大川小学校跡地(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係 |
まず「ヘリマネ」とは何かを考えたい。様々な見解があるだろうが、ここでは「究極の経済政策? 『ヘリコプターマネー』とは」という日経の記事(2016年7月15日付)の以下の説明を基にしたい。
「ヘリマネ政策とは、中央銀行が生み出した返済する必要のないお金を、政府が国民に配る政策だ。国が元利払いの必要がない債券(無利子永久債)などを中央銀行に渡し、引き換えに受け取ったお金を商品券などの形で国民にばらまく」
そして滝田編集委員は以下のように説明している。
【日経の記事】
自宅待機や営業の停止。各国の政府は経済にブレーキを踏む行動規制を課す一方で、経済の底割れを必死で食い止めようとしている。先進国では財政・金融が一体となり、経済学の大御所ミルトン・フリードマンのいうヘリコプターマネー政策をとる。
中央銀行がお札を刷り、政府が企業や家計に配る。米政府と米連邦準備理事会(FRB)は行動に移している。FRB自身も連銀法13条3項という伝家の宝刀を抜き、企業へ直接融資に踏み切った。
◎融資ならば…
「ヘリマネ」の具体例として「FRB自身も連銀法13条3項という伝家の宝刀を抜き、企業へ直接融資に踏み切った」と書いている。これは明らかに「ヘリマネ」ではない。「融資」ならば返済の必要がある。
「ヘリコプター」から「お札」をばらまく例えで言えば、「お札」を拾った人に係員が寄って行って「これは返済の必要があるおカネです。受け取りますか」と確認するようなものだ。それを「ヘリコプターマネー政策」と呼べるのか。少し考えれば分かるはずだ。
では「融資」でなければ、どうか。日本の1人10万円給付は「ヘリマネ」なのか。少なくとも現時点では「国が元利払いの必要がない債券(無利子永久債)などを中央銀行に渡し、引き換えに受け取ったお金を商品券などの形で国民にばらまく」形にはなっていない。
記事では他にも気になる説明があった。
【日経の記事】
米政府と議会は総額3兆ドル規模の経済対策を打ち出し、FRBの総資産は6.5兆ドルまで膨らんだ。ヘリマネ政策が功を奏するなら膨大なマネーはどこに向かうだろうか。
現金以外にも運用先を探す動きが起こるだろう。毎年一定の利回りを得ようとするなら、まずは先進国の国債となるが、今や日本やドイツなどでは利回りはマイナスだ。
米国でさえ国債の利回りは著しく低い。金(ゴールド)という安全資産はあるものの、それ自身は価値の保存手段であり、収益を生まない。
「消去法」の末に株式が浮上するかもしれない。コロナ禍で潜在成長率が低下するなか、キャピタルゲイン(値上がり益)を狙うのは難しい。それでも米国のS&P500種株価指数を構成する株式の配当利回りは2%台半ば。利回り確保が必要な生命保険会社や年金にとって、株式は運用資金の受け皿になり得る。
◎金は「収益を生まない」?
個人的には「金=安全資産」と考える書き手に不安を覚える。だが、珍しい存在ではないので、ここでは問題にしない。気になるのは「金(ゴールド)」は「価値の保存手段であり、収益を生まない」との説明だ。「金(ゴールド)」が大きく値上がりした時に「キャピタルゲイン(値上がり益)」は得られないのか。あるいは「キャピタルゲイン(値上がり益)」は「収益」には入らないのか。これも少し考えれば分かるはずだ。
さらに言えば「株式の配当」と「キャピタルゲイン(値上がり益)」を分けて考えているのも感心しない。こういう解説をする書き手は信用しない方がいい。
「キャピタルゲイン(値上がり益)を狙うのは難しい」のであれば、「配当利回りは2%台半ば」だとしても、そこからキャピタルロスを差し引く必要がある。そのトータルで見て「運用資金の受け皿になり得る」かどうかを考えるべきだ。
「コロナ禍で潜在成長率が低下するなか、キャピタルゲイン(値上がり益)を狙うのは難しい」との見方にも賛成できない。「潜在成長率」が株価を左右すると仮定しよう。現状で「低下」傾向にあるとしても、それは株価に織り込み済みだ。
今後の株価への影響は市場コンセンサスとの乖離で決まる。予想より「低下」が小幅で済むとか、予想以上に早く大きく上向きそうだといった話になれば「キャピタルゲイン(値上がり益)」が得られる可能性は十分にある。
滝田編集委員は市場への理解が乏しいとは以前から感じていた。今回の記事でも、それを改めて確認できた気がする。
※今回取り上げた記事「核心~コロナ禍に舞うヘリマネ」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200504&ng=DGKKZO58726050R00C20A5TCR000
※記事の評価はD(問題あり)。滝田洋一編集委員への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。滝田編集委員については以下の投稿も参照してほしい。
日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_4.html
日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_24.html
日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_5.html
引退考えるべき時期? 日経 滝田洋一編集委員 「核心」(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_32.html
引退考えるべき時期? 日経 滝田洋一編集委員 「核心」(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_40.html
市場をまともに見てない? 日経 滝田洋一編集委員「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_69.html
日経 滝田洋一編集委員「リーマンの教訓 今こそ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_16.html
市場への理解が乏しい日経 滝田洋一編集委員「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_9.html
株式も「空前の低利回り」? 日経 滝田洋一編集委員の怪しい解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_19.html
今回も市場への理解不足が見える日経 滝田洋一編集委員「核心」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_25.html
「TPP11とEUの大連携」を日経 滝田洋一編集委員は「秘策」と言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/tpp11eu.html
返信削除確かに、滝田氏の文章はわかりにくいですね。『行動に移している。』までと、それ以降は別の内容です。前半は3月27日成立したCARES法(ヘリマネ含む)のことです。後半は3月23日のFOMCで決定した新たな流動性支援策(ヘリマネとは無関係。緊急時の信用供与含む。)のことです。
それと、ヘリマネの定義は、『政府の無利子永久債による中銀からの資金調達』でしょうが、そこまで厳密に問うことはないでしょう。永久にロールオーバーする(ある時払いの催促無し)つもりなら実質的に永久債でしょう。統合政府の概念では金利はいくらであっても関係ないでしょう。
株式や債券などはキャッシュフローを生むが、金は生まないということでしょう。トイレットペーパ-でも値上がりがありますから、そういう意味では何でも収益を生む可能性はあるでしょう。
短期的には『株価への影響は市場コンセンサスとの乖離で決まる』ということでしょうが、一般的には、「株式や債券は、将来から得られるキャッシュフローの総和の現在価値」でしょう。将来の潜在成長率を株価は織り込み済みでも、成長率が上がってこなければ株価の上昇は難しいかもしれません。、反論はありますが、株価理論は難しいので、これ以上は立ち入らないでおきましょう。この辺のことは、一つの考えとしてとらえればよいとおもいます。