2016年8月20日土曜日

最後まで「個人が主役」にならない日経「新産業創世記」

日本経済新聞の朝刊1面で連載している「新産業創世記~そう、個人が主役」がようやく終わった。20日の第5回の見出しは「スマホ『箱』から『相棒』へ ニーズ、AIがくむ」。この最終回は「個人が主役」とほぼ無関係な話に終始してしまった。企画の段階での失敗を連載の最後まで引きずってきた印象が強い。
三柱神社(福岡県柳川市) ※写真と本文は無関係です。

第5回には初歩的なミスも出てくる。記事には「Jiboの事業化を担うスティーブ・チェンバース最高経営責任者(CEO)」が出てくるが、この人物がどこの会社のCEOなのか謎だ。

記事の全文は以下のようになっている。

【日経の記事】

米東海岸ボストン。ここに愛嬌(あいきょう)たっぷりに振る舞う小型ロボットがいる。名前は「Jibo(ジーボ)」。30センチメートルほどの身長で手足はないが、上部に備わる丸い平面ディスプレーは顔のようにも見える。地元の名門校マサチューセッツ工科大(MIT)の研究者が開発した。

試しに語りかけてみた。「今の英国の首相は誰だっけ」。上部の「顔」をひねるように傾けて2秒。「顔」がキュッと上に向いて答えた。「7月13日に就任したテリーザ・メイ」。どうだと言わんばかりだ。

Jiboの事業化を担うスティーブ・チェンバース最高経営責任者(CEO)は確信する。「ロボットがテクノロジーの新たな波になる」。音声認識や人工知能(AI)の技術革新でロボットの知能水準は格段に上がったがエンジニアは満足しない。今の焦点は人らしい振る舞いの実現だ。

シャープが5月に税別19万8千円で発売した「ロボホン」。スマートフォン(スマホ)として使えるこのロボットも首をかしげたり、うなずいたりして対話をする。「スマホを進化させて愛着を持てるパートナーにしたかった」。開発を担当した景井美帆さん(37)は話す。

それにしても、なぜ、私たちは人のように振る舞うロボットを欲しがるのか。「ただの『箱』に話しかけ続けるには限界があるでしょう」。ロボホンの共同開発者でロボットクリエーターの高橋智隆氏(41)はちょっとしたしぐさにこだわった理由を説明する。

より自然に、より親しみやすく――。こうなれば、人はもっとロボットに感情移入でき、冗舌になれる。AI機能を持つロボットなら、そのうち細かく指示を出さなくても利用者の意をくみ取って広大なネット空間から必要な情報を探し出すようになるはずだ。「今後は仮想空間の情報と実世界の場所やモノを結びつける技術が普及する」と神戸大の塚本昌彦教授(51)は見る。

確かな予兆がある。今夏、世界で大ブームを巻き起こしたスマホ用ゲーム「ポケモンGO」。同ゲームではスマホのカメラが捉えた実世界の映像に、スマホの位置情報と連動して仮想の生き物であるポケモンが現れる。

社会にインパクトを放つ技術が次々に生まれている。そのひとつひとつの技術をどう新産業としてまとめ上げるか。世界を変えたスマホ「iPhone」も要素技術の多くは日本企業が持っていた。なのに作り出せなかった。時代を先取りする構想力が欠けていたからではないか。

「未来は自分でつくるもの」。経営学者のピーター・ドラッカー氏はそう説いた。そして彼はこうも言っている。「自ら未来をつくらない方がリスクは大きい」

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この記事を読んで「そう、個人が主役」と納得できただろうか。「えっ! そんなテーマでしたっけ?」といった感想を抱くのが普通だ。ジーボは「地元の名門校マサチューセッツ工科大(MIT)の研究者が開発した」のだから、「個人が主役」と関連付けていると取材班では考えたのかもしれない。

ただ、大学での研究の一環であれば「個人が主役」とは言いにくい。事業化を目指しているのは企業のようなので「企業が主役」とも言える。大学も企業も個人の集合体だから、広い意味で「個人が主役」なのは確かだ。しかし、その意味での「個人が主役」ならば、わざわざ企画のテーマにする必要はない。「社会の主役は人間」と言っているのと大差ない。

そう、個人が主役」とのテーマに説得力を持たせるためには、政府でも自治体でも大学でも企業でもNPOでもない、組織には属さない個人が新産業を生み出そうとしている姿を描き出す必要がある。個人的には「いかにも挫折しそうなテーマだな」とは思う。しかし、取材班では「行ける」と判断したのだろう。だったら、最後まで「個人が主役」を追求してほしかった。

スティーブ・チェンバース最高経営責任者(CEO)」がどこの会社のCEOか分からない問題に関しては、調べてみると「Jibo, Inc」のCEOのようだ。しかし、記事から読み取るのは不可能だ。今回の連載の取材班だけでも18人もいる。他にも、記事審査部の担当者や編集局次長らが記事に目を通しているはずだ。なのに誰も気付かなかったのか。そうだとしたら、記事作りに関してプロ集団とは言い難い。

取材班のメンバーには今回の連載の失敗を次に生かしてもらいたい。今のやり方を続けていては質的向上は望みにくい。連載の作り方を抜本的に見直す必要がある。「未来は自分でつくるもの」であり、今こそ変革の時だ。「自ら未来をつくらない方がリスクは大きい」と各人が肝に銘じてほしい。


※連載全体の評価はD(問題あり)。担当デスクの筆頭と思われる菅原透氏への評価はDを維持する。

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