FACTA3月号に永井悠太朗氏が書いた「割高の日経電子版に購読者『80万の壁』~創刊12年で頭打ち。本紙との合計も260万まで減少。打開策は値引きか、値上げか?」という記事は納得できる内容だった。記事の中身を見ながら、紙の新聞も電子版も購読する日経の一読者として思うところを述べてみたい。
両筑橋架け替え工事現場 |
【FACTAの記事】
日本の新聞業界でデジタル版の優等生と言われる日経電子版の有料会員が伸び悩んでいる。2021年7月に初めて80万人を超えたものの、22年1月には79万人台に後戻りしてしまった。日経新聞朝刊販売部数との合計も18年中に300万を割り、22年1月には約260万まで下がった。朝刊の部数減が加速する中、電子版の「80万の壁」をどう乗り越えるのか。日経新聞社のデジタル戦略は正念場を迎えている。
日経電子版は10年3月に他の全国紙に先駆けて創刊。同年10月にiPhone(アイフォーン)に対応したことも手伝って、12月には有料会員は早くも10万人を突破。12年4月に20万人、13年5月に30万人、15年4月には40万人に達した。さらに17年1月には50万人、18年6月には60万人、そして創刊10年目前の20年2月には70万人を超えるなど、伸び悩む朝日新聞デジタルなど他社のデジタル版に比べおおむね順調な伸びを示してきた。
ところが、20年7月に76万7978人に達した後、21年1月には76万244人とわずかながらもマイナスに。同年7月には81万1682人と80万の大台に乗せたものの、22年1月には再び79万7362人までダウンするなど、「80万の壁」をスッキリと超えるところまではいけていない。
一方、日経朝刊の販売部数(日本ABC協会調べ)は02年7月の310万部をピークに減少傾向が続いている。12年1月に300万部を切り、20年12月には1983年9月以来37年ぶりに200万部を割り込んだ。直近の21年12月には181万部と、80年の水準まで落ち込んでいる。有力紙の販売関係者によると、実際の購読者を上回る部数の仕入れを販売店に強いる「押し紙」が日経新聞の場合2、3割程度あるので実売部数は125万~145万部程度とみられる。
日経電子版と朝刊の合計数の推移を見ると、電子版創刊以降18年初めまでは300万台を確保しており、朝刊の部数減を電子版の伸びで補うことができていた。特に17年は321万と最高を記録した。しかし18年以降は、「押し紙」の整理・削減を進めたことも相まって部数減が電子版の伸びを明らかに上回るようになり、21年1月には275万、22年1月(朝刊部数は21年12月の数字)には261万まで下降した。
20年の前半まではほぼ順調に伸びていた日経電子版が、それ以降はなぜ頭打ち傾向に陥ってきたのか。背景の一つには購読料の割高感がある。日経電子版の情報に月額4277円(電子版単独の場合)、年額5万円余りを払おうという意欲、払える余裕のあるビジネスマンや経済・金融関係者は、労働力人口が減少している日本ではもう80万人程度が限界ではないか、という見方は同社内でもささやかれている。これまでは経済情報という優位性の故に一般紙のデジタル版より多くの読者を獲得できたが、その裏返しとして経済メディアとしてのマーケットの狭さに苦しみ始めているというわけだ。
◎「80万人程度が限界」には納得
「年額5万円余りを払おうという意欲、払える余裕のあるビジネスマンや経済・金融関係者は、労働力人口が減少している日本ではもう80万人程度が限界ではないか、という見方は同社内でもささやかれている」らしい。これは納得できる。むしろ「80万人」に届いたことが驚きだ。法人契約がどの程度あるのか分からないが、個人で言えば「80万人」は限界を超えている気もする。かなり無理して契約を伸ばしたのではないか。
「経済情報という優位性の故に一般紙のデジタル版より多くの読者を獲得できたが、その裏返しとして経済メディアとしてのマーケットの狭さに苦しみ始めている」との分析も的を射ている。そもそも小さな「マーケット」なのだ。
続きを見ていこう。
【FACTAの記事】
しかし、電子版とあまり料金が変わらない日経新聞(朝夕刊セット月額4900円、朝刊のみは4000円)朝刊の購読部数はまだ180万ほどある。朝日新聞もデジタル(全機能使用可)が3800円、朝夕刊セットで4400円、朝刊のみで3500円と、日経に比べ500円ほど安いという程度だ。割高感だけでは説明しきれない何かがありそうだ。
日経新聞社は「デジタル有料購読者100万」(20年有価証券報告書)を目標に掲げている。紙媒体は購読料に加え広告収入も生み出しているが、部数減が止まらず将来性は限られている。他方、電子版は将来性はあるものの、広告収入はこれからの課題だ。日経関係者によると現在でも紙の新聞の方が電子版より収入が多いという。
日経新聞社としては紙媒体が収入を生まなくなる前に、電子版を「看板役者」に育て上げねばならないのだが、現段階では紙の収入が依然大きいだけに電子版への全面的な切り替えに全力を挙げることにまだためらいがあるのではないか。ただ部数減はさらに加速していく可能性が高いため、いずれかの段階でその決断をしなければならなくなるだろう。
◎日経に3つの提言
「割高感だけでは説明しきれない何か」は永井氏にも分からないようだ。自分にも明確な答えはない。ただ、一読者としての要望は持っている。それを列挙したい。
(1)ミス放置をやめよう!
繰り返し指摘しているが、日経では読者からの間違い指摘を無視して多くのミスを放置してきた。長く続く悪しき伝統だ。読者の信頼を得て契約を伸ばしたいのならば、この悪習を断ち切るべきだ。
(2)「抜いた抜かれた」をやめよう!
「いずれ発表されるネタを発表前に記事にする」という意味での“スクープ”は要らない。他紙の“スクープ”を追いかける必要もない。追いかける場合でも、他紙の報道を見て慌てて確認に走るといった仕事はしなくていい。一読者としては、そんなことを求めていない。
「いずれ発表されるネタを発表前に記事にしたい」という気持ちで取材に当たると、どうしても取材先への忖度が過大になる。
永井氏も今回の記事を「これまで指摘されてきた産業界との持ちつ持たれつの関係を断ち切り、『ここでしか読めないコンテンツ』にまで磨き上げる努力が、結果的に購読者増につながると考える」と締めている。
「産業界との持ちつ持たれつの関係」を生む最大の要因が早耳筋系の“スクープ”を欲しがる体質だ。これこそが「報じなければ表に出てこない本物のスクープ」から日経を遠ざけている最大の要因だ。
(3)リスクを取れる書き手を育てよう!
日経では「しっかり議論を」型の社説が目立つ。筆者である論説委員の多くがリスクを取りたがらない書き手だからだろう。なぜそうなるのか。余計なリスクを避ける記者が社内で好まれて論説委員の地位を与えられるのではないか。
だとしたら、この流れを変えるべきだ。日経にとって重要なのは早耳筋系の“スクープ”を獲得できるヨイショ記者ではない。リスクをうまく回避しながら出世階段を登っていく世渡り上手な記者でもない。
大量の批判が返ってくるのを覚悟の上で鋭い分析や提言ができる記者だ。紙面を眺めながら、そういう記者を懸命に探しているが、なかなか見つからない。
その手の記者が増えてくれば「80万の壁」を超えられるとは言わないが、現状維持は可能ではないか。
※今回取り上げた記事「割高の日経電子版に購読者『80万の壁』~創刊12年で頭打ち。本紙との合計も260万まで減少。打開策は値引きか、値上げか?」https://facta.co.jp/article/202203005.html
※記事の評価はB(優れている)
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