7日の日本経済新聞朝刊グローバル市場面に小平龍四郎編集委員が書いた「近づく百貨店終焉の足音~物言う株主、小売りに触手」という記事は苦しい内容だった。 「百貨店終焉の足音」が近づいていると実感できる作りになっていない。
豆津橋と筑後川 |
中身を順に見ていこう。
【日経の記事】
2022年初めからの世界の株式市場の波乱は、放っておいても市場の隅々にお金がいきわたるイージーマネー時代の終わりを告げた。投資家の企業への要求水準は上がる。経営者は積年の課題に答えを出さなければならない。
セブン&アイ・ホールディングスが傘下のそごう・西武の売却に動き始めたのは、象徴的だ。構想が表面化する直前、セブン&アイに企業価値の向上を迫っていたアクティビスト(物言う株主)、バリューアクト・キャピタルが経営陣への書簡を公表。水面下で交渉していた「(企業価値を破壊している)非コンビニ小売業の代替的な所有構造の模索」、すなわち、百貨店事業の売却などに言及した。
セブン&アイの複合事業モデルへの批判は強く、21年7月発表の中期経営計画も百貨店事業の見直しを示唆していた。「影響力を誇示したいアクティビストが、経営陣の動きを察知して書簡の公表を急いだ」(米系投資銀行)との見方もある。
◎まだ前振り?
「セブン&アイ・ホールディングスが傘下のそごう・西武の売却に動き始めた」ことを「アクティビスト」と絡めて書いているが、 「百貨店終焉」という話にはなっていない。「非コンビニ小売業」の売却を「アクティビスト」が求めていたとしても「百貨店終焉」と結び付く訳ではない。
まだ前振りで、ここから「百貨店終焉」へとつながっていくのだろうか。続きを見ていこう。
【日経の記事】
世界的な新型コロナウイルス禍は消費行動を変え、米国発の金融引き締めは株主が企業に期待するリターン、すなわち資本コストを上昇させる。「コロナ」と「引き締め」の2要素が絡み、低収益の小売業に変容を迫っている。アクティビストは便乗する。この構図は洋の東西を問わず観察される。
1月半ば以降には米株式市場で大手百貨店コールズが動意づいた。アクティビストが取締役会刷新などを求める書簡を出したほか、複数の投資ファンドが買収に名のりをあげたからだ。
21年10月にはメーシーズが、ジャナ・パートナーズから電子商取引(EC)事業の分離を求められている。ノードストロームは事業見直しのために、最近になってコンサルティング会社と契約したと伝えられる。アクティビストの動きに先手をうった格好だ。
割高のテック株の先行きが不透明になり、株式市場の物色は、価値が潜む旧来型産業にも向かう可能性がある。そう読んだアクティビストの動きが日米市場で共振するかもしれない。
◎「買収」対象になっているなら…
「大手百貨店コールズ」には「アクティビストが取締役会刷新などを求める書簡を出したほか、複数の投資ファンドが買収に名のりをあげた」らしい。「百貨店終焉」とは逆の動きにも見える。「価値が潜む旧来型産業」との評価を受けたのではないか。「買収」した上で「百貨店」を潰す可能性も残るが、そういう説明はない。
「メーシーズ」に関しては「電子商取引(EC)事業の分離を求められている」らしい。「百貨店終焉」ならば「電子商取引(EC)事業」を残して店舗を売却しろと求められても良さそうなものだ。
「ノードストロームは事業見直しのために、最近になってコンサルティング会社と契約したと伝えられる」という話に至っては「百貨店終焉」に結び付かないだけでなく「アクティビスト」との関連も乏しい。
さらに記事を見ていく。
【日経の記事】
すでに日本はアクティビズムが盛んな国の一つだ。調査会社インサイティアによれば、昨年、アクティビスト提案を受けた日本企業は60社。5年前の2.5倍に増え、米国外ではオーストラリアに比肩するアクティビスト大国になった。
米国は提案を受けた企業数が456社と、5年間で約30%減った。米アクティビストは世界展開を急いでおり、22年はそれが加速すると読む市場関係者もいる。マネーを引きつける一つの強い磁場が、流通である。
◎「強い磁場が、流通」ならば…
上記のくだりも「百貨店終焉」と逆の動きに見える。「マネーを引きつける一つの強い磁場が、流通」で、特に注目されるのが「百貨店」ならば「百貨店終焉」には遠いと思える。
なかなか「百貨店終焉」が見えてこない。記事は終盤に入っていく。
【日経の記事】
市場の圧力にさらされる百貨店という業態は、どうなるのか。ECを分離するなら、店舗という残された器の未来は。「答えの一つは英国の名門百貨店が示している」というささやきを聞いた。
1909年にロンドンで第1号店を開業したセルフリッジズ・グループが、タイ大手流通セントラル・グループに買収されると決まったのは、昨年12月のこと。40億ポンド(6000億円強)規模ともされる買収価格の少なからぬ部分は、ブランドと店舗立地の良さへの評価が占めるもようだ。セントラルはロンドン一等地の旗艦店に高級ホテルを併設する構想と持つとも伝えられる。
そごう・西武も「好立地の店舗がばら売りされ、宿泊とイベント、ショールームの複合施設になる」との見立てがある。22年はデパート終焉(しゅうえん)の年にもなるのか。
◎「終焉の年にもなるのか」で終わり?
結局「百貨店終焉の足音」が近づいていると言える根拠は見当たらない。小平編集委員も「22年はデパート終焉の年にもなるのか」と問いかけているだけだ(なぜか「デパート終焉」になっている。「百貨店終焉」で統一した方がいい)。
小平編集委員に教えてあげよう。「22年はデパート終焉の年」にはならない。多くの「百貨店」が年末にも生き残っているはずだ。「百貨店終焉」が「世界中から百貨店が姿を消す」という意味ならば、1年足らずで全ての「百貨店」が消えてなくなる可能性はほぼゼロだ。
年末には日本橋高島屋も伊勢丹新宿店も大丸東京店も全て「百貨店」でなくなっている可能性が十分あると小平編集委員は思っているのか。だとしたら世間知らずが過ぎる。
「セルフリッジズ・グループ」に「百貨店という業態は、どうなるのか」の答えを求めるのならば「百貨店終焉」はないとなるはずだ。「ブランドと店舗立地の良さ」が評価されたのならば「ロンドン一等地の旗艦店」は生き残るのではないか。
「そごう・西武も『好立地の店舗がばら売りされ、宿泊とイベント、ショールームの複合施設になる』との見立てがある」との説明は謎だ。なぜ「そごう・西武も」なのか。「セルフリッジズ・グループ」も「好立地の店舗がばら売りされ、宿泊とイベント、ショールームの複合施設になる」という話なのか。仮にそうなら、その説明は要る。記事では「宿泊」にしか触れていない。
「そごう・西武」が「百貨店」として生き残っていけるのかは確かに分からない。しかし「そごう・西武」がダメだしても、それは「百貨店終焉」を意味しない。
例えば「日本では百貨店は5店しか残っていない。しかも大阪と名古屋では来月に百貨店が消えることが決まった。あとは東京の3店舗だけだ」といった状況ならば「デパート終焉の年にもなるのか」との問いが現実味を帯びる。
訴えたいことがなかったので辻褄合わせに大げさな言葉を使ったのだろう。記事を書くのに四苦八苦している印象を受ける。そろそろ後進に道を譲る時期ではないか。
※「近づく百貨店終焉の足音~物言う株主、小売りに触手」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220207&ng=DGKKZO79910950W2A200C2ENG000
※記事の評価はD(問題あり)。小平龍四郎編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。小平編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。
日経 小平龍四郎編集委員 「一目均衡」に見える苦しさ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_15.html
基礎知識が欠如? 日経 小平龍四郎編集委員への疑念(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_11.html
基礎知識が欠如? 日経 小平龍四郎編集委員への疑念(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_73.html
日経 小平龍四郎編集委員の奇妙な「英CEO報酬」解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_19.html
工夫がなさすぎる日経 小平龍四郎編集委員の「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_3.html
やはり工夫に欠ける日経 小平龍四郎編集委員「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_11.html
ネタが枯れた?日経 小平龍四郎編集委員「けいざい解読」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_20.html
山一破綻「本当に悪かったのは誰」の答えは?日経 小平龍四郎編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_10.html
日経「一目均衡」に見える小平龍四郎編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_14.html
相変わらず問題多い日経 小平龍四郎編集委員「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_53.html
何のためのインド出張? 日経 小平龍四郎編集委員「一目均衡」https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post.html
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