2017年6月5日月曜日

日経社説「戦略特区テコに岩盤規制砕け」の奇妙な説明

5日の日本経済新聞朝刊 総合・政治面に「戦略特区テコに岩盤規制砕け」という問題の多い社説が載っていた。社説では「学校法人加計(かけ)学園・岡山理科大の獣医学部新設問題」に関して「民進党と一部のメディアは政権が他大学を締め出したという趣旨の主張をしている」と述べており、日経としては「政権が他大学を締め出した」わけではないと訴えたいようだ。しかし、社説の中身を見る限り「政権が他大学を締め出した」としか受け取れない。
福岡大学(福岡市城南区)※写真と本文は無関係です

社説の前半を見てみよう。

【日経の社説】

ここまで的を外した法案は珍しい。民進党の桜井充参院議員が近く同院に出すと表明した国家戦略特区廃止法案である。施行から2年内に特区廃止を含めて検討するよう政権に義務づける内容だ。

安倍政権が特区に指定した愛媛県今治市での学校法人加計(かけ)学園・岡山理科大の獣医学部新設問題が発端という。しかし、この問題と戦略特区を使った成長戦略とは別の話だ。政権は特区を駆使して岩盤規制をうがつ改革をさらに強化させるべきである

首相を議長とし、民間有識者で構成する特区諮問会議は、獣医学部の新設を学部空白地域で1大学にだけ認めた。民進党と一部のメディアは政権が他大学を締め出したという趣旨の主張をしている

1大学に限ったのは獣医師の業界団体である日本獣医師会の主張に配慮したのが実態だ。同会は新設に強硬に反対し、ロビー活動を繰り広げた。その結果、諮問会議は今治市を突破口と位置づけ、まず加計学園に認めた。


◎結局「政権が他大学を締め出した」のでは?

日経の言う通り「1大学に限ったのは獣医師の業界団体である日本獣医師会の主張に配慮したのが実態だ」としよう。その場合、「政権が他大学を締め出したという趣旨の主張」は否定されるだろうか。むしろ裏付けられるはずだ。
大分県日田市豆田町 ※写真と本文は無関係です

他大学にも獣医学部新設の構想があり、それが日本獣医師会の「ロビー活動」によって頓挫したのであれば、「政権が他大学を締め出した」と受け取るほかない。それとも「認めたのは諮問会議であって政府ではない」とでも言うのだろうか。


◎なぜ「特区」にこだわる?

政権は特区を駆使して岩盤規制をうがつ改革をさらに強化させるべきである」という社説の主張にも説得力がない。「岩盤規制をうがつ改革をさらに強化させるべき」だとしても、なぜ「特区を駆使して」となるのか。

社説では「既存の学部や獣医師が不利益を被るというのは、競争を嫌がる供給側の理屈にすぎない。教育と研究の質を高め、食の安全向上や感染症対策の強化で消費者に広く恩恵を行き渡らせるために、新設を自由化するのが筋だ」とも述べている。だったら、「特区」などと言わず、全国的に「新設を自由化」すればいい。

なのに、社説では「それまでの間は第2、第3の特区を矢継ぎ早に指定し、意欲ある大学経営者に参入を認めるべきだ」となってしまう。一気に「新設を自由化」すればいいのではないか。間に「特区」を入れるべき理由は思い付かないし、社説でも説明していない。


◎「岩盤規制をうがつ改革」を求めるならば…

ついでに言うと「岩盤規制をうがつ改革」の必要性を日経が訴えるのは元々無理がある。今回の社説では「新薬開発など医療技術は高度化している。参入規制にあぐらをかく既存医学部に、時代に即応できる医師を輩出させる力があるだろうか」とも書いている。こうした主張は自分たちに跳ね返ってくると自覚すべきだ。

「再販売価格維持制度という岩盤規制に守られてあぐらをかく新聞社に、時代に即応できる報道が期待できるだろうか」と批判されたら日経は何と返すのか。「報道の質を保つために再販価格維持制度は必要」との弁明が成り立つのであれば、「医療の質を保つためにも医学部への参入規制は必要」とも言えるはずだ。

今回の社説では「首相を議長とし、民間有識者で構成する特区諮問会議」という説明も引っかかった。これだと「特区諮問会議」は首相+民間有識者で構成していると受け取れる。だが、どうも怪しい。この件に関しては以下の内容で日経に問い合わせを送った。


【日経への問い合わせ】

6月5日朝刊の「戦略特区テコに岩盤規制砕け」という社説についてお尋ねします。この社説には「首相を議長とし、民間有識者で構成する特区諮問会議は、獣医学部の新設を学部空白地域で1大学にだけ認めた」との記述があります。この説明を信じれば、特区諮問会議は議長である首相を除くと「民間有識者で構成」されているはずです。
久留米工業高等専門学校(福岡県久留米市)
          ※写真と本文は無関係です


しかし、国家戦略特別区域諮問会議の議員名簿を見ると、菅義偉官房長官ら4閣僚の名前を確認できます。「民間有識者」も5人いるようですが「民間有識者で構成する特区諮問会議」とは言えません。記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。正しいとすれば、その根拠も併せて教えてください。

「首相を議長とし、民間有識者らで構成する特区諮問会議」と1文字加えれば問題はなかったと思えます。正確を期すならば「首相を議長とし、関係閣僚と民間有識者で構成する特区諮問会議」でしょうか。

御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

日経の体質を考えると回答はないだろう。


※今回取り上げた社説「戦略特区テコに岩盤規制砕け
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170605&ng=DGKKZO17292040V00C17A6PE8000

※社説の評価はD(問題あり)

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