2017年6月8日木曜日

1930年は世界恐慌翌年? 日経「市場の力学(下)」の誤解

8日の日本経済新聞朝刊1面に載った「市場の力学~ゆがむ秩序(下)保護主義の波、いつか来た道? 内向き志向 リスク増す」という記事に「世界恐慌翌年の1930年」という記述があった。だが、「1930年」は「世界恐慌翌年」とは思えない。この連載は「土居倫之、松崎雄典、森田淳嗣が担当」したらしいが、3人は世界恐慌の時期を誤解しているのではないか。
関埼灯台(大分市)※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送ってみた。

【日経への問い合わせ】

「市場の力学~ゆがむ秩序(下)」という記事についてお尋ねします。記事には「世界恐慌翌年の1930年、関税を大幅に上げるスムート・ホーリー法を米議会は可決した」との記述がありますが、「1930年」は「世界恐慌翌年」に当たるでしょうか。

「世界恐慌翌年の1930年」という場合、「世界恐慌は1929年に終わった」と解釈できます。例えば、太平洋戦争(1941~45年)に関して、「太平洋戦争翌年の1942年」とは言わないはずです。では「世界恐慌(1929年に始まった大恐慌)」はその年のうちに終わったのでしょうか。

大恐慌については「1933年ごろまで続いた」(デジタル大辞泉)と思えます。恐慌の終わりを1936年頃とする場合もありますが、29年内に恐慌が終息したとは考えられません。「1930年」は「世界恐慌翌年」ではなく「世界恐慌の真っただ中」だったのではありませんか。「世界恐慌に陥った翌年の1930年」ならば分かりますが、そうは書いていません。

記事中の「世界恐慌翌年の1930年」との説明は誤りと判断してよいのでしょうか。正しいとすれば、その根拠も併せて教えてください。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として、掲げた旗に恥じない行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

書き方が上手くないだけとの可能性もなくはないが、連載の担当者らは「世界恐慌=1929年で完結する出来事」と認識していると考える方が自然だ。記事では問題のくだりの後で以下のように説明が続く。

米シティグループの投資戦略部門を率いるロバート・バックランド氏は『大恐慌後の30年代は経済の不均衡が広がり、ポピュリズム(大衆迎合主義)が強まった。今も似た状況にある』と話す

断定はできないが、「経済の不均衡が広がり、ポピュリズム(大衆迎合主義)が強まった」傾向は大恐慌の期間中にも見られただろう。大恐慌の期間を1933年(あるいは1936年)までと認識していたら、取材相手が「大恐慌後の30年代」と言ったとしても、そのまま記事にはしないと思える。だが、取材班に「世界恐慌=1929年で完結する出来事」という誤解があるとすると、コメントで「大恐慌後の30年代」という書き方をしたのも納得できる。

日経からの回答は期待できないので、実際にどうだったのかは謎のままだが…。

追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「市場の力学~ゆがむ秩序(下)保護主義の波、いつか来た道? 内向き志向 リスク増す
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170608&ng=DGKKZO17441720Y7A600C1MM8000


※この連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経1面「市場の力学~ゆがむ秩序(上)」に感じた誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_6.html


問題多い日経1面「市場の力学~ゆがむ秩序(上)」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_7.html


「保護主義の波」に無理あり 日経「市場の力学(下)」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_9.html

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