2019年11月15日金曜日

野球の例えが上手くない日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」

野球に例えながらビール市場を語る--。そこそこの技術を要する課題だ。何かと問題の多い日本経済新聞の中村直文編集委員には荷が重すぎる。しかし15日の朝刊企業面に載った「ヒットのクスリ~ビール会社の黒歴史(上) キリン、『金』の苦い記憶 発売後の育成こそカギ」という記事では、その課題へ果敢に挑戦している。もちろん成功とは言い難い。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
       ※写真と本文は無関係です

記事を見ながら問題点を指摘していく。

【日経の記事】

今年もプロ野球シーズンが終わった。近年は日本一になったソフトバンクホークスの千賀投手周東選手など育成枠出身が活躍する姿が目に付く。当然かもしれないが、ドラフト1位の選手が成功するわけではない。



◎フルネームの方が…

まず、スポーツ面の記事ではないので「ソフトバンクホークスの千賀投手や周東選手」はフルネームで表記した方がいい。

付け加えると「育成枠出身が活躍する姿が目に付く」ことは「ドラフト1位の選手が成功するわけではない」と言える根拠にはならない。

ドラフト1位の選手が(必ず)成功するわけではない」と訴えたいのならば「ドラフト1位の選手」の失敗例を最初に持ってくるべきだ。「育成枠」の話を根拠として生かすのならば「ドラフト1位の選手(だけ)が成功するわけではない」と書いた方がいい。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

消費財の世界でもドラフト1位のような鳴り物入りの大型商品はなかなか成功しない。むしろ小さく産んで大きく育てる手法を重視するようになった。市場が縮む中、新商品がすぐに消費者の生活に入り込めないからだ。大手ビールの失敗作を連ねた「黒歴史」から検証してみよう。

キリンビールの一番搾りの販売量はプラスを続けているが、12年前の失敗が反省材料になっている。同社が2007年に発売したビール「ザ・ゴールド」を覚えているだろうか。創業100年を迎え、技術の粋を集めた鳴り物入りの新商品だった。

当時のキリンは一番搾りがスーパードライに押されていた。一方で発泡酒の「淡麗〈生〉」や第三のビールの「のどごし〈生〉」が好調で、次の100年を背負う金の卵がザ・ゴールドだった。

素材を厳選し、泡が持つ時間が5分という「大型選手」だ。スカウトがやるように事前調査をしっかりこなし、試飲の評価も悪くない。個人的にも飲みやすい印象が強く、決して品質的に問題があったわけではない。2桁勝利は堅いと踏んだ

滑り出しは良かった。コンビニエンスストアでの売れ行きが良く、現場の営業部隊も盛り上がった。だが3カ月もすると失速する。100年の歴史はキリンにとって重要だが、他のビールを押しのけてまで買いたくなる利点を訴えることができなかったからだ。


◎ビール市場での「2桁勝利」とは?

例えを使うのは否定しない。しかし技術は要る。上記の説明では技術不足が明らかだ。

まずビール市場における「2桁勝利」がどの程度のものか説明していない。結局、「ザ・ゴールド」が「何勝」を挙げたのかも不明だ。これなら「2桁勝利」の例えをやめて「一番搾りと肩を並べる商品に育つと期待した」などと書いた方が読者には分かりやすい。

他のビールを押しのけてまで買いたくなる利点を訴えることができなかった」という説明も腑に落ちない。キリンが「創業100年」だけを打ち出したのならば別だが、「素材を厳選し、泡が持つ時間が5分」という「利点」もあったのではないか。

他のビールを押しのけてまで買いたくなる利点を訴えること」には挑戦したものの、消費者にはそこまで響かなかったと見るべきではないか。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

それまでは、まず大々的なCMを打ち出し、新商品を出すことがメーカーの成功方程式。発売後に新ブランドをどう育成するかを考えず、売りっぱなしだったわけだ。だからいくら派手に売り出しても定着しない。ザ・ゴールドは結局、育成案が固まらないまま、市場を去った。トライアウトも受けていないだろう



◎どう理解すれば…

ザ・ゴールド」が出る前は「まず大々的なCMを打ち出し、新商品を出すことがメーカーの成功方程式。発売後に新ブランドをどう育成するかを考えず、売りっぱなしだった」はずだ。つまり、この方法で「成功」を続けてきた。
東北大学 正門(仙台市)※写真と本文は無関係です

ところが「だからいくら派手に売り出しても定着しない」と中村編集委員は続ける。「ザ・ゴールド」が出る前から「いくら派手に売り出しても定着しない」状況が続いていたのならば「メーカーの成功方程式」はそもそも成立していない。

どう育成するかを考えず、売りっぱなしだった」ことを反省する契機は「ザ・ゴールド」の失敗だったのではないのか。以前から失敗続きだったのならば、「ザ・ゴールド」の失敗でなぜ急に目覚めたのか説明が欲しい。

例えの話で言うと「トライアウトも受けていないだろう」も分かりにくい。ビール市場で「戦力外通告」を受けた商品が「トライアウト」を受けるとは、どんな状況なのか。ちょっと推測しにくい。

さらに記事を見ていく。

【日経の記事】

反省材料として残ったのは会社の都合はNG。そして「『一番搾りはこう違う』など他社と比較しないこと」。ビール類カテゴリー戦略担当の鈴木郁真ブランドマネジャーはこうふり返る。大事なことは相対性より絶対的な価値観だけを訴えることだという。

一番搾りも発売して30年近くだが、改めて独自の製法や顧客へのメッセージを伝えることに徹し、17年にリニューアル。再び成長軌道に乗った。



◎「比較」してない?

『一番搾りはこう違う』など他社と比較しないこと」と決めたのに「独自の製法」を「伝えることに徹し」ているのが解せない。「独自」だと消費者に伝えているのならば、その時点で「比較」と言える。

キリンのホームページを見ると「一番搾り製法とは、一番搾り麦汁だけを使ってつくる、キリン独自のビールの製法」とうたっている。これで「他社と比較しないこと」と言われても困る。

そもそも、なぜ「反省」を既存の主力商品である「一番搾り」に生かすのかが謎だ。記事の趣旨から言えば、新製品の「育成案」をしっかり固める手法に転換して成功を収めた事例が欲しい。

ここから記事を最後まで見ていく。

【日経の記事】

トップのアサヒビールも苦みを味わった。16年に売り出したビール「ザ・ドリーム」だ。第三のビールなどには出ていた糖質50%オフをビールに適用し、CMには前回のラグビーワールドカップでヒーローになった五郎丸歩選手を起用。だが顧客には意味が伝わらずレッドカードとなった

自己満足は押しつけず、発売後にこそ市場と対話し続けること。これが黒歴史の教訓その一だ。



◎最後に「レッドカード」…

記事の終盤に「レッドカード」の例えが出てくる。「CMには前回のラグビーワールドカップでヒーローになった五郎丸歩選手を起用」というくだりを受けたものだろう。だが、ここまで野球で揃えたのだから、最後まで貫くべきだろう。

付け加えると、なぜ「顧客には意味が伝わら」なかったのか疑問が残る。「糖質50%オフ」はそんなに伝わりにくい表現なのか。

また、「自己満足は押しつけず」と中村編集委員は言うが、「アサヒビール」が「ザ・ドリーム」に関してどんな「自己満足」を押し付けたのか記事からは判断しにくい。

なのに「自己満足は押しつけず、発売後にこそ市場と対話し続けること。これが黒歴史の教訓その一だ」と締めても説得力はない。


※今回取り上げた記事「ヒットのクスリ~ビール会社の黒歴史(上) キリン、『金』の苦い記憶 発売後の育成こそカギ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191115&ng=DGKKZO52107100T11C19A1TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価はDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html

「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html

日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html

「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html

「江別の蔦屋書店」ヨイショが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_2.html

渋野選手は全英女子まで「無名」? 日経 中村直文編集委員に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_23.html

早くも「東京大氾濫」を持ち出す日経「春秋」の東京目線
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_29.html

日経 中村直文編集委員「業界なんていらない」ならば新聞業界は?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_5.html

「高島屋は地方店を閉める」と誤解した日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_23.html

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