2022年2月23日水曜日

「大国衝突」時代に突入? 日経 秋田浩之氏「大国衝突、漂流する世界」の無理筋

日本経済新聞の秋田浩之氏(肩書は本社コメンテーター)がウクライナ問題に関して「大国衝突、漂流する世界」という記事を23日の朝刊1面に書いているが、内容はやはり苦しい。そもそも「大国衝突」なのか。記事の前半を見ていこう。

夕暮れ時の筑後川

【日経の記事】

ロシアのウクライナ進駐は明らかな国際法違反であり、決して許されてはならない。主要国は直ちに重い制裁を浴びせるときだ。

ロシアがウクライナに深く侵攻することも想定し、対抗策を強める必要がある。

第2次世界大戦後、世界は地域紛争が絶えなかったが、大国がぶつかる戦争はほぼ避けられてきた。今回の事態は、80年近くにおよんだ「平和の時代」が終わろうとしていることを意味する。


◎「大国がぶつかる戦争」が始まる?

今回の事態は、80年近くにおよんだ『平和の時代』が終わろうとしていることを意味する」と秋田氏は言う。

現状では「大国がぶつかる戦争」とはなっていない。「ロシアがウクライナに深く侵攻すること」になっても米国は軍事介入しないと明言している。なのに「大国衝突」なのか。

いずれ「大国がぶつかる戦争」(米ロの戦争)に発展していると秋田氏は確信しているのか。それならばまだ分かるが、そこには触れていない。だったら「今回の事態」を受けて「大国がぶつかる戦争はほぼ避けられてきた」時代が「終わろうとしている」と見るのは無理がある。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

安定がほころんでいるのは、欧州だけではない。アジアでも中国が台湾海峡、東・南シナ海で軍拡に走り、北朝鮮が核ミサイルを量産する。

ロシアの全面侵攻を止められなければ、西側諸国の足元を見透かし、中朝も強硬な行動に拍車をかけるだろう。

では、主要国はどうすればよいのか。なぜ「平和の時代」が息切れしてしまったのか、その原因を見つめ、有効な手を打っていくことが大事だ

いちばんの原因は、米国の体力と気力の衰えだ。米国は約10年前、もはや「世界の警察」ではないと宣言。外交や軍事力をアジアに傾け、対中戦略を最優先する路線を急いできた。

ところが、米国は中国の軍拡に追いつけず、アジアの軍事バランスは年々、中国優位に向かっている。通商でも、米国は環太平洋経済連携協定(TPP)から抜け、その空白を埋めるように中国が加盟を申請した。

米国は準内戦ともいえる国内分断に追われ、同盟強化への取り組みもおぼつかない。トランプ前政権は同盟をあからさまに軽視。バイデン政権はその再建を唱えるが、実質的には米国ファーストの路線に大差はない。

こんな状況をにらみ、中ロはさらに結束を誇示し、米国主導の秩序を壊しにかかっている。

核兵器の拡散も、世界の平和をむしばみつつある。冷戦中、米ソが圧倒的な核戦力を握り、良くも悪くも「恐怖の均衡」によって大戦争が防がれてきた。

この構図は崩れ、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮が核兵器を持つにいたり、米国の核抑止力に陰りがみえる


◎どういう理屈?

核抑止力」とは「核報復兵器を保有することによって、国家間の戦争を思いとどまらせる力。また、他国に核攻撃を思いとどまらせる力」(デジタル大辞泉)だ。

インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮が核兵器を持つ」ようになったとしても、米国が大量の「核兵器」を有しているのであれば「米国の核抑止力」は損なわれない。

核兵器」を持つようになったからと言って「インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮」などが本気で米国と「戦争」しようとは考えないはずだ。

中ロ」に関しても同じだろう。相互確証破壊の考え方に基づいて大国同士の「大戦争が防がれてきた」のならば、その構図は変わっていない。秋田氏は違う考えなのか。

記事の結論部分にも注文を付けたい。


【日経の記事】

これらの問題は長年にわたって堆積してきたもので、即効薬はない。ただ、1つだけ確かなのは、米国の同盟国が平和への貢献を格段に増やさなければ、世界の安定は取り戻せないことだ


◎「有効な手」はどうなった?

主要国はどうすればよいのか。なぜ『平和の時代』が息切れしてしまったのか、その原因を見つめ、有効な手を打っていくことが大事だ」と訴えていたのに、何が「有効な手」なのか結局は教えてくれない。

そして「1つだけ確かなのは、米国の同盟国が平和への貢献を格段に増やさなければ、世界の安定は取り戻せないことだ」と記事を締めてしまう。「有効な手」は「米国の同盟国が平和への貢献を格段に増や」す中にあるのだろう。だが漠然とした話なので、どんな「」か特定はできない。

米国の求めに応じて日本が軍備増強を進めるのは「平和への貢献」なのか。それとも「大国がぶつかる戦争」へと続く道なのか。そこだけでも明らかにしてほしかった。

台湾有事の際に日本は米国と共に対中戦争に踏み切るべきかどうか。その判断から逃げ続けている秋田氏は、この手の問題では具体性を欠く主張でごまかすしかないのかも…。


※今回取り上げた記事「大国衝突、漂流する世界

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220223&ng=DGKKZO80397640T20C22A2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。


日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html

「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_23.html

日経 秋田浩之氏「中ロの枢軸に急所あり」に問題あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_30.html

偵察衛星あっても米軍は「目隠し同然」と誤解した日経 秋田浩之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_0.html

問題山積の日経 秋田浩之氏「Deep Insight~米豪分断に動く中国」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/deep-insight.html

「対症療法」の意味を理解してない? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/deep-insight.html

「イスラム教の元王朝」と言える?日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight_28.html

「日系米国人」の説明が苦しい日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/deep-insight.html

米軍駐留経費の負担増は「物理的に無理」と日経 秋田浩之氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_30.html

中国との協力はなぜ除外? 日経 秋田浩之氏「コロナ危機との戦い(1)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_23.html

「中国では群衆が路上を埋め尽くさない」? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/deep-insight.html

日経 秋田浩之氏が書いた朝刊1面「世界、迫る無秩序の影」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/1_15.html

英仏は本当に休んでた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight~準大国の休息は終わった」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/deep-insight_29.html

「中国は孤立」と言い切る日経の秋田浩之氏はロシアやイランとの関係を見よ
https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/07/blog-post.html

「日本は世界で最も危険な場所」に無理がある日経 秋田浩之氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/10/blog-post_11.html

日経 秋田浩之氏「Deep Insight~TPP、中国は変われるか」に見える矛盾https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/10/deep-insighttpp.html

台湾有事の「肝」を論じる気配が見えた日経 秋田浩之氏「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/11/deep-insight.html

「弱者の日本」という前提が苦しい日経 秋田浩之氏の「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/01/deep-insight.html

0 件のコメント:

コメントを投稿