2016年8月22日月曜日

どこに「オバマの中国観」?日経 大石格編集委員「風見鶏」

ネタがなくて苦し紛れに生み出した記事なのだろう。21日の日本経済新聞朝刊総合・政治面に
大石格編集委員が書いた「風見鶏~オバマ氏の中国観の原点」は非常に苦しい内容だった。この記事を読んでも「オバマ氏の中国観」がどういうもので、その「原点」がどこにあるのかよく分からない。大石編集委員は自らがハワイで訪ねたオバマ氏の母校の話で記事を作って紙幅を埋めようと考えたのだろう。ハワイの学校の話が延々と続くが、あまり意味はない。まずは記事の中身を見ていこう。
朝倉市立秋月中学校(福岡県朝倉市) ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

観光客でにぎわうハワイのワイキキビーチから少し内陸に入った静かな住宅地にその学校はある。同州で最も優秀な生徒が通う幼小中高一貫の名門プナホウ校は今年、創立175年を迎えた。校門に記念の飾り付けがなされていた。

キャンパスの真ん中に建つのが、1852年から使われているオールド・スクール・ホールだ。小5で編入学したバラク・オバマ少年はこの部屋でENGLISH、つまり国語の授業を毎日受けていたそうだ。

自分のほかに黒人の生徒がひとりしかいなかった学校に「なじめないという感覚がどんどん膨らんだ」とオバマ氏は自伝『マイ・ドリーム』に書いている。心の救いを求め、白人支配に立ち向かったアジアの指導者たちに傾倒した。

「チェンジ」。8年前の米大統領選で掲げたこのスローガンは、インドのガンジーの「世界に変化をもたらしたければ、自らがその変化になれ」との呼びかけからの引用だ。なぜアジアなのか。幼いころインドネシアで育ったからか。ヒントになる碑をホールの入り口で見つけた。

「西洋に学び、永遠の真理を追い求めたい」

刻まれていたのは、この学校で学んだもうひとりの著名人、孫文の言葉だ。碑はオバマ氏の在学中すでにあり、革命の父としての偉業は生徒たちに代々、語り継がれてきた。

日本で亡命生活を送ったこともある孫文だが、それは後半生の話。広東省の農村で育った孫文が“文明”に初めて出会ったのは13歳から17歳までをすごしたハワイにおいてだ。オバマ氏と似ていなくもない。

今年は孫文の生誕150年にあたる。間もなく訪中をするオバマ氏が滞在中に何らかの形で先輩に言及すれば、学校にとってこのうえない名誉になる。OB会は期待しているそうだ。

『マイ・ドリーム』に孫文は登場しないが、オバマ氏が親近感を抱いている証拠ならばある。孫文の最初の妻である盧慕貞の孫モナ・リーさんの夫を政権で2人目の中国大使に任命したのだ(孫文とリーさんに血のつながりはない)。

オバマ氏は習近平国家主席の強硬姿勢に手を焼きつつ、大筋では米中が足並みをそろえる協調路線を採ってきた。次女には小学校から中国語を習わせた。プナホウ校での日々がこうした中国観を育んだのだろう

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オバマ氏の中国観の原点」に関するヒントは上記の部分にしかない。まず「オバマ氏の中国観」がどういうものか分かっただろうか。大石編集委員は「オバマ氏は習近平国家主席の強硬姿勢に手を焼きつつ、大筋では米中が足並みをそろえる協調路線を採ってきた。次女には小学校から中国語を習わせた」と書いた後で「こうした中国観」と述べている。しかし、どういう「中国観」なのか明確ではない。

例えば(1)中国は困った国だ。表面的には仲良くすべきだが、決して信用してはダメだ(2)中国は時に強い態度に出るが、基本的には話せば分かる国だ。信用してもよい--という2つの中国観があるとしよう。この2つは大きく異なる。だが、大石編集委員が与えてくれたヒントからは、オバマ氏に関して(1)(2)の両方があり得る。これでは話にならない。そもそもヒントはあっても、「オバマ氏の中国観」そのものには全く触れていない。大石編集委員もよく分からないのだろう。

次は「原点」だ。オバマ氏の中国観の原点は孫文にあるというのが大石編集委員の主張のようだ。しかし、単なる想像に過ぎない。孫文と同じ学校で学んだのは確かなのだろうが「(オバマ氏の著書である)『マイ・ドリーム』に孫文は登場しない」らしい。「オバマ氏が(孫文に)親近感を抱いている証拠ならばある」と大石編集委員は言うものの、とても証拠として採用できる代物ではない。

その「証拠」とは「孫文の最初の妻である盧慕貞の孫モナ・リーさんの夫を政権で2人目の中国大使に任命した」ことだ。「2人目の中国大使」と孫文の関係はかなり薄い。それに、関係があるからと言って「孫文に親近感を抱いていたから任命した」と決め付けるのは無理がある。「親近感を抱いていた可能性も否定できない」といった程度の話だ。

ついでに言うと「広東省の農村で育った孫文が“文明”に初めて出会ったのは13歳から17歳までをすごしたハワイにおいてだ」という説明には大石編集委員の偏見を感じた。“”を付けているとはいえ、当時の中国を未開社会のように扱うのは頂けない。中国文明の歴史は数千年に及ぶ。「当時の広東省の農村は中国文明の外側にいた」と大石編集委員は思っているのだろうが…。

記事のその後もあまり意味がない。参考までに中身を載せておこう。

【日経の記事】

そのせいか、嫌中派が多い安倍政権はオバマ氏と馬が合わない。

「出ばなでガツンとやっておかなかったから、なめられた」「ツー・リトル、ツー・レイト」。こんな悪口をよく聞く。中国が南シナ海に軍事拠点を構築中という報告を受けながら、なかなか軍艦を派遣しなかった。先手必勝のパワーポリティクスがわからない外交下手ということらしい。

何となくもっともらしいが、早い段階で米軍が出張っていれば中国はあきらめておとなしくしたのか。2001年には中国の戦闘機が米偵察機と空中衝突する海南島事件があった。この手の小競り合いが起きていたに違いない。

そんな危うい選択肢をオバマ氏が選ぶわけがない。自著『合衆国再生』で外交政策について「孤立主義に回帰する」と書き、就任後は「米国は世界の警察ではない」と断言したのだ。

「オバマ氏が臆病で優柔不断だから」。日米のずれを人柄のせいにできる間はまだましである。「米国は日本の島の面倒まで見切れない」。軍略家エドワード・ルトワック氏はこう予言する。次の大統領もオバマ路線だったとき、日米同盟の動揺は避けがたい。安倍政権はどう対応するだろうか

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次の大統領もオバマ路線だったとき、日米同盟の動揺は避けがたい。安倍政権はどう対応するだろうか」という締め方は、いわゆる「成り行きが注目される」的な結論で、基本的に好ましくない。それに「次もオバマ氏と似た考えの大統領だったら、安倍政権はどうするのかな」と大石編集委員が訴えたかったのならば、長々とハワイの学校の話をして、オバマ氏と孫文を結び付ける必要などない。

次の政権がオバマ政権と似た中国政策を採る可能性を探った上で、日本としての対応策を論じた方が意味がある。しかし、そういう構成を選んではいない。記事を通して読むと「書くことがないから、ハワイで見たオバマの母校の話でもして行数を稼いで、その後は適当に日米同盟の話でもすれば記事が作れるだろう」との大石編集委員の考えが透けて見える。

日経での大石編集委員の立場を考えれば、この手の雑な記事を書いても社内のどこからも文句は来ないだろう。だが、そこに安住して完成度の低い記事を垂れ流すのは、自分のためにも読者のためにもならないと早く気付いてほしい。

※記事の評価はD(問題あり)。大石格編集委員への評価もDを据え置く。

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