2018年11月6日火曜日

日経「パイオニア再建、視界不良」で堀田隆文記者に注文

6日の日本経済新聞朝刊企業3面に載った「パイオニア再建、視界不良~頼みは自動運転地図、提携探る 出資交渉は月内が正念場」という記事は興味深く読めたが、引っかかる点もあった。まずは以下のくだりだ。

長崎の鐘(長崎市の平和公園)
      ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

小谷進会長(68)や森谷浩一社長(61)らパイオニア経営陣が安堵したのは8月中旬のことだ。「お困りなら、出資する前段階で融資もしましょう」。投資ファンドが資金を貸す異例の内容に経営陣は飛びついた。

直前の8月6日に発表した2018年4~6月期の決算。パイオニアは「継続企業の前提への疑義」を決算書に注記しなければならなかった。

この時点で実態は絶望的だった。「すでに、銀行は支援を打ち切ると伝えてきていた」とパイオニア幹部は話す。三菱UFJ銀行など十数行が参加する130億円の協調融資の満期は9月末だったが、銀行側に借り換えに応じる姿勢は感じられなかったという。手元資金が300億円程度のパイオニアにとっては致命的だった。


◎手元資金で返済できるのに「致命的」?

130億円の協調融資の満期は9月末だったが、銀行側に借り換えに応じる姿勢は感じられなかったという。手元資金が300億円程度のパイオニアにとっては致命的だった」と記事では説明している。パイオニアにとって苦しい状況だとは思うが「絶望的」「致命的」は大げさだ。

手元資金が300億円程度」あるのならば「130億円」を返済しても170億円の「手元資金」が残る。しかも、記事によると子会社の「インクリメント・ピー」には「400億円の価値がある」ようだ。「万策尽きた。倒産しかない」という状況ならば「絶望的」「致命的」と言えるが、記事の説明を信じれば「8月6日」の時点でそこまで追い詰められてはいない。

記事には、どう理解すべきか分からない記述もあった。

【日経の記事】

1990年、世界初のカーナビを発売。その後も車にあらかじめ取りつける「純正品」でホンダやトヨタとがっちり組んだ。だがトヨタで調達担当をした元役員は見抜いていた。「あの会社はたしかに技術はあるけど、技術の見通しには欠ける

2010年ごろから米グーグルが地図に進出する。クラウドにデータを載せたグーグルの地図サービスはめまぐるしく更新され、既存のカーナビは、新設の橋を更新できず海の上を走ることになる

パイオニアがカーナビで成功したのは、子会社に高精度なデジタル地図向けのデータベースを持つインクリメント・ピーがあったからだ。インクリメントの関係者は「グーグルから提携を打診されたこともある」と話す。



◎「技術の見通しには欠ける」?

「(パイオニアは)技術はあるけど、技術の見通しには欠ける」という「トヨタで調達担当をした元役員」のコメントに続いて「既存のカーナビは、新設の橋を更新できず海の上を走ることになる」と書いてあるので「パイオニアのカーナビは地図情報の更新がやたらと遅かったのかな」と感じた。

杵築城(大分県杵築市)※写真と本文は無関係です
しかし、次の段落では「パイオニアがカーナビで成功したのは、子会社に高精度なデジタル地図向けのデータベースを持つインクリメント・ピーがあったからだ」「グーグルから提携を打診されたこともある」と説明している。だとすると「技術の見通し」もしっかりしていたのではないか。

パイオニアの「カーナビ」が「高精度なデジタル地図向けのデータベース」を備えているとしたら「既存のカーナビは、新設の橋を更新できず海の上を走ることになる」という話はどうなるのか。パイオニアともグーグルとも関係ない「カーナビ」に関する話なのか。結局、よく分からなかった。

次は言葉の使い方に注文を付けたい。

【日経の記事】

ファンド傘下でリストラを進めて収益を改善し、自動運転分野で大手メーカーと提携するのがパイオニアの「ベストシナリオ」だろう。だが、「最悪、インクリメント社を切り売りしてイグジット(投資回収)する解体シナリオも十分ある」とファンド関係者は話す。



◎「イグジット」は要らないような…

イグジット」は「出口」という意味なので「イグジットする」には違和感を覚える。「ファンド関係者」は使うのかもしれないが…。余計な横文字だとも思えるので「インクリメント社を切り売りして投資回収する解体シナリオも十分ある」と直した方がいい。匿名のコメントでもあり、「イグジット」を省いても何の問題もないはずだ。

記事の結びに移ろう。

【日経の記事】

11月、東京・銀座。高級宝飾店がひしめくマロニエ通りを歩くと、見慣れた景色がなくなっていた。パイオニアのショールーム「パイオニアプラザ銀座」だ。2011年2月、一等地にオープンした展示場は、ひっそりと営業を終了していた。ほろ苦い風景の先に何が起きるのか、時間との戦いだ。



◎きれいに終わってはいるが…

結びとしては美しい。筆者である堀田隆文記者の書き手としてのセンスを感じる。ただ、この結びにするならば「パイオニアプラザ銀座」が「営業を終了」したのは、ここ数カ月の話でないと苦しい。

調べてみると、閉館は2016年8月7日のようだ。2年以上前に「営業を終了」しているのに「11月、東京・銀座。高級宝飾店がひしめくマロニエ通りを歩くと、見慣れた景色がなくなっていた」と言われても…とは思う。


※今回取り上げた記事「パイオニア再建、視界不良~頼みは自動運転地図、提携探る 出資交渉は月内が正念場
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181106&ng=DGKKZO37401430V01C18A1TJ3000


※記事の評価はC(平均的)。堀田隆文記者への評価は暫定Dから暫定Cに引き上げる。堀田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「人件費」にほぼ触れない日経「インドIT3社、人件費高騰」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/07/blog-post_22.html

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