2019年11月25日月曜日

日経 大林尚上級論説委員の「核心~桜を見る会と規制改革」に見える問題

日本経済新聞の大林尚上級論説委員は問題の多い書き手だ。25日の朝刊オピニオン面に載った「核心~桜を見る会と規制改革の妙」という記事でも、その評価は変わらない。訴えたいことがないのに出番が回ってきたので、あれこれ書いて紙面を埋めただけにしか見えない。
鎮西身延山本佛寺(福岡県うきは市)
       ※写真と本文は無関係です

まず「桜を見る会と規制改革」を上手く結び付けられていない。そして、昔話などを交えつつ「それはそうでしょうね」的な結論へと導いていく。

長くなるが、記事を見ながら問題点を指摘していきたい。

【日経の記事】

4週間前がずっと昔のようだ。安倍晋三首相の信任厚い経済産業省の幹部と80年代アイドル菊池桃子さん結婚の報に、これで10月の2閣僚辞任による政権への風当たりが弱まると期待をふくらませたのは、ぬか喜びだったか


◎そんな効果ある?

経済産業省の幹部と80年代アイドル菊池桃子さん」の「結婚」で「政権への風当たりが弱まる」効果が「期待」できるのか。「閣僚」の結婚ならまだ分かるが…。

期待をふくらませた」のが誰か明示していないのも引っかかる。大林上級論説委員が「期待をふくらませた」とも取れる書き方だ。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

世論は熱しやすく冷めやすい。間髪を置かず表面化した桜を見る会をめぐる騒動に、ニコポン宰相の異名をとった桂太郎を抜いて在任期間首位に立った首相の心中いかばかりか。山口県から参加した政治家の多くが、見る会の様子をつづったブログやツイッターの写真を消したが、その必要があったとも思えない。

春爛漫(らんまん)の空の下、芸能人やアスリートも駆けつける首相主催の会に招かれれば、誰だって写真をアップしたくなる。いまさら隠すこともあるまい。主催者側からみれば、見る会は支持者へのサービスに打ってつけの舞台であった。

10月、首相の諮問機関である規制改革推進会議が発足した。裏方を担当する内閣府は会議の形式と運営に3つの変更をくわえた。(1)旧会議は3年の設置期限があったが常設にした(2)3年だった委員の任期を2年に縮めた(3)15人以内だった委員の定員を20人以内に増やした――である。これらを盛り込んだ政令の閣議決定を経て、同31日に首相官邸で顔合わせがあった。

それがお開きになり、首相と官房長官は委員と握手してまわった。委員のなかには初めて官邸に足を踏み入れた人がいた。内閣改造のときに首相と閣僚らが記念撮影をする階段やホワイエを背に、スマホで自撮りするつわものもいたと聞く。さすがにアップは自重しただろうが。

見る会の地元ゲストの立場にどこか似てはいないだろうか。政権にしてみれば、委員への任命はシンパを増やすチャンスになりうる。定員増と任期短縮がその機会に接する人を増やすというのは、うがった見方かもしれないが。

官邸の意向がどうであれ、委員への就任を断った人がいた。「取締役としての本業と老親の介護が多忙につき」が理由だが、規制の厚い岩盤を穿(うが)つ改革に期間を区切ってきちんと結果を出せるのか、一抹の不安があったという。会議が19人で船出したのはこのハプニングゆえだ。

規制改革の源流をたどると細川護熙氏にゆき着く。熊本県知事だったときにバス停を10メートル動かすのに運輸省のハンコがいることに驚き、改革に発奮するようになった。93年に首相の座に就くと、平岩外四経団連会長に構造改革の方針をまとめるよう諮問する。



◎話のつながりが…

上記のくだりは話のつながりがあまりない。

桜を見る会」と「規制改革推進会議」は「シンパを増やすチャンスになりうる」という点で似ていると2つを関連付けてはいる。そこまではいい。そこからどう展開するかだ。

しかし「委員への就任を断った人がいた」という話に移ってしまう。この件は記事の中で完全に浮いている。無駄な段落と言ってもいい。

そして「規制改革の源流をたどると細川護熙氏にゆき着く」と昔話が始まる。もう「桜を見る会」と絡める気はないようだ。

昔話の続きを一気に見ていこう。

【日経の記事】

こうして公表された平岩リポートをもとに、総理府が行政改革委員会をつくったのが94年。その翌年、椎名武雄日本IBM会長を座長に規制緩和小委員会が発足した。

改革に脂が乗った時期は、宮内義彦オリックス会長(現シニア・チェアマン)が椎名氏の後を襲った96年からの10年あまりだ。その後半は構造改革を旗印にかかげた小泉政権と重なった幸運もあった。

金融や通信など経済規制のみならず、医療や教育を含めた社会規制にも矛を向け、規制の根拠や改革を担当官庁に突きつめる。時に官の荒唐無稽をあぶり出するやり方を定着させた。

保育所に調理場の併設義務があるのは「子供がちゃんとした大人になるため」という迷答を厚生労働官僚から引き出したことがある。「岩盤規制」は宮内氏の造語だった。議長のバトンはその後、草刈隆郎日本郵船会長、岡素之住友商事相談役、大田弘子政策研究大学院大教授――に継がれてきた(肩書は当時)。

この間、ほぼ共通していたのは、少なからぬ委員の人選に議長の意を映すしくみがあった点だ。裏方を担う内閣府の事務局に目端が利く民間人材を送り込む議長もいた。

改革の成否は時の政権の本気度にも左右されるため、それぞれに濃淡ある。なにしろ会議が攻め込むべき本丸は、野党よりも与党の族議員である。首相や担当相が族の意向をおもんぱかれば、会議の勢いはそがれる。

幾多の苦難があった。11分野・計1797項目におよぶ改革を実行しようとした椎名氏は、規制に守られた業界と族議員の抵抗に体調を崩すことがあった。宮内氏は議長降ろしのための怪文書をまかれたり、本人のあずかり知らぬところで「辞めるハラを固めたようです」などと担当相が首相に耳打ちしたりされた。

族議員などのこうした横やりは、会議委員に結束を固める副次効果をもたらしたが。


◎行数稼ぎはできているが…

自分の知っている昔話で行数を稼いで何とか終わりに近付いてきた。しかし訴えたいことはまだ見えてこない。「桜を見る会と規制改革の妙」を上手く読者に見せられるだろうか。記事の終盤を見ていこう。

能古島(福岡市)から見た博多湾
      ※写真と本文は無関係です
【日経の記事】

新しい会議の議長、小林喜光三菱ケミカルホールディングス会長は経済同友会代表幹事を退いて間もない改革派の経済人だ。官邸会議の常連でもある。ただし、ほかの政府審議会と色合いがいくぶん違う点には注意がいるだろう。

多様な意見を反映させるために、多くの審議会の人選は事務局官僚がバランスのとれた差配をするのが通例だ。一方、規制改革はすべての委員が同じ一点を見据えて岩盤を砕かなければ、はかばかしい成果はあげられない。

加計(かけ)学園の問題でつまずいた国家戦略特区にみられるように、改革をつぶしにかかる勢力は顕在だ。これに対する陣形は、ビジネスの現場を知り尽くす経済人が先陣、法と経済学を駆使する学識者と改革派官僚が参謀、議長は大将といったところだ。

桜を見る会と違って求められるのは改革の成果だけだ。四半世紀近く規制改革を取材してきて、心からそう思う



◎それはそうでしょうが…

桜を見る会」と絡めなくてはいけないのに、ほとんどできていないという意識はあるのだろう。最後に取って付けたように「桜を見る会と違って」と入れている。

これで「桜を見る会と規制改革の妙」という見出しを付けて恥ずかしくないのだろうか。自分が筆者だったら、穴があったら入りたい気分になる。

四半世紀近く規制改革を取材」してきたのに「求められるのは改革の成果だけだ」という結論を導いているのも辛い。

まず当たり前すぎる。そこを許すとしても「桜を見る会」を持ち出さなくても導ける結論だ。「桜を見る会」と絡めるならば、絡めたからこそ導ける結論が欲しい。

読者は長いコラムを読んで最後に「桜を見る会と違って求められるのは改革の成果だけだ。四半世紀近く規制改革を取材してきて、心からそう思う」という結論に触れる。個人的には「訴えたいことがないんだな」としか思えない。

ついでに言うと「規制改革」で「議長は大将」というのも解せない。「大将」の役割を果たすべきなのは「首相」ではないのか。


※今回取り上げた記事「核心~桜を見る会と規制改革の妙
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191125&ng=DGKKZO52504670S9A121C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。大林尚上級論説委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。大林氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 大林尚編集委員への疑問(1) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_72.html

日経 大林尚編集委員への疑問(2) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_53.html

日経 大林尚編集委員への疑問(3) 「景気指標」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post.html

なぜ大林尚編集委員? 日経「試練のユーロ、もがく欧州」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_8.html

単なる出張報告? 日経 大林尚編集委員「核心」への失望
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_13.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_16.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_17.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_33.html

まさに紙面の無駄遣い 日経 大林尚欧州総局長の「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_18.html

「英EU離脱」で日経 大林尚欧州総局長が見せた事実誤認
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_25.html

「英米」に関する日経 大林尚欧州総局長の不可解な説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_60.html

過去は変更可能? 日経 大林尚上級論説委員の奇妙な解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_14.html

年金に関する誤解が見える日経 大林尚上級論説委員「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_6.html

今回も問題あり 日経 大林尚論説委員「核心~高リターンは高リスク」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_28.html

日経 大林尚論説委員の説明下手が目立つ「核心~大戦100年、欧州の復元力は」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/100.html

株安でも「根拠なき楽観」? 日経 大林尚上級論説委員「核心」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_20.html

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