2017年12月26日火曜日

「出資した」話を「出資する」と表現する日経の騙し記事

25日の日本経済新聞朝刊企業面では、トップの記事にも2番手の記事にも同じ「騙しの手法」を使っている。「過去の話をあたかも将来の話のように見せる」という技だ。2つの記事に共通しているのだから「うっかり」とは考えにくい。まずはトップの「大塚HD、血液製剤に参入  バイオVBに出資 iPS細胞で血小板」という記事を見てみよう。
平塚川添遺跡(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

大塚ホールディングス(HD)が血液製剤事業に参入する。産業革新機構などとともに、万能細胞「iPS細胞」から血小板を作るバイオベンチャーのメガカリオン(京都市)に出資する。血液製剤の一種の血小板製剤は止血に必要だが、全量を献血に頼っており、人口減が進めば不足するとの懸念がある。量産技術を確立し、2020年の事業化を目指す。

 中略)メガカリオンが実施した第三者割当増資を引き受け、大塚HD傘下の大塚製薬と大塚製薬工場があわせて10億円を出資した。大塚グループの持ち株比率は約10%で、以前から出資している産業革新機構の50%強に続く第2位株主となる。他にもシスメックス、シミックホールディングス、京都製作所、佐竹化学機械工業が出資。メガカリオンは37億円を調達した


◎「出資」は「する」? 「した」?

最初に「血液製剤事業に参入する」「メガカリオン(京都市)に出資する」と出てくるので、まだ「参入」も「出資」していないと感じてしまう。ところが読み進めると「大塚HD傘下の大塚製薬と大塚製薬工場があわせて10億円を出資した」「メガカリオンは37億円を調達した」と過去形になっている。「出資する」のか「出資した」のか、矛盾すると言われても仕方がない。

次に2番手の「ニチイ学館、中国で認知症の高齢者介護 まず北京で開業」という記事も検証してみる。

【日経の記事】

国内介護最大手のニチイ学館は中国で認知症の高齢者に特化した居住型介護サービスを始める。富裕層が対象で北京市内に初の施設を開業、上海市など他の大都市でも展開する。日本で運営する認知症向けグループホームのノウハウを生かし、共同生活を通じて認知症の緩和を目指す。中国の介護事業の柱に育てる。

今月中旬に北京で全23床の施設を開いた。月額利用料金は日本円換算で40万円以上。職員が入居者と一緒に料理を作ったり、昔の出来事を思い出すことを繰り返したりして、認知症の症状の軽減を図る。


◎「始める」で正しい?

ニチイ学館は中国で認知症の高齢者に特化した居住型介護サービスを始める」と書いてあるので「サービスはまだ始まっていない」と理解したくなる。「北京市内に初の施設を開業、上海市など他の大都市でも展開する」との記述からも「今後の話」との印象を受ける。
うきは市役所(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

しかし、次の段落では「今月中旬に北京で全23床の施設を開いた」となってしまう。だったら「認知症の高齢者に特化した居住型介護サービス」は「始める」ではなく「始めた」とすべきだ。

「最初から過去形にするとニュース記事としての価値をアピールしにくい」という気持ちは分かる。だからと言って「騙し」とも言える手法を用いていいわけではない。こんな作り方をしていたら、結局は読者の信頼を失ってしまう。

正直に「参入した」「出資した」「サービスを始めた」と書けばいいではないか。それがどうしても嫌ならば、月曜の企業面ではニュース記事を極力減らして企画モノで埋める手もある。「読者を欺くような手法はご法度」との前提で紙面作りを見直してほしい。


※今回取り上げた記事

大塚HD、血液製剤に参入  バイオVBに出資 iPS細胞で血小板
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171225&ng=DGKKZO25019400U7A221C1TJC000

ニチイ学館、中国で認知症の高齢者介護 まず北京で開業
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171225&ng=DGKKZO25019140U7A221C1TJC000


※記事の評価はいずれもD(問題あり)。「大塚HD、血液製剤に参入」という記事に関しては以下の投稿も参照してほしい。

10%出資で「参入」と言える? 日経「大塚HD、血液製剤に参入」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/10.html

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