根拠を欠く楽観論とでも言うべきか。21日の日本経済新聞朝刊 総合・政治面に載った「ロシアはこの戦いに勝てない」という社説は説得力がなかった。社説の前半を見ていこう。
夕暮れ時の美津留川 |
【日経の社説】
ロシアがウクライナとの国境近くに部隊を集結し、いまにも軍事侵攻する態勢を整えている。
ウクライナ国民は徹底的に抵抗する構えだ。西側諸国もかつてない結束を示し、ロシアに対峙している。もし暴挙に出れば、プーチン大統領が重視する国際社会でのロシアの権威や評価は地に落ち、経済面でも大打撃を受ける。
侵攻するにせよ、しないにせよ、ロシアは最終的に、この「戦い」に勝利することはできない。即座に撤退するのが賢明だ。
主要7カ国(G7)は19日、ミュンヘンで緊急外相会合を開き、ロシアによるウクライナ国境近くでの軍備増強に「重大な懸念」を示す共同声明を発表した。侵攻すれば「経済・金融制裁を含め甚大な結果を招く」と警告した。
ドイツのベーアボック外相は18日、ロシアと結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」を稼働させない可能性を示唆。対ロ制裁で一歩踏み込んだ。
足並みの乱れが指摘されていた西側諸国だが、G7が一致してロシアに立ち向かう姿勢を示したことの意味は大きい。
特に、米国は一連の危機のなかでロシアの侵攻の兆候を示す情報を積極的に開示し、友好国と共有した。ロシアをけん制し、西側諸国が対策を講じる手助けとなったのは確かだ。
◇ ◇ ◇
疑問点を2つ挙げたい。
(1)どんな「戦い」?
「侵攻するにせよ、しないにせよ、ロシアは最終的に、この『戦い』に勝利することはできない」と書いているので「この『戦い』」は武力による戦争だけを指すのではないと取れる。とは言え、どんな「戦い」なのか明示していない。何を「勝利」の基準とするかも不明。それで「ロシアは最終的に、この『戦い』に勝利することはできない」と言われても困る。
見立てが正しかったか検証できないように、あえて漠然とした書き方にしたのかもしれないが…。
(2)なぜ「即座に撤退するのが賢明」?
「侵攻するにせよ、しないにせよ」結果は敗北だとしよう。その場合、どちらの方が敗北として受け入れやすいかで選択が定まるはずだ。「即座に撤退するのが賢明」と書いているのだから「侵攻する」方がロシアにとって失うものが大きいと日経は見ているはずだ。しかし、その根拠は見当たらない。
「もし暴挙に出れば、プーチン大統領が重視する国際社会でのロシアの権威や評価は地に落ち、経済面でも大打撃を受ける」かもしれないが、ウクライナへの実効支配を確立すれば「経済」などへの「大打撃」を上回る利益を得られるかもしれない。
利益より損失の方が圧倒的に大きいと日経が確信しているのならば、その説明は欲しい。
例えば「ウクライナ国民は徹底的に抵抗する構え」であり、ロシアがどんなに兵力をつぎ込んでも軍事的にウクライナに対して劣勢だと言うのならば「経済・金融制裁」などを覚悟してまで「侵攻」する意味はないだろう。だが、そうした記述もない。
結局「ロシアはこの戦いに勝てない」というのは分析ではなく願望なのだろう。そんな社説に意味があるのか。よく考えてほしい。
※今回取り上げた社説「ロシアはこの戦いに勝てない」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220221&ng=DGKKZO80322220R20C22A2PE8000
※社説の評価はD(問題あり)
「ロシアはこの戦いに勝てない」というのは分析ではなく願望なのだろう。そんな社説に意味があるのか。よく考えてほしい、とまでいうのであれば評価Dはない。
返信削除願望社説はミスリードという意味で読者に害があり、評価に値さえしない、また日経新聞自体の価値を損なう。