2022年4月6日水曜日

台湾有事の肝に触れた点は評価できる日経「安保法体系の死角(上)」

6日の日本経済新聞朝刊 政治・外交面に載った「安保法体系の死角(上)『有事』どう迅速に認定~日本、明確な判断基準が不可欠 自衛隊を活動しやすく」という記事は悪くない。肝心な問題を論じることから逃げている秋田浩之氏(肩書は本社コメンテーター)らは見習ってほしい。

耳納連山に沈む夕陽

日本にとって台湾有事の際の肝に触れた部分を見ていこう。「自衛隊の元幹部らが集まり、21年夏にシミュレーション演習を実施した」時の状況について以下のように書いている。

【日経の記事】

演習では、さらに中国が台湾限定で攻撃を始め「米国に協力すれば日本を攻撃対象とする」と脅しをかけてくる想定も加えた。ここでも事態認定はできなかった。

中国が台湾と同時に日本の領土である尖閣諸島や南西諸島にも攻撃を加えれば、明確な「武力攻撃事態」と認定できる。そうでないケースは判断が難しい。明確な判断基準が不可欠となる。

政府が事態認定しなければ、南西防衛にあたる自衛隊は米軍と共同で防衛準備にあたることもできない。100キロほどしか離れていないところで戦闘行為があるにもかかわらず、自衛隊は平時の活動しかできない。

元内閣官房副長官補の兼原信克氏は南西諸島近辺で戦う米軍から軍事協力を要請されても日本が動かなければ「日米同盟の関係性は危機的状況に陥る」と解説する。

日本や米国は台湾を国として承認していない。米国が軍事介入せず、武器の供与などにとどまった場合も悩ましい。「存立危機事態」の認定条件にある「密接な関係にある国に対する武力攻撃」という基準を満たすか微妙になる

岩田氏(※注:元陸上幕僚長の岩田清文氏)は「新しい内閣ができるたびに台湾有事を想定したシミュレーションをする仕組みを設けるべきだ」と提言する。


◎逃げずに考えよう!

中国が台湾と同時に日本の領土である尖閣諸島や南西諸島にも攻撃を加えれば、明確な『武力攻撃事態』と認定できる。そうでないケースは判断が難しい」との指摘はその通りだ。

「台湾有事は日本有事だ」などと訴える人の多くは、この問題をすり抜けるために日本も同時に攻撃される前提を置いてしまう。しかし、考えなければいけないのは「判断が難しい」ケースの方だ。そこに言及した点は評価できる。

ただ「米国が軍事介入せず、武器の供与などにとどまった場合も悩ましい。『存立危機事態』の認定条件にある『密接な関係にある国に対する武力攻撃』という基準を満たすか微妙になる」との説明は苦しい。普通に考えれば「密接な関係にある国に対する武力攻撃」には当たらない。

米国」への攻撃に向けてA国がB国に「武器の供与」を進めているというなら話はまだ分かる。逆に「米国」が「武器の供与」を進めていて「武力攻撃」は受けていない。その段階でどう解釈すれば「密接な関係にある国(=米国)に対する武力攻撃」と見なせるのか。

台湾有事で最も考えてほしいのが「中国が台湾限定で攻撃を始め『米国に協力すれば日本を攻撃対象とする』と脅しをかけてくる想定」だ。日米同盟の強化を念仏のように唱えて属国路線を支持してきた日経には非常に難しい局面と言える。なので秋田氏らも判断から逃げているのだろう。

南西諸島近辺で戦う米軍から軍事協力を要請されても日本が動かなければ『日米同盟の関係性は危機的状況に陥る』」だろう。属国路線を突き進めば米国に協力する形で対中戦争に踏み切ることになる。日本防衛のためではない。「日米同盟」を守るためだ。

平和を守りたいなら「日米同盟」の強化が必要と日経は訴えてきた。しかし上記の想定では「日米同盟」の存在ゆえに望まない戦争に巻き込まれる。しかも中国の内戦に軍事介入する形となる。結果として多くの自衛隊員が命を落とすだろう。

それだけで済むとは限らない。在日米軍基地や自衛隊基地が攻撃対象になれば、周辺の民間人にも被害が及ぶ可能性が高い。戦争に負ければ、一部の領土を奪われたり全土を占領されたりといった事態もあり得る。

それでも「日米同盟」を守るために中国の内戦に軍事介入すべきなのか。そう問われると「日米同盟」の強化を念仏のように唱えていた日経の書き手もひるむはずだ。

結果として「起きては困ることは考えない」という思考停止状態に陥ってしまう。今回の記事を読む限り、日経にも思考停止をせずこの問題と向き合っている書き手がいるのは分かる。そこに期待したい。


※今回取り上げた記事「安保法体系の死角(上)『有事』どう迅速に認定~日本、明確な判断基準が不可欠 自衛隊を活動しやすく

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220406&ng=DGKKZO59738190V00C22A4PD0000


※記事の評価はC(平均的)

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