2016年8月3日水曜日

「投信おまかせ革命」を煽る日経 田村正之編集委員の罪

心の底から落胆させてくれる記事が2日の日本経済新聞夕刊マーケット・投資2面に出ていた。 田村正之編集委員が書いた「マネー底流潮流~広がる『投信おまかせ革命』」 というコラムがそれだ。「ロボアドバイザー」の指示に従った投資の広がりを田村編集委員は「投資信託おまかせ革命」と呼び、歓迎すべき動きとして紹介している。何でもすぐに「革命」と呼びたがる田村編集委員ではあるが、こんなものが「革命」だと本気で思っているのだろうか。だとしたら、絶対に信用してはいけない書き手だ。
柳川の川下り(福岡県柳川市) ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

自分に向いた資産配分を低コストで構築できる「ロボアドバイザー」が、若い世代に広がり始めている。いわば「投資信託おまかせ革命」だ。

「予想を大きく上回る体験者数。しかも9割弱が20~40代」。ロボアドを使った資産運用サービス「THEO(テオ)」を提供するお金のデザイン(東京・港)の北沢直取締役はそう話す。

簡単な質問に答えるとその人に向いた資産配分がわかり、それに合わせて世界中の上場投信(ETF)の中から数十本を選んで買い付けてくれる。大きな価格変化があれば資産配分の再調整もする。数あるロボアドの中でも最も緻密な部類のサービスで、総コストは年1%強だ。

2月のサービス開始以来100日間で7万人以上が体験し、実際の申込者も5000人を超えた。「全体の9割弱がほぼ投資未経験者。若い世代に国際分散投資を促す狙い通りの展開」(北沢氏)と話す。体験者は現時点で10万人を突破している。

みずほ銀行のロボアド「スマートフォリオ」は去年10月のサービス開始。利用者のうち25~54歳の資産形成層が6割だ。「利用者のコストは信託報酬だけで、平均は年0.6%台」(みずほ銀行)

地方銀行に急速に広がりつつあるのが、三菱UFJ国際投信のロボアド「ポートスター」だ。個人のリスク許容度を無料で診断する。同社はポートスター稼働に合わせ、リスク水準が異なるバランス型投信5本で構成する「eMAXIS最適化バランス」シリーズを立ち上げている。


ポートスターでリスク許容度を診断すれば、5本の中から最適な1本が提示される。信託報酬(年0.5%)以外にコストはかからない。お金のデザインほどの緻密さは望まず、ざっくりとした診断で低コストで運用したい向きに適している。

「販売会社は現在13社と急速に広がり、中でも地銀が7社と多い。近く販社は20社になりそう」(代田秀雄取締役)。地銀は開拓が難しかった30~40代の資産形成層に食い込む武器になるとみているようだ。サービス開始後の体験者数は7万を超える。

最近、低コストの投信の品ぞろえが急速に進み、ネットを通じて興味を示してきたのが若い年齢層だ。しかしそれをどう組み合わせればいいのか自信がない人も多かった。ロボアドがその隙間を埋めつつあるのかもしれない。診断プロセスの開示など課題も残るが、若い世代の投資への入り口を広げつつあるのは間違いないようだ。

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読んでもらえれば分かるが、この記事はほぼ「広告」だ。「ロボアドバイザー」の問題点に触れているのは、わずかに「診断プロセスの開示など課題も残るが」という部分のみ。後は節操もなく「投信おまかせ革命」を煽っている。

百歩譲って「投信おまかせ革命」が起きているとしよう。それは歓迎すべき事態なのか。個人的には「危険すぎる革命が起きている」としか思えない。

「投信をどうやって選んだらよいのか分からない」と考えている若い世代が「そうか。投信おまかせ革命が起きてるんだから、ロボアドの指示に従って素直に投信を買えばいいんだ」と信じ込むのは好ましいだろうか。投信を売る側が歓迎するのは分かる。だが、投資する側は都合よく操られるだけだ。

身近にそういう人がいたら、こう助言するだろう。「業者が提供するロボアドに従ってよく分からないまま投信を買うなんて、まさにカモ。投信を選ぶ基準さえ持ち合わせていないのなら、投資なんか考えるな。預貯金か個人向け国債で十分。投信に手を出したいなら、まずは知識を持て」。

記事で紹介している「お金のデザイン」の「THEO(テオ)」に関してはコストが高すぎて話にならない。「総コストは年1%強」と田村編集委員は書いている。テオの手数料が1%で、ETFの信託報酬が上乗せされるようだ。だが、テオに年1%も払ったら、低コストのETFに投資するメリットが台無しだ。

手数料は1000万円の投資であれば年10万円にもなる。それだけの手数料を払っても利回りを上乗せしてくれるわけではない。むしろ悪化要因だ。例えば投資家を100人ずつに分けて、以下のような条件で10年間投資をするとしよう。どちらの利回りが高くなるか考えてほしい。

(1)テオに任せて運用する。もちろん年1%の手数料を払う。

(2)テオが運用対象としているETFの中から投資家本人の判断で適当にポートフォリオを組んでもらう。投資家はETFの売買手数料と信託報酬を負担する。

手数料を考慮しなければ、(1)も(2)も平均利回りに有意な差は出ないだろう。しかし手数料に差があるので、(2)の利回りが(1)を上回るはずだ。

「テオに従った方がきちんと分散投資ができる」との反論は出るかもしれない。しかし、投資対象はETFだ。どう選んでもかなりの分散はできている。「先進国株だけでなく新興国株も組み入れるべきだ」といったレベルの話ならば、それほど重要ではない。リバランスも同様だ。1%もの手数料を払ってまで対応すべき問題ではない。

「利回りが落ちてもいい。十分に分散してくれてリバランスもしてくれるのならば、1000万円の投資で年10万円の手数料は高くない」と考える投資家がいるかもしれない。しかし、わざわざ手数料を払って「平均的に利回りで負ける側」に加わりたい人はかなりの少数派だろう。

では、無料のロボアドならいいのか。これも自社の商品に誘い込むものならば論外だ。三菱UFJ国際投信のロボアド「ポートスター」について記事では「(同社の)バランス型投信5本で構成する『eMAXIS最適化バランス』シリーズ」の中から「最適な1本が提示される」と説明している。つまり自社の商品を買わせるためのツールだ。「三菱UFJ国際投信のバランス型投信以外は選択肢に入れたくない」と決めているならば話は別だが、幅広い選択肢の中から商品を選びたい投資家は近寄るべきではない。

使ってもいいロボアドがあるとすれば、中立的な助言に対して1回だけ料金を取り、ロボアドの提供者が商品の購入には関わらないものだろう。ポートフォリオを組んでしまえば、あとはリバランスをするだけなのに、毎年1%もの手数料を取るようなロボアドは無駄にリターンを低下させるだけだ。

ファイナンシャルプランナーの資格を持っているのが自慢の田村編集委員はそのぐらい百も承知のはずだ。では、なぜ金融業界に魂を売り渡すような記事を書いてしまったのか。

三菱UFJ国際投信の「ポートスター」を同社のホームページで見ると「あなたに合わせた資産配分は、グローバル視点で豊富な実績を有する『イボットソン・アソシエイツ・ジャパン』が提示」と出ていた。イボットソンと言えば、田村編集委員の記事に頻繁に登場する会社だ。今回の記事がイボットソンなど日ごろお世話になっている金融業界の方々へのお礼や配慮でなければよいのだが…。


※記事の評価はD(問題あり)。田村正之編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。田村編集委員については「ミスへの対応で問われる日経 田村正之編集委員の真価」「日経 田村正之編集委員が勧める『積み立て投資』に異議」「投資初心者にも薦められる日経 田村正之編集委員の記事」「なぜETFは無視? 日経 田村正之編集委員の『真相深層』」「功罪相半ば 日経 田村正之編集委員『投信のコスト革命』」「無意味な結論 日経 田村正之編集委員『マネー底流潮流』」「リバランスは年1回? 日経 田村正之編集委員に問う」も参照してほしい。

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