2019年11月6日水曜日

「なお硬いガラスの天井」に説得力欠く日経1面連載「分断の米国」

女性が米国大統領を目指す上で「ガラスの天井」は存在するだろうか。個人的には「ない」と思える。あったとしても、非常に薄く今にも崩れ落ちそうなものだろう。しかし6日の日本経済新聞朝刊1面に載った「分断の米国~大統領選まで1年(4)なお硬いガラスの天井 女性候補の数は最多に」という記事では「ガラスの天井」が「なお硬い」と訴えている。しかし、中身を見ると説得力に欠ける。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)のコスモス
            ※写真と本文は無関係です

この記事には他にも色々と問題を感じた。記事を見ながら具体的に指摘したい。

【日経の記事】

10月6日、首都ワシントンの連邦最高裁。1年前、大統領ドナルド・トランプ(73)が指名した保守派判事の反対デモで逮捕された東部メリーランド州の女性レベッカ・トラクソル(45)は、判事とトランプへの抗議活動に再び加わった。

共和党を支持していたトラクソルだが、女性を蔑視するようなトランプの発言に傷つき、2020年大統領選は民主党の女性候補への投票を考えるようになった。「いじめっ子を負かすのは、被害者が最適任だ」


◎色々と説明が足りないような…

上記のくだりには色々と疑問が湧く。

まず「女性を蔑視するようなトランプの発言」とは具体的に何を指すのか。「トランプ」氏の名誉に関わる問題だけに、どの「発言」を指すのかは明確にしてほしい。

レベッカ・トラクソル」氏に関する説明も不十分だ。「保守派判事の反対デモで逮捕された」と書いているだけで、どんな違法行為があったのか触れていない。例えば暴行容疑で逮捕されて有罪となったのならば「なぜそんな人物のコメントをわざわざ使うのか。犯罪に加担しない善良な米国市民はいくらでもいるだろう」とは思う。

疑問は他にもある。「トラクソル」氏が「保守派判事」の「指名」に対する「抗議活動」に参加しているのならば、それだけで「2020年大統領選」では「トランプ」不支持となるのが当然ではないか。なのになぜか「女性を蔑視するようなトランプの発言」が理由で「トランプ」不支持に傾いているという。

保守派判事」の「指名」と「女性を蔑視するようなトランプの発言」に何らかの関連があるのかもしれないが、記事からはその関連が読み取れない。

ついでに言うと「いじめっ子を負かすのは、被害者が最適任だ」というコメントもよく分からない。そもそも「民主党の女性候補」は「女性を蔑視するようなトランプの発言」の「被害者」なのか。どういう関係があるのか記事からは判断できない。

仮に「被害者」だとしても「いじめっ子を負かすのは、被害者が最適任」とも思えない。例えば会社の中で「いじめ」があった場合、「いじめっ子を負かす(いじめっ子の責任を明らかにして処分する)」役割を「被害者」に託すのは適切だろうか。荷が重すぎる気はする。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

トランプへの反発が女性の政治参加を促している。18年の中間選挙で、連邦議会下院選に民主から立候補した女性の数が356人と2年前の2倍に増えた。20年大統領選の民主候補の指名争いにもエリザベス・ウォーレン(70)ら史上最多の女性が名乗りを上げる。

米ギャラップの調査で、女性大統領に賛成する人は1937年の33%から19年は94%に高まった。「『ガラスの天井』はいつか誰かが破る」。16年、トランプに敗れた元国務長官ヒラリー・クリントン(72)は予告したが、民主支持者には複雑な思いもある

10月9日、東部ニューハンプシャー州ロチェスター。民主候補の前副大統領ジョー・バイデン(76)の選挙集会に参加したカレン・チャンドラー(68)は語る。「女性への偏見はまだ根強い。今回は副大統領候補でどうかしら」



◎どこが「複雑」?

ここでは「民主支持者には複雑な思いもある」との説明がしっくり来ない。「カレン・チャンドラー」氏は「ジョー・バイデン」氏の支持者で、「副大統領候補」を女性にするのがベストとの考えだと読み取れる。「複雑」さは感じられない。
鮎川港(宮城県石巻市)のカモメ※写真と本文は無関係

カレン・チャンドラー」氏が女性大統領を熱望しているのに、不本意ながら「ジョー・バイデン」氏を支持しているのならば話は別だが、そういう説明は見当たらない。

ここで「ガラスの天井」の問題も考えてみたい。

記事によると「女性大統領に賛成する人は1937年の33%から19年は94%に高まった」らしい。だとすれば「女性大統領」に対する拒否感はほとんどないと言えそうだ。なのに「ガラスの天井」があると見なすべきだろうか。

トランプに敗れた元国務長官ヒラリー・クリントン(72)」氏は前の大統領選の総得票数では「トランプ」氏を上回っていた。単純に全米での総得票数で当選を決める仕組みならば「女性大統領」が誕生していた。

つまり紙一重の勝負だった。なのに「ガラスの天井」があると見る方が不思議だ。「ガラスの天井」は既になく、後は候補者次第と見るべきだろう。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

性的被害を告発する「#Me Too」運動の発火点となり、女性が社会進出するイメージの強い米国。だが連邦議員の女性比率は193カ国・地域で78位。主要7カ国(G7)でも日本(164位)に次ぎ下から2番目だ。欧州やアジアで女性の大統領や首相は珍しくないが、米国では副大統領に就いたこともない。

保守的な共和支持者では女性大統領への抵抗感がさらに強い。米調査によると、女性政治家が少ない要因に性差別があると考える民主支持者は64%だが、共和は30%と半分以下だ

◎関係ある?

女性政治家が少ない要因に性差別があると考える民主支持者は64%だが、共和は30%と半分以下」というデータから「保守的な共和支持者では女性大統領への抵抗感がさらに強い」と結論付けているが、なぜそう読み取ったのか理解に苦しむ。

例えば「共和支持者」の多くは「女性政治家が少ない要因」を「性差別」ではなく「政治家を目指す女性が男性に比べて少ないからだ」と考えているとしよう。

この場合「女性大統領への抵抗感」との直接的な関連は見当たらない。「女性政治家が少ないのはそもそも志願者が少ないからだろう。でも優秀な女性政治家であれば大統領候補として支持するよ」という考え方は成り立つ。

女性政治家が少ない要因」を「性差別」に求めない人は「女性大統領への抵抗感」が強いと単純に結び付けるのは無理がある。

記事の終盤にも注文を付けたい。

【日経の記事】

9月下旬、南部バージニア州チェサピーク。トランプの選挙陣営で女性票の掘り起こしをめざす「トランプを応援する女性たち」の会合に地元女性ら約30人が集まった。「大統領を支持しているのは男性だけとか、大統領は女性蔑視だとか、メディアは嘘ばかりだ」。陣営幹部の言葉に大きな拍手がわいた。ギャラップの世論調査では、女性有権者のトランプ支持率は34%だが、共和支持の女性に限ると90%に達した。

有事に陣頭指揮を執る米軍の最高司令官を兼ね、核のボタンを握る米大統領。調査会社ユーガブによると安全保障の対処で「男性の方が優れている」と答えたのは共和支持者の43%で民主(14%)の3倍に及ぶ。根強い偏見はいまだに破れない「ガラスの天井」の厚みを映し出す


◎「偏見」だと断定できる?

安全保障の対処」で「男性の方が優れている」と考えるのは「根強い偏見」だと言えるだろうか。「偏見」かもしれないが、記事では根拠を示していない。筆者は「女性の方が優れている」あるいは「男女に差がない」と言い切れるのだろうか。

偏見」かどうかはエビデンスに基づいて判断したい。もし根拠なしに「根強い偏見」と書いているのならば、それこそ「偏見」と言える。


※今回取り上げた記事「分断の米国~大統領選まで1年(4)なお硬いガラスの天井 女性候補の数は最多に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191106&ng=DGKKZO51804050V01C19A1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

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