2017年6月21日水曜日

日経ビジネス「石油再編の果て」の回答が映す本物の変化

日経ビジネスの変化は本物のようだ。間違い指摘を無視する姿勢を続けてきた同誌が6月に入って2回連続で問い合わせに回答してきた。しかも今回は記事の筆者が詳細な説明をしている。基本的に苦しい説明ではあるが、それはいい。6月19日号の特集「石油再編の果て」に関する問い合わせと、それに対する回答は以下の通り。
耳納連山(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 金田信一郎様 吉岡陽様 松浦龍夫様 飯山辰之介様

6月19日号の特集「石油再編の果て」についてお尋ねします。「PART3 爆発する工場 なぜ事故が頻発するのか」という記事の中に「原油を精製すると、ガソリンや灯油といった高値で売れる油(軽質油)と重油などの価格の低い油(重質油)が取れる」との記述があります。この説明に従えば、軽質油や重質油は「原油を精製」してできるもので、「ガソリンや灯油」は軽質油の一種、「重油」は重質油の一種となります。しかし、重質油も軽質油も原油そのものではありませんか。

デジタル大辞泉によると「軽質油」は「ガソリン・灯油・ナフサなどが得られる、比重が小さく粘りけの少ない原油」で、「重質油」は「アスファルトや重油などが得られる、比重が大きく粘りけの強い原油」となっており、やはり原油そのものです。

記事には「現在の平均的な原油の価格は1バレル当たり約50ドル。それよりも5ドルほど安い『超重質油』の使用比率を、現在の2割弱からさらに高めていく」というヒュンダイオイルバンク副社長のコメントがあります。ここでは「重質油」を原油そのものとして扱っており、その前の記述と矛盾します。

「原油を精製すると、ガソリンや灯油といった高値で売れる油(軽質油)と重油などの価格の低い油(重質油)が取れる」との記述は誤りと考えてよいのでしょうか。正しいとすれば、その根拠も併せて教えてください。

次の質問は「PART4 市場を開放せよ 新海賊と最後の護送船団」という記事についてです。この中に石油元売りの再編に関して「『常に、筋肉質の会社を、肥満体がのみ込む歴史だった』(橘川)。その象徴がJXTGで、三菱石油や九州石油、ジャパンエナジーを吸収し、精製設備と販売網を吸い上げて生き残りを図った」との説明が出てきます。

一方、「PART2 迷走する経営 薄利スパイラルの奈落」という記事では「1999年に拡大路線のツケが回って経常赤字に陥った三菱石油が日本石油と統合されて新日本石油(日石三菱)が誕生」と書いています。「拡大路線のツケが回って経常赤字に陥った三菱石油」を「筋肉質の会社」に含めるのは無理がありませんか。ここはどう理解すればよいのでしょうか。

言葉の使い方についてもお尋ねします。33ページの「一切の予断を廃して検討する」というくだりでは、「予断を廃する」ではなく「予断を排する」が正しいと思えますが、いかがでしょうか。36ページの「屈辱をなめた」という表現も引っかかりました。間違いとは言いませんが「屈辱を味わった」「辛酸をなめた」などとした方が自然ではありませんか。

質問は以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。今回の特集は全体として見れば評価できる内容でした。今後も批判精神あふれる特集を期待しています。


【日経BP社からの回答】

ご購読頂きありがとうございます。

今回ご指摘頂いた点、(1)重質油と軽質油についてですが、原油に対して使われることは
ご指摘の通りですが、石油製品にも一般的に使われております。
経済産業省の資料等でもナフサやガソリンを「軽質油」、重油やコークス等を「重質油」としております。

(2)識者のコメントは主に効率生産を指していると認識しており、三菱石油については
他の戦略による収益悪化と理解しております。

一般に理解が難しい産業を、複数のテーマを取りあげて18ページにまとめたため、
分かりにくい部分があったかと存じます。

(3)(4)で頂きました表現のご指摘も併せて鑑み、これからより深い内容を、
より分かりやすい表現で報道していきたいと考えております。
今後ともよろしくお願いいたします。

金田信一郎(日経ビジネス編集部)


【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 金田信一郎様

6月19日号の特集「石油再編の果て」に関する問い合わせに対して丁寧な回答をいただき、ありがとうございました。ただ、「軽質油」「重質油」についての「石油製品にも一般的に使われております。経済産業省の資料等でもナフサやガソリンを『軽質油』、重油やコークス等を『重質油』としております」との説明には腑に落ちない点がありました。
福岡大学(福岡市城南区)※写真と本文は無関係です


例えば、経済産業省・資源エネルギー庁のホームページで「都道府県別エネルギー消費統計」という資料を見ると「推計対象のエネルギー種」として「軽質油製品 原料油(ナフサなど)、ガソリン、ジェット燃料油、灯油、軽油」「重質油製品 重油、潤滑油、アスファルトなど重質製品、オイルコークス、電気炉ガス」と出てきます。

ここではガソリンを「軽質油」、重油を「重質油」の一種としているのではなく、それぞれ「軽質油製品」「重質油製品」に分類しています。この2つは「軽質油を元に作る製品」「重質油を元に作る製品」といった意味でしょう。経産省の全ての資料に当たった訳ではありませんが、少なくとも上記の資料からも「軽質油や重質油は原油そのものを指す」と判断できます。

お忙しいでしょうから、これ以上の回答は求めません(もちろん再回答を拒否するものではありません)。今後の参考にして頂ければ幸いです。


【日経BP社の回答】

ご連絡をいただきありがとうございます。

石油連盟HPの刊行物「もっと知りたい石油のQ&A」7ページ(経産省資料)が分かりやすいかもしれません。
いずれにしましても、複雑で分かりにくい業界ではあります。

金田信一郎(日経ビジネス編集部)


◇   ◇   ◇

もっと知りたい石油のQ&A」を見ても記事の説明が正しかったとは思えない。だが、さらに追及する必要はないだろう。大切なのは説明しようとする姿勢だ。それを崩さなかったことを高く評価したい。

特集の中に多少の問題があるのは事実だが、日経ビジネスの変化にも期待して特集全体の評価はC(平均的)とする。担当者への評価は以下の通り。

金田信一郎編集委員(暫定C)
吉岡陽記者(暫定C)
松浦龍夫記者(暫定C→C)
飯山辰之介記者(暫定D→暫定C)


※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

悪くないが気になる点も…日経ビジネス特集「石油再編の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_17.html

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