2016年8月27日土曜日

投資初心者の誤解を誘う日経「ロボット運用 日本で起動」

ロボット・アドバイザー」を前向きに紹介する記事が日本経済新聞にまた出ていた。26日朝刊総合2面の「ロボット運用 日本で起動 世界最大手など20社が参入へ」という記事だ。2日の夕刊マーケット・投資2面に田村正之編集委員が書いた「マネー底流潮流~広がる『投信おまかせ革命』」ほどではないが、やはり問題は感じる。
柳川の川下り(福岡県柳川市) ※写真と本文は無関係です

この手の記事が目立つのは、ロボアド関係者の日経に対するプロモーションが上手いからだろう。「フィンテック」「AI」といった流行り言葉と絡めて書けるのも、記者からすれば魅力だ。しかし、投資に関する多少の知識があれば、検討する価値のないサービスだと判断できるはずだ。日経の記者であれば、知識の乏しい投資家に対し「ロボアドに近づくな」とのメッセージを発してほしい。

まずは記事の前半部分を見ていこう。

【日経の記事】

コンピューターのプログラムが個人投資家に資産運用を助言する「ロボット・アドバイザー」が日本で普及期に入ろうとしている。世界最大の運用会社、米ブラックロックが近くサービスを始めるほか、大和証券や松井証券など証券会社も参入する。ベンチャー企業を合わせれば来春までに20社弱がサービスを提供する。個人金融資産1700兆円を巡り、競争が激しくなりそうだ。

ロボット・アドバイザーはコンピュータープログラムが個々の投資家の志向に応じ、最適な運用資産の配分を提案するサービス。先行する米国では大手だけで資産残高が4兆円に達する。「何歳か」「投資経験はあるか」など簡単な質問に答えれば「先進国株」「新興国債券」「金」などを組み合わせた運用メニューを数分ではじき出す。スマートフォン(スマホ)やパソコンを通じ、気軽に利用できる。

最大の強みは金融とIT(情報技術)を組み合わせたフィンテックが可能にしたコストの低さだ。手数料は運用額の0.2~1%にとどまり、富裕層が利用するプライベートバンキングや、金融機関に運用を任せる既存のラップ口座(2~3%程度)を下回る。ロボアドの資産配分は個々人で異なり、単純比較は難しいが、手数料が安い分だけ運用成績の面でも有利になる可能性が高い

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ロボアドについて「手数料は運用額の0.2~1%」と書いているが、不正確だ。記事に付けた表を見ると、松井証券の年間手数料は「0.2~0.7%(信託報酬)」となっている。これは投資家が保有する投信の信託報酬であり、ロボアド自体の手数料ではないのだろう。ロボアドの手数料がゼロならば、その点は明示してほしい。

信託報酬も含めて考える場合、例えば、お金のデザインでは「運用額の1%」の他にETFの信託報酬も投資家が負担するはずだ。結局、この表では手数料の比較の基準が揃っていない。

また、「手数料は運用額の0.2~1%」とすると「1.1%以上」はないような印象を受ける。しかし表では大和証券の手数料が「1%台前半」となっている。だとすると表記は「~1.5%」とでもした方が適切だ。

そして、最も問題なのが、ロボアドの「コストの低さ」を強調している点だ。手数料1%のロボアドであればコストは「ラップ口座(2~3%程度)を下回る」し、「手数料が安い分だけ運用成績の面でも有利になる可能性が高い」のも確かだ。しかし、これは「ものすごくダメなものよりはマシ」というだけの話だ。

投資家を100人ずつ3つのグループに分けるとしよう。投資対象は100本のETFから自由に選ぶとする。第1グループは手数料2%のラップ口座、第2グループは手数料1%のロボアドを使い、第3グループは投資初心者が自分で考えてETFを組み合わせる。この場合、手数料を含めた運用成績はどのグループが最も優れているだろうか。長期的に見れば、第3のグループが勝つと見て間違いない。記事で言うように「手数料が安い分だけ運用成績の面でも有利になる」からだ。

ロボアドに頼っても手数料分を超えて利回りが良くなるわけではない。手数料分だけ利回りが低下すると理解すべきだ。「ロボアドならば、年齢やリスク許容度に応じて適切な資産配分を提案できる」といった反論はあるだろう。だが、1%もの手数料を払ってわざわざ運用成績の面で不利な側に回りたいと思えるだろうか。十分な投資知識があるのに手数料1%のロボアドを選ぶ人はほとんどいないはずだ。

表で紹介している三菱UFJ国際投信はロボアドには手数料がかからないが、これは自社の投信の中から“最適”なものを選んでくれるだけなので、「アドバイザー」としては問題外だ。

年内に公募投信を組み合わせたサービスを開始」する松井証券の場合、ロボアドに手数料が不要で、さらに「信託報酬0.2~0.7%」の投信の品ぞろえが豊富であれば、検討に値するかもしれない。ただ、今回の記事では情報が少なすぎて何とも言えない。

ちなみに記事では、ロボアドの注意点を以下のように説明している。

【日経の記事】

ただ08年の金融危機以降に広がった新しいサービスのため、世界の金融市場に大きなショックが加わった場合の運用成績への影響は未知数だ。世界の金融商品に分散投資するため、為替リスクも負うことが多い。

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「金融危機以前からロボアドが存在していれば、世界の金融市場に大きなショックが加わった場合の運用成績への影響も分かる」というニュアンスを感じる。しかし、「世界の金融市場に大きなショックが加わった場合の運用成績への影響」は常に「未知数」だ。しかも、それはロボアドに限った話ではない。ロボアドに関しては「コストの高さ」に最大の問題があると見るべきだ。

ついでにもう1つ指摘したい。

【日経の記事】

大手金融機関も次々と参入を表明している。大和証券は来年1月にロボアド技術を使うサービスを提供。松井証券も年内に公募投信を組み合わせるサービスを始める。

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松井証券は「大手金融機関」なのか。ブルームバーグの2014年の記事では、「大手証券5社」として、みずほ証券、三菱UFJモルガン・ スタンレー証券、SMBC日興証券、野村ホールデ ィングス、大和証券グループ本社を挙げていた。大手証券にも入らないのならば、「大手金融機関」と呼ぶのはちょっと苦しい気がする。


※記事の評価はD(問題あり)。田村正之編集委員による「マネー底流潮流~広がる『投信おまかせ革命』」については「『投信おまかせ革命』を煽る日経 田村正之編集委員の罪」を参照してほしい。

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