2020年5月9日土曜日

週刊ダイヤモンドへの寄稿が秀逸! みずほ証券の楠木秀憲氏

久しぶりに「この人は凄い」と感じる書き手を見つけた。みずほ証券シニアアナリストの楠木秀憲氏だ。「2014年京都大学経済学部卒業」なのでかなり若いが、分析は鋭いし、調査対象企業に対して遠慮がない。週刊ダイヤモンド5月16日号に載った「気鋭アナリストが緊急提言~商社は『中途半端な投資会社』から脱却せよ」という記事は説得力も十分だ。
法林寺(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

楠木氏らしさが出ていると感じた部分を少し見てほしい。

【ダイヤモンドの記事】

こういう話をするとよく「年間数千億円の利益を出している会社が良い会社じゃないというのか」と反論されるが、これは最もよくいわれ、かつ最も的外れな考えだと私は思う

確かに、19年3月期に商社の多くが過去最高益を更新し、商社は業界として成長を続けているように見える。しかし、例えば純利益10億円の会社を1000社合併して1兆円の会社をつくったら、それが日本最高の会社になるのかというと、そうではないはずだ。

何が言いたいかというと、大切なのは利益の絶対額ではなく、資本効率なのだ。なぜなら、株主資本というリスクマネーは社会において限られたリソースであり、経営者はその限られたリソースを使って社会に付加価値を提供する(利益を生む)ことが使命だからである。

単に買収を繰り返し利益の絶対額を増やしてもそれは付加価値を生んでいることにはならないし、当然資本効率は上がらない。われわれはこのような投資を「利益の積み増し」と呼んでいる。別の言い方をすると、本当に社会に付加価値を生んでいるかどうかは、利益の絶対額ではなく資本効率を見ないと分からない。


◎ここまでスパッと斬れる理由

最もよくいわれ、かつ最も的外れな考えだと私は思う」。砕いて言えば「まるで分かってない奴ばかりだ」ということだ。ここまでスパッと斬れるのは、自分の主張に強い自信があるからだろう。自信はあればいい訳ではない。記事の書き手としては「持つと危険」なものでもある。しかし楠木氏の自信は実力に裏打ちされている。その言い分に触れると「なるほど」と思ってしまう。

株主還元に関しても、自分に近い考え方の持ち主だと思えた。そこも見ておこう。


【ダイヤモンドの記事】

ところで少し話はそれるが、日本でよく聞く誤解が他にもあると思うので指摘しておきたい。それは「株主還元は株主への感謝の気持ち」という考えである。

株主還元とは、株式会社が配当や自己株式取得といった形で株主に資金を還流する行為を指す。そう考えると「株主還元は株主への感謝の気持ち」というのは一見その通りに思えるが、実は資本の論理からすると大きな間違いである。

株主還元の最大にして唯一の目的は、余剰資金の回収によるリスクマネーの再投資である。市場の成熟や競争優位性の低下により成長投資機会を失った会社から資金を回収し、リスクマネーを必要とする新興企業や成長業界に再投資すること、それによって社会において限られたリソースであるリスクマネーを最適分配し、社会としての成長の極大化を目指すこと。これこそが金融の役割なのである。

よく「利益成長を通じた株主還元の拡充を目指す」という方針を掲げている会社を見掛けるが、実はこれは矛盾している。投資家にとって一番望ましいのは、米アマゾン・ドット・コムのように株主還元など一切せず、ひたすら成長投資をし、そして実際に成長してくれることだ

投資家は、会社が成長するから株主還元を求めるのではない。成長を期待していないから、あるいは成長投資をするべきではないと考えているから、株主還元を求めるのだ。「成長」と「株主還元」は相反する概念なのだ。もちろん実際にはバランスの問題があるので、米エヌビディアや米グーグルのように圧倒的な成長を実現しながらも株主還元を行う会社もありはするが。


◎まさにその通り!

「配当が多い会社は株主に優しい会社」的な発想は間違いだと自分も思う。だが、株主還元に積極的なことを是とする記事は絶えない。「投資家にとって一番望ましいのは、米アマゾン・ドット・コムのように株主還元など一切せず、ひたすら成長投資をし、そして実際に成長してくれることだ」という楠木氏の解説は、その通りだと感じる。

本題の商社分析に関してここでは触れなかったが、それも見事だ。株式投資(特に大手商社株投資)に関心がある人には、ぜひ読んでほしい記事と言える。



※今回取り上げた記事「気鋭アナリストが緊急提言~商社は『中途半端な投資会社』から脱却せよ
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/29348


※記事の評価はA(非常に優れている)。楠木秀憲氏への評価も暫定でAとする。

1 件のコメント:

  1. 私も『商社は「中途半端な投資会社」から脱却せよ』を読んでみた。

    『日本における商社の繁栄はさまざまな偶然の産物であり、手放しで称賛されるビジネスモデルでは全くない。』というのが本文の趣旨であり、そう言い切っている。しかし、エネルギーへ投資したのは偶然なのか?1977年に行き詰まった安宅産業(伊藤忠商事に吸収された)のことを知っていて投資しているのだ。

    『株式市場においては商社ほど不人気なセクターはないといっても過言ではない。』その証左の一つは『PBRが1を割っている』ことと言っている。しかし、そういう企業は多い。自動車でもトヨタを除けば軒並み低い。紙パでも大王製紙を除けば低い。

    筆者(楠木氏)は『社会に付加価値を生んでいるかどうかはROIC(投下資本利益率)だと考えている』。また、成長できなくなった企業は消えろと言わんばかりである。議論の余地はあると思う。

    結論は『存在意義を失った商社に残る役割は業界再編の主導』である。
    私は、商社については詳しくない(むしろ、知らない)が、商社の役割は、他企業と組んだ投資(日本の鉄道を世界に売り込むなど)、ファイナンスをつけること、リスクをとった投資をすること(資本力がぜい弱だとリスクをとった投資はしにくい)などで、存在意義は失われていないと思う。筆者が言うように、英国でインチケープやハンソントラスト、BTRのようなコングロマリットが消えたという事実はあるが、日本には日本の事情があるのではないか?
    筆者は、全て断定的に書いており、尖った見方をしているが、商社のあり方の問題提起だと感じた。

    筆者も 『話はそれるが、』と言っているが、株主還元の話が唐突に出てくる。そして、『株主還元の最大にして唯一の目的は、余剰資金の回収によるリスクマネーの再投資である。』と言い切っている。しかし、最後に『エヌピディアやグーグルのように圧倒的な成長を実現しながらも株主還元を行う会社もありはするが。』と付け加えている。
    米国で最大にしてダントツに大きな自社株買いをしているAppleは、自社株が安いので、自社株に投資するのが良策としており、バフェットなど株主も支持している。
    バフェット、アップルの自社株買い拡大を高く
    https://www.motleyfool.co.jp/archives/3128
    Microsoftの配当はあまりに大きくて、米国の個人所得統計をゆがませるほどのこともあった。

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