2018年11月9日金曜日

ぐるなび会長の寄付で「変わる相続」語れる? 日経「ポスト平成の未来学」

適当な事例が見つからなかったのに「変わる相続」というテーマで強引に押し切ってしまったのだろうか。8日の朝刊未来学面に載った「ポスト平成の未来学 第13部 死を考える 『生きた証し』誰に~寄付・ペット…変わる相続」という記事では、「相続」と直接関係のない普通の「寄付」がメインの事例になっている。本当は「遺贈寄付」の事例を取り上げたかったのだとは思うが…。

ご意見や情報をmiraigaku@nex.nikkei.co.jpにお寄せください」と記事には出ていたので、筆者に意見を送ってみた。

長崎鼻(大分県豊後高田市)
     ※写真と本文は無関係です
【日経に送ったメールの内容】

日本経済新聞社 渡辺淳様

8日の朝刊未来学面に載った「ポスト平成の未来学 第13部 死を考える 『生きた証し』誰に~寄付・ペット…変わる相続」という記事について意見を述べさせていただきます。記事では「相続は長い人生の決算。どんな変化があるのか、探ってみた」との記述に続いて「東京工業大学」の事例が出てきます。「2020年秋の開設をめざし、日本人の学生と留学生が交流を育む地上2階・地下2階建ての施設」に関して渡辺様は以下のように説明しています。

約30億円と見込まれる総事業費は東工大のOBで、飲食店の検索サイト『ぐるなび』創業者で会長の滝久雄さん(78)が寄付した。『日本が発展するには外国人の協力が必要。もっと留学生を大事にすべきだ』。教育にはお金は惜しまないが、余分なお金は人をダメにするという考えを子どもも理解している。自分の考えを実現し、見届けたいと寄付にこだわった。施設名は夫妻の名前から『Hisao&Hiroko Taki Plaza』に決まった

相続」の「変化」を「探ってみた」と書いた直後の事例なので「寄付」であれば「遺贈寄付」の話かと思いましたが、単なる「寄付」の話です。これでは「相続」に「どんな変化があるのか」は探れません。自分の財産を生きている間にどう使うかの問題です。

相続」の話はやめたのかと思いましたが、結局は「相続」に戻って以下のように記事は続きます。

チャリティー文化が根づく欧米と異なり、日本では億単位の寄付者は少ない。野村資本市場研究所の推計では、国内で1年間に相続される資産総額は50兆円強。一方、相続税の申告から把握できる相続財産の寄付額は13年時点で、約300億円にとどまる

ここでは「相続財産の寄付額」に言及しています。しかし、東工大への「寄付」の件は「相続財産の寄付」ではないはずです。話が混線していませんか。

それに「相続税の申告から把握できる相続財産の寄付額は13年時点で、約300億円にとどまる」としても「日本では億単位の寄付者は少ない」かどうかは分かりません。滝氏が東工大にしたような「寄付」は「相続財産の寄付額」には入らないと思えます。滝氏の話の後で「日本では億単位の寄付者は少ない」と書くのならば、「相続財産」以外の「寄付」も含めて考えるべきです。

記事で取り上げたペット信託の事例にも問題を感じました。記事では以下のように書いています。

福岡県内に住む40歳代の女性は5年前に小型犬を家族に迎えた。その後に夫が県外へ単身赴任し、週末はマイカーで夫の元へ通う日々が始まった。ハンドルを握るたび『もし交通事故に巻き込まれたら愛犬はどうなるんだろう』と不安が募り、ペットのための信託契約を結んだという

40歳代の女性」が「マイカーで夫の元へ通う」時に「」は同乗していないはずです。ならば「交通事故に巻き込まれても愛犬は夫が面倒をみてくれる」と考えるのが自然ではありませんか。しかし、なぜか「ペットのための信託契約」を結んでしまいます。不自然さは拭えません。
旧香港上海銀行長崎支店記念館(長崎市)
       ※写真と本文は無関係です

今回の記事では、ペット信託の宣伝的な臭いも感じました。渡辺様は以下のように説明しています。

いまやペットは我が子同様の存在だ。自分たちに万が一のことがあれば、あらかじめ指定した親族や知人が新しい飼い主となってくれる。金銭的な負担をかけるわけにはいかないと、飼い主の銀行口座には自らの信託財産から愛犬の餌代などの飼育代や謝礼を定期的に払い込んでもらう契約にしている。この女性に信託契約を勧めた服部薫さん(36)はかつては動物看護師で、現在はペットの相続を専門とする行政書士だ。ペットにお金を残そうと遺言書をしたためても『相続争いの火種になりやすく、ペットのために遺産がきちんと使われないことも少なくない』

まず費用に触れていないのが引っかかります。相当に裕福でペットを溺愛している人にとってはペット信託も選択肢になるかもしれません。しかし、平均的な「40歳代の女性」が出す費用として、かなり重い負担になるはずです。そこに触れないで「遺言書よりも確実」というプラスの印象だけを与えるような書き方は感心しません。

次は「大相続時代 さらに多様化」という関連記事についてです。気になったのは以下のくだりです。

高齢化による大相続時代は目の前に迫っている。総務省の家計調査報告から単純計算すると、貯蓄の60%近くを60歳以上の高齢者(17年、2人以上の世帯)が占める。財務省の資料によると、80歳以上で亡くなった高齢者の相続人が50歳以上だった割合は13年時点で約69%と15年間に22ポイント増えた。相続資産が住宅の購入や子どもの教育費を必要とする現役世代に回らず、滞留する『老々相続』は年々進む。生前贈与を促す政策の後押しも必要だろう

まず「大相続時代」が謎です。「大相続時代は目の前」と書いてあるので、今は「大相続時代」ではないのでしょう。しかし、どういう状況になれば「大相続時代」に入ったと言えるのか渡辺様は教えてくれません。これは困ります。

また「80歳以上で亡くなった高齢者の相続人が50歳以上だった割合は13年時点で約69%と15年間に22ポイント増えた」と書いた後で「相続資産が住宅の購入や子どもの教育費を必要とする現役世代に回らず、滞留する『老々相続』は年々進む」と解説しているのも納得できませんでした。

50代は「現役世代」には入らないのですか。「子どもの教育費を必要とする」50代は当たり前にいます。「相続人が65歳以上だった割合」を取り上げた上で「老々相続」と言うのならば分かりますが、50代を入れては説得力に欠けます。

さらに言えば「老々相続」が進むと「相続資産が住宅の購入や子どもの教育費を必要とする現役世代に回らず、滞留する」と考えるのは短絡的です。「80歳以上で亡くなった高齢者」が子や孫の「教育費」を生前に出していた可能性は十分にあります。財産を相続した「50歳以上」の人が子や孫に資金援助する場合もあるでしょう。その辺りも含めて「滞留」を判断すべきです。

私の意見は以上です。今後の記事作りの参考にしていただければ幸いです。

◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事

ポスト平成の未来学 第13部 死を考える 『生きた証し』誰に~寄付・ペット…変わる相続
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181108&ng=DGKKZO37473820X01C18A1TCP000

大相続時代 さらに多様化
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181108&ng=DGKKZO37473880X01C18A1TCP000


※記事の評価はD(問題あり)。渡辺淳記者への評価はDで確定とする。渡辺記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

肝心なことが抜けた日経「保険販売、手数料が高騰」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_76.html


※過去の「ポスト平成の未来学」については以下の投稿も参照してほしい。

「シェア経済」に食傷を感じる日経「ポスト平成の未来学」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_9.html

「ピクセルワーカー」が魅力的に映らぬ日経未来学面の記事
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_16.html

日経 未来学面「2050年 オフィスが消える」に足りないもの
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/2050.html

「若者たちの新地平」を描けていない日経「ポスト平成の未来学」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_24.html

悪い意味で無邪気な日経 未来学面「考えるクルマ 街へ空へ」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_26.html

「肌着からデータ送信」が怪しい日経「ポスト平成の未来学」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_9.html

IT企業の社員は「林業ガール」? 日経 若狭美緒記者に問う
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_23.html

「フリーアドレス制でダイバーシティー効果」が怪しい日経の記事
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_88.html

中長期の正確な気象予測は可能? 日経「ポスト平成の未来学」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_5.html

「海にゴミを捨てるのは合法」と解説する日経 未来学面の記事
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_13.html

未熟さ感じる日経「ポスト平成の未来学~ ゴミはなくせる」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_21.html

「飛行機600人乗り」の予測は的中? 日経 鬼頭めぐみ記者に問う
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/600.html

「障害者」巡る問題多い日経「ポスト平成の未来学」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_10.html

「AIで犯罪予知」に問題目立つ日経「ポスト平成の未来学」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/ai.html

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