2017年6月18日日曜日

この記事が1面? 日経「ノンアルコール増産 キリンやサントリー」

18日の日本経済新聞朝刊に載った「ノンアルコール増産 キリンやサントリー、ビール不振補う」という記事は、中身が乏しく1面で使うのは無理がある。記事の全文を見た上で、その理由を具体的に述べたい。
平成筑豊鉄道 田川伊田駅(福岡県田川市)
        ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

ビール各社がノンアルコールビールを増産する。キリンビールは4月発売の「零ICHI(ゼロイチ)」が好調で、近く月間生産量を当初計画の3倍に引き上げる。サントリービールも「オールフリー」を前年同期比約1割増やす。仕事や家事の合間などに手軽に楽しめる飲料として人気が広がっている。安売り規制でビール販売が落ち込む分を補う狙いもある。

「零ICHI」は発売後2カ月で年間目標の5割弱分に相当する63万ケースを売り切った不振だった「キリンフリー」に代わる製品で、主力ビール「一番搾り」と同様に麦汁をろ過する際に最初に流れ出す一番搾り麦汁を原料に使用する高級感が受けている。布施孝之キリンビール社長は「『働き方改革』によりライフスタイルの幅が広がっている。仕事を終えてからも育児や家事をこなす人も多くなり、酔わずにリフレッシュ感を味わいたいとの需要が増えている」と話す。

「オールフリー」は6~7月に増産し、2017年販売は720万ケースと16年比4%上積みする計画だ。サントリービールによると、国内の17年のノンアルビール市場は全体で1800万ケースと前年より2%増えるとみている。両社は設備の改良や稼働率の引き上げなどで増産し、大きな投資は伴わない見通しだ。

販売現場では国税庁による酒の安売り規制強化の影響が出ている。日本経済新聞社が日経POS(販売時点情報管理)で5月第4週と6月第2週を比較したところ、ビールは店頭価格が8%前後上昇した一方、販売数量は約2割減少した。ノンアルビール市場で勢いのある2ブランドが増産する背景には、新たな収益源確保が急務となっている事業環境がある。


◎理由その1~ビール2社でまとめても…

今回の記事はいわゆる「まとめモノ」だ。書き出しで「ビール各社がノンアルコールビールを増産する」と謳った場合、最低でも3社は事例が欲しい。今回の記事では2社しか出てこない。これでは苦しい。


◎理由その2~「計画比」で言われても…

記事に付けた写真には「キリンは『零ICHI』を近く3倍に(同社取手工場)」という説明がある。「3倍」と聞くとかなり凄そうだが、「月間生産量を当初計画の3倍に引き上げる」だけの話だ。何倍になるかは「当初計画」による。
下馬場古墳(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

しかも記事には「月間生産量」の当初計画がどうだったのか説明がない。それに現状でも「当初計画」を上回る生産となっている可能性が高い。記事には「『零ICHI』は発売後2カ月で年間目標の5割弱分に相当する63万ケースを売り切った」と書いてある。ここから年間販売目標は約130万ケースと推測できる。なので月間生産量の「当初計画」を11万ケースと仮定してみよう。

その場合、最初の2カ月では22万ケースしか生産できない。しかし実際には「63万ケースを売り切った」という。だとすれば最初の2カ月でも「当初計画」を大幅に上回る生産規模になっていると考える方が自然だ。6月以降の「増産」は大した規模になりそうにない。


◎理由その3~キリン全体でも増産?

キリンに関しては「零ICHI」の増産には触れているが、ノンアルコールビール全体でどうなるのかが不明だ。「零ICHI」は「不振だった『キリンフリー』に代わる製品」であり、キリンフリーの販売も継続しているようだ。「零ICHI」が好調でもキリンフリーの落ち込みを補えないのであれば、キリンのノンアルコールビール全体で見ると「減産」になる可能性もある。「ビール各社がノンアルコールビールを増産する」と書いているのだから、キリン全体で見て「ノンアルコールビールを増産する」かどうかは明確にしてほしい。

ついでに言うと「『働き方改革』によりライフスタイルの幅が広がっている。仕事を終えてからも育児や家事をこなす人も多くなり、酔わずにリフレッシュ感を味わいたいとの需要が増えている」というキリンの社長コメントが辛い。「だったら、なぜキリンフリーは不振なの?」とツッコミを入れたくなる。


◎理由その4~サントリーは計画通りならば…

サントリービールに関して「『オールフリー』は6~7月に増産し、2017年販売は720万ケースと16年比4%上積みする計画だ」と書いてある。この「720万ケース」という目標は同社が1月に発表した事業方針で出てきた数字と同じだ。「6~7月に増産」するからと言って計画を上方修正しているわけではなさそう。元々、計画に増産を織り込んでいたのかもしれない。しかも増産は2カ月限定のようだ。サントリーの話もやはりインパクトは乏しい。

こうして見てくると、この記事を朝刊1面で大きめに扱う意味はないと思える。企業面でも苦しいくらいだ。こんな記事を使うぐらいならば、日曜の1面は原則としてニュース記事なしにした方がいい。


※今回取り上げた記事「ノンアルコール増産 キリンやサントリー、ビール不振補う
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170618&ng=DGKKASDZ17H1K_X10C17A6MM8000

※記事の評価はD(問題あり)。

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