今回も日本経済新聞朝刊1面の連載「分岐点の中国 共産党100年」を取り上げる。29日の「(中)よみがえる『自力更生』~孤立の動き 世界の懸念に」という記事では、中国に「孤立の動き」があり、それが「世界の懸念に」なっていると訴えている。しかし具体的な「孤立の動き」は見えてこない。
筑後川昇開橋 |
冒頭の事例を見ていこう。
【日経の記事】
中国が韓国の半導体企業に触手を伸ばしている。3月末、中国系投資ファンドのワイズロードキャピタルは韓国中堅のマグナチップ半導体と年内の買収で合意した。
14億ドル(約1500億円)の買収額は割高とささやかれる。北京の外資系金融機関の幹部は「中国政府系ファンドが後ろ盾になっている。彼らは金に糸目をつけない」と明かす。
米国との対立が激しくなるなか、中国の半導体関連企業は比較的関係が良好な韓国企業に照準を定める。「買収候補リストを作成してほしい」。この金融機関には相談が相次ぐ。
中国が海外の半導体企業の買収を急ぐのは、米国の制裁で最先端の半導体技術を導入するのが難しくなっているからだ。
◎これで「孤立の動き」
「よみがえる『自力更生』~孤立の動き 世界の懸念に」と訴えるならば、最初の事例で「孤立」を印象付けたい。しかし、むしろ逆だ。米国との対立を背景に中国が韓国に接近している話になっている。韓国が拒否している訳でもなさそうだ。であれば「孤立の動き」とは言い難い。
記事を最後まで読んでも中国が「孤立」へ向かっていると実感できる具体例は出てこない。しかし強引に「孤立」で話をまとめてしまう。最後の段落は以下のようになっている。
【日経の記事】
貿易に端を発した米国と中国の対立軸はいま、「民主主義と専制主義」というイデオロギーへと移った。一党支配にこだわる中国はますます、世界に背を向けるようになった。
ただ、中国は既に「世界の工場」としてグローバルな供給網に組み込まれ、米アップルなどの欧米企業ではむしろ中国依存が進む。中国の孤立化は同国だけでなく、西側諸国にも技術革新を阻むリスクをはらむ。
◎これまでの報道との整合性は?
「一党支配にこだわる中国はますます、世界に背を向けるようになった」とまで言い切っている。今回の連載は中国総支局が担当している。桃井裕理中国総局長は20日の記事で以下のように述べていた。
【日経の記事(6月20日付)】
折しも中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は5月末「世界で愛される中国をめざせ」と指示した。今後は従来以上に大量のプロパガンダを海外で展開し中国への感謝表明を強いたりする例も増えるだろう。
中国は理解していない。国内で愛国キャンペーンが成功するのは一党独裁に加え「中華民族の復興」という物語への共感もあるからだ。海外での唐突かつ自己に無批判な承認欲求は中国への反発を強めかねない。
それでも中国に迎合せざるを得ない弱い国もある。日本や西側諸国は決してこの動きを看過してはならない。力で押せば誰もが「中国はYYDS!」と叫び出す――。そんな誤った成功体験は世界のためにも中国自身のためにもならない。
◇ ◇ ◇
「一党支配にこだわる中国はますます、世界に背を向けるようになった」という見立てとは逆だ。中国は「海外での唐突かつ自己に無批判な承認欲求」を持っているらしい。そして「中国に迎合せざるを得ない弱い国もある」ようだ。なのに「ますます、世界に背を向けるようになった」のか。
5月20日の記事ではワシントン支局の中村亮記者が以下のように書いている。
「米国のトランプ前政権下で中国とロシアは反米を軸に安全保障や経済分野で関係を深めた。中ロ両軍は20年12月、日本海と東シナ海の公海上空で合同パトロールを実施し、周辺国に懸念が広がった」
ロシアとの関係強化も「ますます、世界に背を向けるようになった」との見方を否定している。「一帯一路」構想なども併せて考えると「一党支配にこだわる中国はますます、世界に背を向けるようになった」との認識がおかしいと見るべきだろう。
最後に細かい話を1つ。
(上)では「毛沢東氏」「鄧小平氏」と敬称を付けていたのに(中)では「毛沢東」「鄧小平氏」と毛沢東だけ敬称が取れている。
少なくとも連載内で呼び方の統一はすべきだ。個人的には、毛沢東も鄧小平も歴史上の人物と見て敬称を外すのが好ましいと思える。「毛沢東氏」とするならば、ヒトラーとかカストロにも敬称を付けるべきだろうが違和感はある。
※今回取り上げた記事「分岐点の中国 共産党100年(中)よみがえる『自力更生』~孤立の動き 世界の懸念に」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210629&ng=DGKKZO73361260Z20C21A6MM8000
※記事の評価はD(問題あり)
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