2017年6月7日水曜日

問題多い日経1面「市場の力学~ゆがむ秩序(上)」

6日の日本経済新聞朝刊1面に載った「市場の力学~ゆがむ秩序(上) 読めぬ世界 惑う投資家 マネー滞留 危うい株高」について、さらに問題点を指摘していく。まずは記事の冒頭部分。説明の辻褄が合っていない。
小倉城(北九州市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

保護主義色の強いトランプ米政権が世界をかき乱し、政治や経済の秩序が揺らいでいる。そのリスクを見て見ぬふりをするように株高が続く。経験したことのない力学が市場を覆っている。

先週末に日経平均株価は2万円を回復し、2000年以降の高値(2万0868円)が視野に入る。そんな上げ相場でも「株安対応ファンド」が保険会社や年金基金向けに売れ続けている

英ヘッジファンドのキャプラ・インベストメント・マネジメントが運用し、「日経平均が5割下がっても損失を1割以下にとどめる」という商品だ。先に米国株向けで運用を始めたところ引き合いが強く、顧客の要望で日本株版もつくった。年内に1000億円の資金獲得を見込む。


◎「リスクを見て見ぬふり」?

そのリスクを見て見ぬふりをするように株高が続く」と述べた上で、「そんな上げ相場でも『株安対応ファンド』が保険会社や年金基金向けに売れ続けている」と紹介している。これは奇妙だ。

株安対応ファンド」で相場下落に備える動きが活発になっているのであれば、「そのリスクを見て見ぬふりをするように株高が続く」のではなく「そのリスクに備える動きとともに株高が続く」でも言うべきではないか。

この後の記述はさらに問題がある。

【日経の記事】

世界的株高でも投資家は大きな「謎」に不安を感じている。世界景気は回復しているのに賃金・物価が上がらず、米国では経済の体温とされる金利が上昇しない。この謎にこそ株高の理由が潜む。


◎「物価が上がらず」?

景気が回復すれば「賃金・物価」は上向きになりやすくなるが、連動しない場合も珍しくない。なので「」というほどでもない。ただ、ここでは受け入れて「」だとしよう。だが、本当に「世界景気は回復しているのに賃金・物価が上がらず」なのか。物価に関して検証してみる。
高崎山自然動物園(大分市)※写真と本文は無関係です

ユーロ圏では昨年5月に前年同月比マイナス0.1%だった消費者物価指数が今年2月にはプラス2.0%となった。5月も1.4%だ。

米国でも今年2月の消費者物価指数が前年同月比2.7%の上昇となり「2012年3月以来で最も大幅な伸びとなった」(ブルームバーグ)。4月でも前年同月比2.2%の上昇となっており、「世界景気は回復しているのに物価が上がらず」とは感じられない。

取材班は間違った前提に基づいて記事を作っているのではないか。

さらに指摘を続けよう。

【日経の記事】

米主要企業が16年に自社株買いや配当で株主に返した金額は設備投資の1.5倍。低成長で新たな投資先が限られるうえ、「トランポノミクス」の柱のインフラ投資に実現のメドが立たない。


◎株主還元と設備投資を比べても…

米主要企業が16年に自社株買いや配当で株主に返した金額は設備投資の1.5倍」だというデータを基に「米企業の設備投資は低調」との結論を導いているようだが、この比較にあまり意味を感じない。記事に付けたグラフによると、米企業の「1.5倍」に対し、日本企業は50%にも満たない。

だからと言って「日本企業の設備投資への意欲は米企業に比べて非常に旺盛だ」と判断してよいだろうか。「米企業は設備投資にも積極的だが、それ以上に株主還元への意欲が強い」という可能性もあるはずだ。

ここからは言葉の使い方に注文を付けたい。

【日経の記事】

政策の見通しにくさを示す「経済政策不確実性指数」は高止まりし、企業は稼いだお金を実体経済に投資できないでいる。


◎「高止まり」してる?

高止まり」とは「高水準で横ばい」という意味だ。しかし、記事に付けた「経済政策不確実性指数」のグラフを見ると、大きな上下動を繰り返しながら、2017年に入ってからはかなり下げている。これで「高止まり」は苦しい。

言葉の使い方をさらに見ていこう。

【日経の記事】

緩やかな世界経済の成長が株高を支えているが、運用難や投資不足で底上げされた面がある。企業の長期の利益水準からみた米国株の割高さは、大恐慌が始まった1929年の「暗黒の木曜日」に迫ってきた。


◎「投資不足」と言うより…

投資不足」と聞くと「本来あるべき投資額に届いていない状態」だと感じる。だが、文脈から判断すすと、上記のくだりで言う「投資不足」とは「投資対象の不足」という意味だろう。だとすると、かなり舌足らずな説明だ。



※今回取り上げた記事「市場の力学ゆがむ秩序(上) 読めぬ世界 惑う投資家 マネー滞留 危うい株高
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170606&ng=DGKKZO17341520W7A600C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。今回の連載については以下の投稿も参照してほしい。

日経1面「市場の力学~ゆがむ秩序(上)」に感じた誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_6.html


1930年は世界恐慌翌年? 日経「市場の力学(下)」の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/1930.html


「保護主義の波」に無理あり 日経「市場の力学(下)」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_9.html

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