2016年8月6日土曜日

素人レベルの知識で「原油市場」を語る日経 飛田雅則記者

6日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に「ポジション~原油安 警戒感薄れる 注目指数『スキュー』で見通し 40~50ドルのレンジ相場に」という記事を書いた飛田雅則記者は市場関連の記事の書き手としては素人レベルのようだ。基本知識の欠如をうかがわせる記述があったので、まずはそこから見ていこう。
北原白秋生家(福岡県柳川市) ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

7月半ば以降、米国のガソリン在庫の増加がはっきりしてくると原油価格は下落。反対にスキューは上昇した。40ドル割れ目前に迫った7月下旬にはさらに上昇。原油安への警戒感は薄れ「市場は40ドル前後を下限とみている可能性がある」(ニッセイ基礎研究所の佐久間誠研究員)。「中国やインドの需要は強く、需給は均衡に向かっている」(丸紅の栃本恵一・石油貿易課長)との見方が根強いためだ。

米商品先物取引委員会(CFTC)によると7月26日時点で売り建玉(未決済残高)は約1割増えているが、「生産調整が進む中では売り建玉を長く維持しづらく買い戻しが入る」(マーケット・リスク・アドバイザリーの新村直弘代表)。

買い建玉は2月以降、50万枚台が続き変動は小さい。「買い建玉が崩れないことから、相場の持ち直しは早い」(エレメンツキャピタルの林田貴士社長)。中国や欧州で景気後退リスクが台頭し、市場心理が悪化しない限り、近く持ち直すとの見方が多い。原油オプション市場から40~50ドルのレンジ相場が読み取れそうだ。

----------------------------------------

まず建玉に関する説明に問題がある。記事では注釈も付けずに「売り建玉(未決済残高)は約1割増え」「買い建玉は2月以降、50万枚台が続き変動は小さい」と書いている。普通に考えれば、NY原油全体の建玉について述べていると解釈したくなる。ただ、そうだとしたら売り建玉も買い建玉も同じ動向になるはずだ。NY原油先物全体では買い建玉と売り建玉は常に同数となるのだから。

しかし、記事によると「売り建玉は約1割増えて」いるのに「買い建玉は2月以降、50万枚台が続き変動は小さい」らしい。ここで言う建玉は「投機筋の建玉」ではないのか。その説明を省いているとすれば、市場関連記事の書き手としては未熟と言うほかない。

しかも、売り建玉の「1割増」はどの時点と比べているのか不明だ。飛田記者は「7月半ば」と比べているつもりかもしれないが…。

今回、飛田記者は「スキュー指数」を使って原油相場を論じている。これにも疑問がいくつも湧く。

【日経の記事】

米原油先物が値下がりし、今週3カ月ぶりに1バレル40ドルを割り込んだ。米国のガソリン消費の伸び悩みや、シェールオイルの復活も意識された。一度は収束したかにみえた大幅な価格下落が再びおこるのか。想定外の事態「ブラックスワン(黒い白鳥)」の発生を示唆するといわれる指数の動きから相場の見通しを探った

米国のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物は3日に一時、39.19ドルまで下落。その後やや持ち直し5日は41ドル前後で推移している。WTIは年初に30ドルを割り込んだ後、6月には50ドル前後まで上昇。再び崩れ始めた相場はどこまで行くのか。

シグナルの一つがスキュー(ゆがみ)指数だ。売買する権利をやりとりするオプション取引価格のボラティリティー(変動率)を使って算出する。原油安への警戒感が強ければ低下する産油国の過剰なシェア争いや投資マネーの急速な収縮など、原油市場の「ブラックスワン」の発生を織り込んで動くといわれる

6月に原油価格が上昇するとスキューは低下し始めた。投資家が高値警戒感を抱いたことを映した。「シェールオイルは損益分岐点の50ドル付近で生産が立ち上がる」(英調査会社ウッドマッケンジーのアンドリュー・ウッズ氏)との分析が背景にある。


◎疑問その1~「過剰なシェア争い」は「ブラックスワン」?

飛田記者は「産油国の過剰なシェア争いや投資マネーの急速な収縮」を「ブラックスワン」の例として挙げている。しかし、激しいシェア争いはよくあることだ。「投資マネーの急速な収縮」を伴う経済危機も過去に起きている。誰も起きるとは思っていなかったような出来事であれば「ブラックスワン」と呼ぶのも分かる。ただ、「過剰なシェア争い」程度の話ならば、驚きはゼロに近い。

◎疑問その2~原油の「スキュー指数」とは?

シカゴ・オプション取引所がS&P500を対象とするオプションの価格から算出している「スキュー指数」は「突発的に発生する大幅な下落リスクを示す指標」で「指数値100を平常状態とし、これを超えてくると、下落の場合のテール・リスクが通常以上に大きくなってきていることを意味する」(投資用語集)ようだ。

これなら分かるが、飛田記者が紹介している原油の「スキュー指数」は逆で「原油安への警戒感が強ければ低下する」。つまり指数の下落がテール・リスクの増大を示す。おかしいとは言わないが、分かりにくい指数だ。

しかも、グラフを見ると指数の単位は「」。「前年同月比」といった注記もないし、指数ならば単位は付かないのが普通だろう。さらに言うと、色々調べても原油の「スキュー指数」はどこが算出しているのか分からなかった(もちろん記事でも触れていない)。この指数はどこか怪しい。

◎疑問その3~「40~50ドルのレンジ相場」が読み取れる?

記事ではNY原油相場について「原油オプション市場から40~50ドルのレンジ相場が読み取れそうだ」と結論付けている。これには納得できなかった。「スキュー指数」が「突発的に発生する大幅な下落リスクを示す指標」であるならば、スキュー指数の動きからは「突発的でない緩慢な相場下落」のリスクは読み取れないはずだ。

例えば、40ドルだった原油相場が1カ月かけて30ドルまで下がるのであれば「突発的に発生する大幅な下落」とは言えないだろう。飛田記者はスキュー指数では読み取れないものまで読み取っているのではないか。


※記事の評価はD(問題あり)。飛田雅則記者の評価も暫定でDとする。

0 件のコメント:

コメントを投稿