」と言うが、技術者の流出を止める手立てはない

今、守るべきは東芝の優良事業と技術、そして従業員の雇用であり、「東芝」という会社ではない。それを実現する唯一の方法は、日本航空と同じ、会社更生法の申請である。経営陣は総退陣すべきだし、東芝の暴走を止められなかった銀行も債権カットの痛みを引き受けるべきだ。痛みを先送りするのは、やめたほうがいい。


◎法的整理で「雇用」を守る?

今、守るべきは東芝の優良事業と技術、そして従業員の雇用であり、『東芝』という会社ではない。それを実現する唯一の方法は、日本航空と同じ、会社更生法の申請である」という主張も的外れだ。
グランドパレス小倉香春口(北九州市)
      ※写真と本文は無関係です

従業員の雇用」を守る「唯一の方法、日本航空と同じ、会社更生法の申請」だと言えるだろうか。わざわざ例に出している日航は、会社更生法の適用を申請した後に整理解雇を含む人員削減に踏み切っている。「法的整理を避ければ雇用が守れる」とは言わない。だが、法的整理で「従業員の雇用」が守れるとも考えにくい。法的整理になれば、思い切った人員削減をやりやすくなるのは確かだ。

では「東芝の優良事業と技術」はどうか。これが東芝メモリのことならば、売却してグループ外に出すと考えれば、東芝が法的整理になるかどうかとは基本的に関係ない。東芝メモリ以外にも「優良事業と技術」がある場合、これを他社に売却する手はある。東芝という会社は守れなくても「優良事業と技術」は残る。

守る=外国企業に渡さない」という意味ならば、国内企業に売却すればいい。「会社更生法の申請」が「東芝の優良事業と技術」を守る「唯一の方法」とは思えない。

大西氏は「倒産の危機を察知した東芝社員の大量流出が始まっているのだ。転職先に韓国、台湾、中国企業を選ぶ技術者も少なくない」とも書いている。そういう状況で実際に会社更生法の適用を申請して「倒産」したらどうなるのか。「倒産の危機を察知した」だけで「大量流出が始まっている」のに、「倒産」が現実になったらこうした動きが収まるとでも考えているのか。

技術者の流出を止める手立てはない」のは法的整理でも同じことだ。なのに「東芝の優良事業と技術」を法的整理で守れると訴えるのは、それこそ「詭弁」ではないか。


※記事の評価はD(問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。大西氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

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