2018年11月17日土曜日

問題山積の日経 秋田浩之氏「Deep Insight~米豪分断に動く中国」

日本経済新聞の秋田浩之氏に記事を書かせるのは、やはり苦しい。「本社コメンテーター」といった肩書を付けて顔写真まで入れたコラムを任せるのは、特にやめた方がいい。16日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~米豪分断に動く中国」という記事を読めば、あまりこの分野に詳しくない人でもその理由が分かるはずだ。基礎的な知識の欠如がうかがえる記述も目立つ。
国東半島サイクリングコース(大分県国東市)
           ※写真と本文は無関係です

日経に送った問い合わせで問題点を指摘しているので、その内容を見てほしい。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 秋田浩之様

16日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~米豪分断に動く中国」という記事についてお尋ねします。まず問題としたいのは以下のくだりです。

<記事の内容>

米豪の軍略家らによると、中国は米豪を地政学的に切り離し、いざという事態になっても、連携できないようにする意図がうかがえるという。彼らが警戒するのは、次のようなシナリオだ。

中国は豪州を取り囲むようにパプア、バヌアツ、フィジー、トンガに軍事拠点を設ける。台湾と国交を結んでいるソロモン諸島もそこに取り込み、豪州を包囲する「群島の長城」を築き上げる。

こうなると、米軍はいざというとき、豪州の基地を当てにできなくなる。南シナ海やインド洋で米中がぶつかっても、遠方の在日基地しか頼りにできず、不利な体勢を強いられてしまう……。

--ここからが質問です。

豪州の基地を当てにできなくなる」と「南シナ海やインド洋で米中がぶつかっても、遠方の在日基地しか頼りにできず、不利な体勢を強いられてしまう」と秋田様は解説しています。本当にそうですか。「南シナ海」では距離的に近いグアムの米軍基地も「頼り」にできるはずです。

インド洋」では、ディエゴガルシア島に米軍基地があります。なのに「遠方の在日基地しか頼りにでき」ないと考えるのは無理があります。グアムの基地も「在日基地」に比べれば「インド洋」に近い場所にあります。

在日基地しか頼りにできず」という記事の説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、他にもいくつか指摘しておきます。

(1)「豪州を包囲」になりますか?

まず「群島の長城」についてです。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)
       ※写真と本文は無関係です

パプア、バヌアツ、フィジー、トンガ」に「ソロモン諸島」を加えても「豪州を包囲する『群島の長城』」はできません。記事に付けた地図を見てください。「群島の長城」は「豪州」の北東に連なっているだけで、他の方角は空いています。「包囲」には程遠いのに「豪州の基地を当てにできなくなる」と言えますか。

秋田様は以下のようにも書いています。

米軍はいま、インド洋や南シナ海をにらみ、豪州北端のダーウィン基地に海兵隊員1600人を駐留させている。ところが、この近くに中国の『群島の長城』が出現したら、『米軍の行動は制約されてしまう』(米安保専門家)

当てにできなくなる豪州の基地」とは、具体的には「ダーウィン基地」を指すのでしょう。この「基地」と「群島の長城」はかなり離れています。「基地」のすぐ北にあるのはインドネシアです。「群島の長城」にインドネシアが入っていないのに「豪州の基地を当てにできなくなる」と断言できるのが不思議です。記事に出てくる「米安保専門家」も「米軍の行動は制約されてしまう」としか述べていません。


(2)「関ケ原」と言えますか?

記事では「南太平洋」について「この海洋は、米中覇権争いの勝敗を分ける『関ケ原』」だとも書いています。「その理由は後にふれる」としていますが、結局「その理由」は不明なままです。

関ケ原」と言うからには「米中」が戦争に突入した時に雌雄を決する場が「南太平洋」になるはずです。しかし「南シナ海やインド洋で米中がぶつかっても」などと書いているだけで、「南太平洋」が米中決戦の場となる理由には触れていません。「関ケ原」という例えは不適切でしょう。


(3)「アジアの地中海」に入りますか?

記事の最後の段落は以下のようになっています。

地政学の大家である米国のニコラス・スパイクマン(1893~1943年)は、南太平洋から南シナ海に広がる一帯を『アジアの地中海』と呼んだ。古来、地中海の争いが大国の興亡を左右したように、ここをおさえた大国がアジア太平洋を支配する、という意味である。彼の警鐘は古びるどころか、現実味を増している

スパイクマン」の言う「アジアの地中海」とはシンガポール、台湾、オーストラリア・ヨーク岬を結ぶ三角形を指すのではありませんか。この場合、秋田様の言う「群島の長城」のほとんどは「アジアの地中海」の外に位置しています。

付け加えると、秋田様は記事の中で「豪州北端のダーウィン基地」と書いていましたが、地図上ではヨーク岬の方が北に位置しています。「ダーウィン基地」が本当に「豪州北端」かどうか確認してみてください。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~米豪分断に動く中国
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181116&ng=DGKKZO37804870V11C18A1TCR000


※記事の評価はE(大いに問題あり)。秋田浩之氏への評価もDからEへ引き下げる。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html

「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_23.html

日経 秋田浩之氏「中ロの枢軸に急所あり」に問題あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_30.html

偵察衛星あっても米軍は「目隠し同然」と誤解した日経 秋田浩之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_0.html

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