2019年11月30日土曜日

井上智洋 駒沢大准教授による日経ビジネス「気鋭の経済論点」の問題点

日経ビジネス11月18日号の「気鋭の経済論点~世界の天才集める中国 国力を決める『頭脳資本主義』」という記事はツッコミどころの多い内容だった。筆者である駒沢大学経済学部准教授の井上智洋氏に問題があるのだとは思うが、構成を担当した中山玲子記者の責任も重い。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
       ※写真と本文は無関係です

問い合わせから11日が経ってようやく回答が届いた。質問も含む形となっている回答の内容を紹介したい。


<日経ビジネス編集部の回答>

いつも日経ビジネスをご愛読いただき、誠にありがとうございます。11月18日号の「気鋭の経済論点~世界の天才集める中国 国力決める『頭脳資本主義』」について、お寄せ頂いたご質問につき、以下、回答させていただきます。

(1)「ユニコーン」の定義について

【ご質問】

記事では中国企業に関して「時価総額が1000億円以上の未上場企業であるユニコーンが次々と生まれた」と記しています。「ユニコーン」と見なす基準は一般的には「時価総額が10億円ドル以上」です。御誌の9月16日号にも「未上場ながら企業価値が10億ドルを上回る『ユニコーン』」との記述が見られます。「時価総額が1000億円」では今の為替相場で計算すると「10億ドル」に届きません。

「ユニコーン」を「時価総額が1000億円以上の未上場企業」とするのは誤りではありませんか。あるいは9月16日号の説明が間違っているのでしょうか。

【ご回答します】

読者が理解しやすいように、日本円で表記いたしました。また、金額の数字についても、
読者の理解しやすさなどを総合的に判断し、「1000億円」と表現いたしました。
頂戴したご指摘は今後、参考にさせていただきます。ありがとうございます。


(2)1860~1914年の「覇権国家」について

【ご質問】

記事に付けた表によると「1860~1914年」の「第2次産業革命」で言えば「そのときの覇権国家」は「米国(ドイツ)」です。常識的には、第1次世界大戦を契機として英国から米国への「覇権」交代が起きたのではありませんか。世界システム論で知られる米国の社会学者イマニュエル・ウォーラーステイン氏などもこの立場です。

 「そのときの覇権国家」に明確な基準はないとは思いますが、一般的な認識とかけ離れていませんか。「1860~1914年」の「覇権国家」を「米国(ドイツ)」と理解して大丈夫ですか。記事のような説明が幅広く受け入れられているのならば、自分の歴史認識の方を改めなくてはと思っています。

【ご回答します】

表の「1860~1914年」というのは、覇権国家の時期ではなく、第2次産業革命の時期を表しています。また、「米国(ドイツ)」というのは、第2次産業革命をきっかけに覇権を握った国という意味になります。なお、(ドイツ)とありますのは、覇権を握ろうとしてドイツが失敗したということを表しております。表には「時期」と表示しましたが、もう少し詳しく書いた方が理解しやすかったかもしれません。ご指摘ありがとうございます。


(3)「デフレマインドが浸透」した時期について

 【ご質問】

記事には「インターネット元年といわれた1995年ごろ、日本はバブルが崩壊した後で、デフレマインドが浸透し、企業は守りに入ってしまったのだ」との記述があります。これを信じれば「1995年ごろ」には既に「デフレマインドが浸透」していたはずです。

日本で「持続的な物価下落という意味でのデフレ状況」にあると月例経済報告に記載されたのは2001年です。「1995年ごろ」にも「デフレ」的な傾向はあったでしょうが、日本全体に「デフレマインドが浸透」するのは「デフレ」に陥ってしばらく経ってからのはずです。

「デフレマインドが浸透」した時期を明確に判断するのは難しいでしょうが、「1995年ごろ」に「デフレマインドが浸透」していたと見なすのは無理がありませんか。

【ご回答します】

一般的にはデフレ開始年は1998年とされていますが、ディスインフレ(低いインフレ率の状態)も広い意味ではデフレ的状態であると捉えました。とはいえ、「インターネット元年といわれた1995年ごろ」は、「インターネット元年といわれた1995年以降」とした方が、誤解がなかったかもしれません。ご指摘、誠にありがとうございます。


(4)「スマイルカーブ理論」について

【ご質問】

2013年1月21日付の「日経ものづくり」の記事によると「スマイルカーブ理論」とは
「バリューチェーンの上流工程(商品企画や部品製造)と下流工程(流通・サービス・保守)の付加価値が高く、中間工程(組立・製造工程)の付加価値は低いという考え方を示している」はずです。他の用語解説を見ても、似たような内容になっています。

しかし、今回の記事は違います。「上流、下流に位置する研究開発や設計デザイン、マーケティングは付加価値が高いのに対し、中流にある組み立てや部品、小売りは低くなるというものだ」となっています。

日経ものづくりを信じれば「小売り=流通」は「付加価値が高く」なりますが、御誌の記事では逆です。御誌では「部品」も「付加価値」が低いとの位置づけです。一方、日経ものづくりでは「部品製造」を「付加価値が高く」なる「上流工程」としています。

常識的に考えると「流通・サービス・保守」を「下流工程」とする日経ものづくりの説明の方が正しそうです。今回の「スマイルカーブ理論」に関する説明は誤りではありませんか。いずれの記事にも問題がないのならば、2つの記事の食い違いをどう理解すればよいのか教えてください。

【ご回答します】

スマイルカーブでの各ビジネスの配置について、「組み立て」や「部品」、「研究開発」を、掲載させていただいたグラフのように位置付けたため、記事中にあるような表現になりました。

いただいたご指摘は、今後の参考にさせていただきます。ありがとうございます。


 (5)「頭脳資本主義」について

【ご質問】

「AIの普及によって、労働者の頭数ではなく労働者の知的レベルが、一国のGDP(国内総生産)や企業の売り上げ・利益を決定づける『頭脳資本主義』の時代が到来しつつある」との記述から判断すると、これまでは「労働者の頭数」で「一国のGDP(国内総生産)や企業の売り上げ・利益」が決まっていたと井上様は考えているのでしょう。

これは解せません。「GDP」で考えてみましょう。「労働者の頭数」で決まるとするならば、米国と中国ではどちらの「GDP」が多くなるでしょうか。もちろん中国です。そうなっていますか。

日本とインドではどうでしょう。「労働者の頭数」ではインドが上回りますが「GDP」
でも日本を凌駕していますか。「労働者の知的レベル」なども含めて「GDP」が決まっていく時代を「『頭脳資本主義』の時代」と呼ぶならば、ずっと前からそうだったのではありませんか。

【ご回答します】

今後は、人口が少ない国でも多い国のGDPを上回るということが、顕著な形で現れるというのが、「頭脳資本主義」の持つ意味になります。これまでも、労働者の知的レベルがGDPなどに影響する傾向はありましたが、今後はさらにこうした傾向が強まってくるといったことを記事では説明をしております。


いつも弊誌をお読みいただき、感謝申し上げます。頂戴したご質問は、今後の参考にさせていただきます。引き続き、日経ビジネスをどうぞよろしくお願い申し上げます。


◇   ◇   ◇

回答内容そのものはかなり苦しい。「『米国(ドイツ)』というのは、第2次産業革命をきっかけに覇権を握った国という意味になります」と言うが、表のタイトルには「そのときの覇権国家」と明記している。また「スマイルカーブ理論」については質問に答えているとは言い難い。

しかし、それはそれでいい。「外部ライターの記事もしっかりチェックしなければ…」と中山記者が教訓を得てくれることを願う。


※今回取り上げた記事「気鋭の経済論点~世界の天才集める中国 国力を決める『頭脳資本主義』
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00123/00032/


※記事の評価はD(問題あり)。井上智洋・駒沢大学経済学部准教授への評価は見送る。中山玲子記者への評価はDで確定とする。中山記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「パナソニックの祖業=自転車」が苦しい日経ビジネス中山玲子記者
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_25.html

0 件のコメント:

コメントを投稿