2016年8月15日月曜日

「中銀や役所 さらば」には程遠い日経1面「新産業創世記」

日本経済新聞のダメな朝刊1面企画の典型と言える「新産業創世記」の連載がまた始まった。今回のテーマは「そう、個人が主役」。15日の第1回には「ブロックチェーンがお墨付き 中銀や役所 さらば」との見出しも付いている。「解き放たれる『個』の力が新産業を創り出す。その波頭を追う」というのが今回の連載の狙いらしい。しかし、目論見は初回から外れてしまったようだ。
筑後川と亀(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です

以下の記述から「解き放たれる『個』の力が新産業を創り出す」と思えるだろうか。あるいは「役所 さらば」と感じるだろうか。

【日経の記事】

北欧バルト海に面するエストニア。日本の9分の1の国土で人口130万人の小国でIT(情報技術)を活用した行政の効率化が進む。納税から出生証明、事業所の開設……。この国ではあらゆる行政サービスが国民一人ひとりに割り当てられたIDを埋め込んだICカード1枚で済む。

同国に拠点を置くIT企業ガードタイムが開発した認証システムが行政サービスを支える。同社は07年の創業以来、ITインフラ作りを進める政府に協力。ブロックチェーン技術を取り入れたことで、膨大な処理を瞬時でこなし、サイバー攻撃にも耐えるシステムを作り上げた。

米国でも事業を拡大、医療や交通の分野でも顧客を増やす。ディレクターのマーティン・ルーベル氏(40)は「もともとエストニアは国が小さい。世界市場をめざして開発してきた」と語る。

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上記のくだりはエストニアで「IT企業ガードタイムが開発した認証システムが行政サービスを支える」という話だ。このシステムを使えば役所は不要になるのだろうか。ガードタイムが、あるいはブロックチェーン技術が、役所の代わりになってくれるだろうか。

この国ではあらゆる行政サービスが国民一人ひとりに割り当てられたIDを埋め込んだICカード1枚で済む」のが事実だとしても、それは役所なしには成り立たないはずだ。上記の話はIT企業が新たな技術を使った情報管理システムを開発し、それを国が採用しただけだと思える。

役所 さらば」と見出しに付けるならば「このシステムがあれば役所なんか要らないな」と感じられる事例が欲しい。

以下の話はさらに辛い。

【日経の記事】

企業向け管理システムを販売するサテライトオフィス(東京・江東)は7月半ばからブロックチェーン技術を活用した社内管理システムを使い始めた。提供したのはベンチャー企業のシビラ(大阪市)。記録が残るというブロックチェーンの長所に目を付け、社内外からの不正アクセスの動作記録から犯人を割り出せるようにした。

シビラの藤井隆嗣社長(31)は確信する。「ブロックチェーンを生かせば我々の生活はもっと便利になる」

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この話は「中銀や役所 さらば」と全く関係がない。「ブロックチェーン技術を活用した社内管理システム」について述べただけだ。しかも「提供したのはベンチャー企業のシビラ」。エストニアのIT企業の話も含めて、今回の記事には「解き放たれる『個』の力が新産業を創り出す」事例が皆無だ。シビラの取り組みも、ベンチャー企業が新しい社内管理システムを作ったに過ぎない。

なのに記事では以下のように結んでしまう。

【日経の記事】

中央銀行や政府が担ってきた「お墨付き」という行為。強大な権力を持つ機関が手掛けるから、認証を受けたモノの価値も高まった。だが、ブロックチェーンでは世界に散らばる無名の個人や小さな企業であっても認証作業ができる。デジタル技術が、世界を長く支配してきた中央集権の構造を突き崩す

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ブロックチェーンはシステムの維持に個人の力を活用しているのだろう。しかし、それは「解き放たれる『個』の力が新産業を創り出す」のとは別の話だ。記事に出てくる「ガードタイム」や「シビラ」といった企業も情報システムの革新には取り組んでいるかもしれないが、「新産業」を生み出しているようには見えない。

強いて言えば、今回の記事では冒頭で触れた「ビットコイン」が「新産業」に近い。しかし「仮想通貨」を「新産業」と呼ぶのはやや無理がある。例えば、電子マネーが登場した時に「新産業」だと感じただろうか。そして現在、電子マネーは1つの「産業」として認識されているだろうか。

ブロックチェーン技術を使ったビットコインに「中央銀行不要」「個人のつながりがシステムを支える」という特徴があることにヒントを得て、取材班では今回の記事を企画したのではないか。それで「ブロックチェーンを使って個人が新たな動きを生み出している話」を集めようとしたものの、上手くいかなかったのだろう。なのに強引に話をまとめたのが第1回だと思える。

初回からこれだけ苦しいのだから、2回目以降は推して知るべしだ。

※記事の評価はD(問題あり)。

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