11日の日本経済新聞朝刊マネーの学び面に勝莉菜乃記者が書いた「ゼロからわかる 投資信託の手数料~保有中も資産から支払い」という記事には問題を感じた。「手数料が高い投信」を擁護する記述があったからだ。そこを見ていこう。
室見川 |
【日経の記事】
Q 手数料が安い投信の方がよさそうですね。
A 同じ運用成績なら手数料が少ないほうが、投資家の実質的な運用成績は向上します。特に長期の運用では信託報酬の差が積み重なり、大きな差になることがあります。ただし、手数料が高い商品が悪いとは言い切れません。
Q なぜですか。
A 株式などの指数に連動する成績を目指すインデックス型の投信は、組み入れる資産を機械的に売買します。費用を抑えやすく、同じ指数に連動するなら原則は費用が安い方が有利です。一方、指数を上回る成績を目指すアクティブ型は投資対象などを調査する手間がかかるため、信託報酬が高くなりがちです。しかし、コストに見合う運用成績を出し続ければ投資家の評価は高まります。
◎ダメと言い切ってよいのでは?
「手数料が高い商品が悪いとは言い切れません」と勝記者は言う。厳密に言えばそうだ。しかし投資初心者に「ゼロからわかる」ように解説するのならば「手数料が高い商品=悪い商品、と覚えておいてよいでしょう」などと書く方が好ましい。
「手数料が高い商品」であっても「コストに見合う運用成績を出し続け」る実力がある場合は手を出す価値がある。しかし、ここには2つ問題がある。
まず「コストに見合う運用成績を出し続け」る実力がある「投信」は存在するのか。これは過去の運用成績を見ても分からない。過去の好成績がまぐれとの可能性を否定できないからだ。過去の運用成績が良い投信に投資する戦略は報われないと言われている。好成績は基本的に運によるものだと見るべきだろう。
だからと言って本物の実力を持つ「投信」がゼロとは断定できない。第2の問題は過去の運用成績が良い「投信」の中で幸運組と実力組を見分ける方法が見当たらないことだ。
あると思うのならば「手数料が高い商品が悪いとは言い切れません」と解説してもいい。しかし勝記者もそこには言及していない。「コストに見合う運用成績を出し続ければ投資家の評価は高まります」と述べているだけだ。「投資家の評価」が高いからといって「手数料」の高さを正当化できる訳ではない。
今回の記事は運用会社などを取材して書いたようだ。取材相手が「手数料」の高い「アクティブ型」をかばうのは当然だ。責めるつもりもない。ただ、記者が誘導されてはダメだ。流れに身を任せれば金融業界の回し者的な書き手になってしまう。
「手数料が高い商品」を正当化する主張に本当に説得力があるのか。よく考えれば「投資初心者は『手数料が高い商品=悪い』と覚えておくべき」との結論に辿り着くはずだ。
※今回取り上げた記事「ゼロからわかる 投資信託の手数料~保有中も資産から支払い」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211211&ng=DGKKZO78334550Q1A211C2PPL000
※記事の評価はD(問題あり)。勝莉菜乃記者への評価も暫定でDとする。
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