2019年11月27日水曜日

「親子上場」だと「資本効率が下がる」? 日経 佐藤亜美記者の誤解

日本経済新聞の佐藤亜美記者は「親子上場」への誤解があるようだ。27日の朝刊マーケット総合1面に載った「スクランブル~親子上場解消に期待感 日立再編、資本効率向上に関心」という記事を読むと、それがよく分かる。
能古渡船場(福岡市)※写真と本文は無関係

最初の段落から誤解が見える。

【日経の記事】

日本株市場の特有の課題である「親子上場」への関心が高まっている。日立製作所や三菱ケミカルホールディングスなど大手企業が、中核子会社の売却や完全子会社化に動いたためだ。企業の多くは2019年度の下半期以降に業績の「V字回復」を目指しているが、世界景気には不透明感が募る。おのずと資本効率を高める取り組みが注目を集めやすい。


◎「日本株市場の特有の課題」?

親子上場」は「日本株市場の特有の課題」なのか。一橋大学特任教授の藤田勉氏によると「日本ほど活発でないが、親子上場は大陸欧州や南米を中心に海外でも広く存在する」(週刊エコノミスト2019年11月5日号)。

ビール世界最大手アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)のアジア子会社は30日、香港取引所に株式上場した」と日経も9月30日付で報じている。こうした点を考慮すると「日本株市場の特有の課題」と言い切るのは無理がある。

今回の記事で最も引っかかったのが以下のくだりだ。

【日経の記事】

少数株主の意見が軽んじられるとみられがちで、親会社の株主にとっては利益が外部に流出して資本効率が下がる親子上場は、投資家の評価が低い。


◎必ず「資本効率が下がる」?

親会社の株主にとっては利益が外部に流出して資本効率が下がる親子上場」と佐藤記者は言い切っている。本当に「資本効率が下がる」だろうか。

毎年10億円の利益を生むA社の全株式を1000億円でB社が買い取ったとしよう。投資額に対する年間リターンは1%。これで「資本効率」を測ると仮定する(他の測り方ももちろんある)。

買収後に「親子上場」に踏み切って半分の株式を市場に出した場合どうなるか(単純化のため税金などは考慮しない。株式の価値も不変とする)。B社に帰属する利益は半分の5億円になるので年間リターンが0.5%になり「資本効率が下がる」と佐藤記者は見ているのではないか。

しかしA社の上場によってB社には500億円の資金が入ってくる。これを高いリターンが見込める分野に投資すれば「資本効率」は逆に良くなる。例えば500億円で新たにC社を設立して、年間10億円の利益を生み出すようになったらどうか。

1000億円の投資額に対して年間15億円の利益が得られるのでリターンは年1.5%だ。「親子上場」によって「親会社の株主にとって」も歓迎すべき結果となった。

もちろんC社の事業が失敗に終わる可能性もある。なので「資本効率が下がる」こともある。とは言え、「親子上場」だから「利益が外部に流出して資本効率が下がる」と単純に判断するのは間違っている。

付け加えると、「親子上場」が抱える問題点は親会社の「資本効率」を高める方向に働くのではないか。「親子上場」の場合、上場子会社の「少数株主の意見が軽んじられる」リスクは確かに高い。裏返せば、支配株主である親会社に有利に働きやすいとも言える。

先述した例で考えてみよう。親会社のB社がA社との取引条件などを自社有利に変更してA社の利益をゼロにする。そうなると、A社の10億円の利益は実質的にB社に移し替えられる。さらに自由に使える500億円の資金が手に入る。「親子上場」を悪用すれば、親会社の「資本効率」を高めて「親会社の株主に」有利に持っていける。

それでも「親子上場」を「親会社の株主にとっては利益が外部に流出して資本効率が下がる」と断定すべきだろうか。


※今回取り上げた記事「スクランブル~親子上場解消に期待感 日立再編、資本効率向上に関心
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191127&ng=DGKKZO52630250W9A121C1EN1000


※記事の評価はD(問題あり)。佐藤亜美記者への評価も暫定でDとする。「親子上場」に関しては以下の投稿も参照してほしい。

親子上場ってそんなに問題? 日経「株式公開 緩むルール」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_19.html

KNTの「親子上場」を批判するFACTAに異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/kntfacta.html

「親子上場」否定論に説得力欠く日経「大機小機」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_77.html

ヤフーとアスクルの件で「親子上場の問題点浮き彫り」という日経に異議
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_24.html

ヤフー・アスクルの件を「親子上場」の問題と捉える日経の無理筋
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post.html

「弊害」多いのに「親子上場の禁止」は求めない日経社説の謎
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_5.html

日経記者に読んでほしい藤田勉・一橋大学特任教授の「親子上場肯定論」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_29.html

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