2021年6月2日水曜日

「『大きな中央銀行』でいいのか」と問うた日経 小竹洋之上級論説委員に注文

2日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に小竹洋之上級論説委員が書いた「中外時評~『大きな中央銀行』でいいのか」という記事には不満が残った。「大きな中央銀行」は好ましくないと小竹上級論説委員は考えているようだ。しかし、きちんと根拠を示せていない。

筑後川と夕陽

記事の後半を見ていこう。

【日経の記事】

トランプ氏はパウエル氏を突き上げ、公然と金融緩和を迫った。バイデン氏に一線を越える気はなくても、似たような空気は残る。政権が「大きな政府」を目指すように、FRBも規模と役割の両面で「大きな中央銀行」を志向してほしい。そんな期待がにじむのは隠せない。

コロナ下で大規模な量的緩和を続けるFRBの保有資産は、いまや8兆ドル(約880兆円)。この1年半で2倍近くに膨らみ、国内総生産(GDP)の4割に迫る。バイデン政権が巨額の財政出動に走り、実質的なマネタイゼーション(中銀による政府債務の穴埋め)は進む一方だ。

それだけではない。パウエル氏は格差の是正を意識し、広範で包摂的な雇用の拡大を政策目標に掲げた。気候変動の委員会を立ち上げ、温暖化防止への貢献も探る。まだ足りないといわれようが、FRBは大きくなりつつある。

歴史をひもとけば、中銀の規模や役割も一様ではなかった。いまは法的な独立性を担保されているとはいえ、政治と無縁ではいられず、時代の変化に応じて任務が多様化するのも避けられない

しかし、バイデン政権とFRBの「一体化」が行き過ぎるのは危うい。サマーズ元米財務長官が景気過熱やインフレの足音を感じようと、米経済学者のノリエル・ルービニ氏が市場の一部に「根拠なき熱狂」の匂いを嗅ぎ取ろうと、苦痛を伴う金融緩和の修正には容易に動けそうにない。

巨大IT(情報技術)企業や銀行・証券大手、富裕層を律し、少数派や貧困層を救え。環境への負荷が高い「ブラウン企業」を罰し、その対極をなす「グリーン企業」を支えよ――。左派のポピュリズム(大衆迎合主義)に押され、所得分配や産業政策の領域にむやみに踏み入るのも、あるべき姿とはいえまい

米経済学者のキャローラ・バインダー氏は、世界の主要中銀118行の2010~18年の動向を分析した。年平均で1割の中銀が何らかの政治介入を受けていたという。

今後は金融緩和に限らず、格差や温暖化絡みの介入が増える恐れもある。グリーン化への対応で先行する英イングランド銀行や欧州中央銀行、そこから学ぼうとする日銀も決してひとごとではない。

本当の危険は物価上昇をこちらから促したり、不注意にも容認したりした時にやってくる。同じことは、インフレと近縁の存在である過剰な投機やリスクテイクを放置した場合にもあてはまる

19年に死去したボルカー元FRB議長は回顧録にこう記した。パウエル氏に心当たりはないのか。肝心なものを置き去りにしてほしくはない。


◎「大きさ」の問題ではないような…

規模と役割の両面で『大きな中央銀行』を志向」する動きに問題があるだろうか。まず「役割」の面から考えてみよう。

所得分配や産業政策の領域にむやみに踏み入るのも、あるべき姿とはいえまい」と小竹上級論説委員は書いているが、なぜそう言えるのかは不明だ。「所得分配や産業政策の領域」で「中央銀行」が積極的に動くと社会が良くなるなら「むやみに踏み入るのも」悪くない。

時代の変化に応じて任務が多様化するのも避けられない」と小竹上級論説委員も解説している。そうは言っても「所得分配や産業政策の領域」には足を踏み入れるべきではないと考えるのならば、その理由は明らかにしてほしい。

本筋の「規模」の問題に話を移そう。

規模」に関して「『大きな中央銀行』でいいのか」と問われたら、自分ならば「大きさで良し悪しは決まらない」と答えたい。

記事の結論部分から推察するに「中央銀行」の最重要の役割は「インフレ」の抑え込みだと小竹上級論説委員は考えているようだ。異論はない。

であれば大幅な「インフレ」にならないように金融政策を打ち出してくれる「中央銀行」が良い「中央銀行」だ。それが「大きな中央銀行」であっても何の問題もない。

バイデン政権とFRBの『一体化』が行き過ぎるのは危うい」と小竹上級論説委員は言う。「一体化」すると「インフレ」抑制が難しくなるのならば「『一体化』が行き過ぎるのは危うい」とは言える。しかし、これも「大きな中央銀行」かどうかと直接の関係はない。

小さな「中央銀行」でも、大幅な「インフレ」を防げないのならば悪い「中央銀行」だ。「大きな中央銀行」で政権と「一体化」していても、きちんと「インフレ」を防げているのならば悪くない。

結局、「中央銀行」の大きさの是非を論じてもあまり意味がない。「違う。大きさが重要なんだ」と小竹上級論説委員が思うのならば、それを納得させる記事を書いてほしい。


※今回取り上げた記事「中外時評~『大きな中央銀行』でいいのか

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210602&ng=DGKKZO72479160R00C21A6TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。小竹洋之上級論説委員への評価はDで確定とする。小竹上級論説委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

色々と問題目立つ日経 小竹洋之論説委員の「中外時評」https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_14.html

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