2018年11月23日金曜日

「独裁者」「暴君」と知っていたなら…日経「ゴーン退場 20年目の危機」

「池に落ちた犬は叩けるが、落ちる前には叩けない」--。有力企業や著名経営者に関する日本経済新聞の報道姿勢には、こうした傾向が見られる。22日の朝刊1面に載った「ゴーン退場 20年目の危機(下)カリスマ変質 独善に」という記事もその1つだ。田中暁人記者と伊藤正泰記者は以下のように記している。
別府大学駅(大分県別府市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

05年、ルノーの最高経営責任者(CEO)にも就いたゴーン会長。日産とルノーのトップを兼務し始めたころから独裁者に変貌し始めた

ゴーン会長を日産に送り込んだ元ルノー会長のルイ・シュバイツァー氏が09年に退くと、日産とルノーの経営を掌握。自らを「アライアンスのファウンダー(創業者)」と呼ぶようになり、いつしか暴君と恐れられる存在に。あらがえない幹部や社員は日産を去った。

「誰かのように権力にしがみつくことはしたくない。後継者を見つけることはトップの責務だ」。ゴーン会長の「右腕」とされた元日産副社長のアンディ・パーマー氏は今月7日の来日時にこう話していた。今の肩書は英高級自動車、アストンマーティン社長。「ゴーンさんがいたら、いつまでもトップになれない」。4年前、日産を去る際にこう漏らした。

パーマー氏が移籍した同時期には、ルノーで「ポスト・ゴーン」が確実視されていたカルロス・タバレスCOOが仏グループPSAのトップに移籍。「日産の先行きを心配している」と話すパーマー氏の言葉は、2週間後に現実になった。


◎「独裁者」「暴君」だと知ってた?

記事によると「ゴーン会長」は「05年」頃から「独裁者に変貌し始めた」らしい。そして「いつしか暴君と恐れられる存在に」なったそうだ。田中記者と伊藤記者はそのことを逮捕前から知っていたような書き方をしている。

日経の過去の記事を全てチェックした訳ではないが、長く日経を読んできて「ゴーン氏は独裁者であり暴君だ」と逮捕前に指摘した記事に触れた記憶はない。田中記者と伊藤記者は「ゴーン会長」が「独裁者」であり「暴君」だと、逮捕前から読者に伝えようとしてくれたのだろうか。それとも「池に落ちる前」は「ゴーン会長」に気兼ねしていたのか。

05年」頃には「独裁者に変貌し始めた」のならば、「独裁者」になって10年以上が経つ。この間に日経は「ゴーン会長」が「独裁者に変貌」したと読者に伝えてきたのか。「ゴーン氏に睨まれて日産の取材がしにくくなったら困る。気付いていても、そんなの書ける訳ないだろ」といった弁明が聞こえてきそうな気がするが…。

ついでに言うと「独裁者」かどうかにも疑問が残る。記事の終盤には「(ゴーン氏が)日本に来る回数は減り、世界中の政官財の要人や親族らと豪華なディナーを囲むことが増え『現場からだんだん離れていった』(日産の西川広人社長)」との記述がある。

これを信じれば「日産の経営にはあまり関与せず、細かいことは他の人に任せている」とも取れる。そうであれば「独裁者」のイメージとは合わない。

ついでに「ある日産幹部は『来年春までに統合を正式決定するつもりだったのでは』と話す。19日の逮捕はゴーン会長の野望を阻むぎりぎりのタイミングだった」との説明にも疑問を呈しておきたい。

来年春までに統合を正式決定するつもり」ならば、例えば「逮捕」が年明け直後でも「ゴーン会長の野望を阻む」ことはできそうだ。「19日の逮捕」が「ぎりぎりのタイミング」だったと言える根拠を記事では示せていない。


※今回取り上げた記事「ゴーン退場 20年目の危機(下)カリスマ変質 独善に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181122&ng=DGKKZO38026130R21C18A1MM8000


※連載の評価はC(平均的)。田中暁人記者と伊藤正泰記者への評価も暫定でCとする。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「唯一の伝家の宝刀」が引っかかる日経「ゴーン退場 20年目の危機」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/20.html

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