2016年8月21日日曜日

日経「独身アラフォー、4割が非正規」の不適切な数値比較

日本経済新聞朝刊の女性面をこれまで「緩い紙面」と評してきた。「いい加減なことを書いても女性に寄り添った記事であれば基本的に許される紙面」と言い換えてもいい。今回は20日の「独身アラフォー、4割が非正規 氷河期世代、影響いまだに 少ない貯金・介護 募る不安」という記事を取り上げたい。ここでの問題はデータの扱い方だ。統計の取り方が大きく変わった場合、変更前と後を単純に比較するのは非常に危険だ。今回の記事を書いた福山絵里子記者は、その辺りの配慮ができていない。
久留米大学医学部(福岡県久留米市) 写真と本文は無関係です

まず、女性面編集長への問い合わせ内容を見てほしい。ほぼ同じ内容のものを日経の問い合わせフォームからも送っている。いつも通りならば、回答はないはずだ。

【女性面編集長への問い合わせ】

女性面編集長 佐藤珠希様

20日朝刊女性面の「独身アラフォー、4割が非正規」という記事についてお尋ねします。記事中で筆者の福山絵里子記者は以下のように書いています。

「『独身の非正規アラフォー』はここにきて増加傾向にある。総務省の労働力調査によると、35~44歳の独身女性で、雇用されて働く労働者は2015年に190万人。そのうち非正規で働く人は79万人で、41%が非正規で働いていることになる。05年時点では27%だった」

記事では、05年の27%と15年の41%を比べて「ここにきて増加傾向にある」と説明しています。これは、比較してはいけないものを比べているのではありませんか。記事に付いたグラフには「総務省の労働力調査を基に作成。2011年はデータなし。2012年までは『未婚女性』、2013年以降は『無配偶女性』。在学中の人は除く」との注記があります。

つまり、グラフに出てくる「35~44歳の独身女性雇用労働者に占める非正規の割合」の分母は05年が「35~44歳の未婚女性雇用労働者」で15年が「35~44歳の無配偶女性雇用労働者」です。「無配偶女性」には夫と離別・死別した女性が入ってきます。こうした女性は非正規の比率が高く、そのために「35~44歳の独身女性雇用労働者に占める非正規の割合」が15年は高く出たのではありませんか。

グラフを見ると、安定的に推移していた「非正規の割合」が12年から13年にかけて一気に7ポイント程度の上昇を見せており、その後は概ね横ばいです。ここからも分かるように、「非正規の割合」の上昇は、分母の対象を変えた影響が大きいと思われます。

記事における数値の比較は不適切だったと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

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実際には10年単位で見れば「35~44歳の独身女性雇用労働者に占める非正規の割合」は緩やかな上昇傾向なのだろう。しかし、使用するデータで分母が大きく変わってしまったのであれば、05年と15年を比べて「ここにきて増加傾向にある」と書くのは不適切だ。

ついでに言うと、この記事に付けた小さなコラムも引っかかった。以下はその全文だ。

【日経の記事】

■気になる! 非正規の女性は結婚を望んでいるのだろうか。年齢がアラフォーより少し下がるが、25~39歳の未婚男女1万人に内閣府経済社会総合研究所が実施した意識調査(2015年)によると、正社員よりも非正規社員のほうが結婚意欲が低かった。

職場にいる独身男性が少ないうえ、周りに正社員男性も少ないことが結婚意欲の低下に影響しているという。交際相手がいる人も正社員より非正規社員のほうが少なかった。

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気になった点を列挙してみる。

◎「男女」それとも「女性限定」?

記事に出てくる「内閣府経済社会総合研究所が実施した意識調査」の調査対象は「25~39歳の未婚男女1万人」らしい。その調査では「正社員よりも非正規社員のほうが結婚意欲が低かった」と書いているが、これは男女合わせての話なのか、それとも女性限定の話なのか。記事からは断定できない。こういう書き方は感心しない。

◎非正規社員の職場に「独身男性が少ない」?

非正規の女性に関して「職場にいる独身男性が少ないうえ、周りに正社員男性も少ない」と当たり前のように言い切っているが、本当なのか。少なくとも個人的にはそういうイメージがない。なのに「皆さんご存知のように…」というニュアンスで書いているのが気になった。「実は~なんです」的な書き方ならば違和感はないのだが…。

◎独身男性が少ないと結婚意欲が低下?

職場にいる独身男性が少ないうえ、周りに正社員男性も少ない」というのが事実だとしても、だから結婚への意欲が低いとの説明は納得できない。例えば「プロ野球選手やプロサッカー選手は仕事場に独身女性が少ないから結婚への意欲が低い」と言われて「なるほど」と思えるだろうか。実際に記事で言うような傾向があるのかもしれないが、もう少しきちんと説明してくれないと説得力はない。


※記事の評価はD(問題あり)。福山絵里子記者への評価も暫定でDとする。日経女性面の全体的なレベルの低さを重く見て、佐藤珠希女性面編集長への評価はE(大いに問題あり)とする。女性面については「日経女性面『34歳までに2人出産を政府が推奨』は事実?」「日経女性面に自由過ぎるコラムを書く水無田気流氏」などを参照してほしい。

追記)結局、回答はなかった。

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