2017年12月25日月曜日

10%出資で「参入」と言える? 日経「大塚HD、血液製剤に参入」

25日の日本経済新聞朝刊企業面に「大塚HD、血液製剤に参入 バイオVBに出資 iPS細胞で血小板」という大げさすぎる記事が載っている。記事を最後まで読むと「大塚HD、血液製剤に参入」 は言い過ぎだと感じる。具体的に見ていこう。
素盞鳴神社(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

大塚ホールディングス(HD)が血液製剤事業に参入する。産業革新機構などとともに、万能細胞「iPS細胞」から血小板を作るバイオベンチャーのメガカリオン(京都市)に出資する。血液製剤の一種の血小板製剤は止血に必要だが、全量を献血に頼っており、人口減が進めば不足するとの懸念がある。量産技術を確立し、2020年の事業化を目指す

血液製剤には血小板製剤のほか酸素欠乏に対応する赤血球製剤など複数の種類がある。従来、輸血では採血されたままの血液を使う全血製剤が主流だったが、現在は赤血球や血小板など必要な成分だけを輸血することが多い。

メガカリオンが実施した第三者割当増資を引き受け、大塚HD傘下の大塚製薬と大塚製薬工場があわせて10億円を出資した。大塚グループの持ち株比率は約10%で、以前から出資している産業革新機構の50%強に続く第2位株主となる。他にもシスメックス、シミックホールディングス、京都製作所、佐竹化学機械工業が出資。メガカリオンは37億円を調達した。


◎10%出資で「参入」?

バイオベンチャーのメガカリオン(京都市)に出資」して「持ち株比率は約10%」を確保したことを以って「大塚ホールディングス(HD)が血液製剤事業に参入」と判断しているようだ。子会社化したのならば「参入」でいいだろう。だが「約10%」の出資では苦しい。厳しく言えば、読者を騙している。

出資しただけではなく、大塚HD自身が「血液製剤事業」を手掛けるのならば、もちろん「参入」に当たる。最初の段落で「量産技術を確立し、2020年の事業化を目指す」とも書いている。主語を明示していないが、「事業化を目指す」のは大塚HDと解釈するのが自然だ。なので、この可能性を探ってみよう。

記事の続きは以下のようになっている。

【日経の記事】

大塚製薬は細胞の培養技術、大塚製薬工場は血小板の保存液のノウハウを生かし、メガカリオンなどと協力して、量産技術確立を目指す

大塚HDの医薬品事業はピーク時に6千億円以上を売り上げた抗精神病薬「エビリファイ」の特許切れ以降、過渡期にある。抗がん剤など次の柱を育てるほか、先端分野にもいち早く投資し、収益源の多様化を目指す。

メガカリオンは調達資金を臨床試験(治験)のほか、量産体制の整備に使う。19年内に国内で臨床試験を始め、20年の事業化を目指す方針で年5千パックほどの製造が可能な生産ラインを全国に設置する。米国など海外展開も進める。


◎「事業化」するのは大塚HD?

大塚製薬は細胞の培養技術、大塚製薬工場は血小板の保存液のノウハウを生かし、メガカリオンなどと協力して、量産技術確立を目指す」との記述からも、「量産技術を確立し、2020年の事業化を目指す」主体は大塚HDで、「メガカリオンなど」が大塚HDを支えるとの見方でいいように思える。
福岡県立京都高校(行橋市)※写真と本文は無関係です

ところが、さらに読み進めると「メガカリオンは調達資金を臨床試験(治験)のほか、量産体制の整備に使う」と出てくる。ならば「量産体制」を整えようとしているのは「メガカリオン」になる。日経の記事だけでは何とも言えないので、「メガカリオン」が25日に発表したニュースリリースの一部を見てみよう。ここでは社長が以下のようにコメントしている。

【メガカリオンの社長コメント】

「今回の資金調達を通して、これらコア要素技術を有する事業会社に株主として参加頂き
資本関係を築くことにより、当社が進めるヒト iPS 細胞由来の血小板製剤の商業化が、より一層緊密かつ強固な体制で進められることとなりました。京都大学 iPS 細胞研究所の江藤浩之教授との共同研究の下、大塚グループ 2 社とは製法改良並びに製剤の長期保存を企図した保存液の開発、京都製作所とは精製・濃縮工程の自動システムの開発、佐竹化学機械工業とは MKCL 培養および血小板産生の大量・効率化、シスメックスとは品質評価・担保方法の確立とその自動化、シミックとは非臨床および臨床試験の実施支援と薬事対応を共同で実行して参ります」


◎結局、「血液製剤に参入」ではないような…

この社長コメントからは、「量産技術を確立し、2020年の事業化を目指す」主体はやはり「メガカリオン」だと判断できる。「大塚グループ 2 社とは製法改良並びに製剤の長期保存を企図した保存液の開発」を「共同で実行して」いくのであれば、「大塚HD、血液製剤に参入」 とは言い難い。

今回の件は、素直に表現すれば「メガカリオン、血液製剤事業化に向け37億円調達~大塚グループなど出資」とでもすべきだ。しかし、それでは大きな話にならないので、強引に「大塚HD、血液製剤に参入」 としてしまったと推測できる。記事の作り手としてのモラルに問題ありだ。


※今回取り上げた記事「大塚HD、血液製剤に参入  バイオVBに出資 iPS細胞で血小板
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171225&ng=DGKKZO25019400U7A221C1TJC000

※記事の評価はD(問題あり)。今回の記事に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「出資した」話を「出資する」と表現する日経の騙し記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_26.html

0 件のコメント:

コメントを投稿