2017年12月13日水曜日

ミナミはキタより「1カ所集中」と東洋経済 梅咲恵司記者は言うが…

週刊東洋経済12月16日号に載った「産業リポート~訪日客が殺到する大阪・ミナミの熱気と困惑」という記事は興味深く読めたが、「訪日客はなぜ、ミナミに集中するのか」の分析が甘いと思えた。筆者の梅咲恵司記者は以下のように説明している。
筑後川の恵蘇宿橋(福岡県朝倉市・うきは市)
          ※写真と本文は無関係です

【東洋経済の記事】

「『キタ』(同じく大阪の代表的な繁華街である梅田周辺)も訪日客がかなり増えたが、ミナミほどの混雑ではない」(訪日客の集客支援事業を手掛けるイロドリの福島将人代表)。三菱総合研究所の推計を見ても、関西圏では心斎橋や難波、つまりミナミが訪日客の間で特に人気なのがわかる(61ページ図左下)。そのため、訪日客がミナミに集中し、そうした人々で街がごった返しているのだ。

訪日客はなぜ、ミナミに集中するのか。その理由は複数ある。

一つ目は、独特の街並みが訪日客には新鮮に映る点だ。イロドリの福島代表は「“This is 大阪”という雰囲気がミナミにはあり、“インスタ映え”する撮影スポットもたくさんある。キタはこのような場所が少ない」と語る。実際、グリコやかに道楽の看板前で多くの訪日客が記念撮影をしている。



◎だったら京都は?

関西圏では心斎橋や難波、つまりミナミが訪日客の間で特に人気」となっている理由を「独特の街並みが訪日客には新鮮に映る点」に求めているが、だったら京都の方が圧倒的に上ではないか。「グリコやかに道楽の看板」はあるものの、ミナミには京都を上回るほどの「独特の街並み」があるとは思えない。

梅咲記者の解説で最も引っかかったのが、次に取り上げる2番目の「理由」だ。

【東洋経済の記事】

二つ目は、買い物や食事のできる店が集まっていて便利な点。徒歩圏内に高島屋や大丸などの百貨店、ユニクロやH&M、ほかにもドラッグストア、100円ショップなどが立ち並ぶ。名物のお好み焼きやたこ焼き、ラーメン、回転ずしといった飲食店も数多く、訪日客は効率よく観光を楽しめる。一方で、キタはミナミほど一カ所に集まっておらず、施設間の移動も地下街を使うことが多いので、訪日客が迷ってしまうケースがあるようだ。


◎キタの方が「集まって」いるような…

買い物や食事のできる店」が「キタはミナミほど一カ所に集まって」いないと記事では言い切っている。だが、どちらかと言えば「キタ」の方が集まっている感じがある。
平塚川添遺跡(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

記事に付けた「関西圏の主要エリアへの訪日客推計数」(出所は三菱総合研究所)というグラフでもキタは「梅田・大阪駅周辺」となっているのに、ミナミは「心斎橋」と「難波」に分かれている。地下鉄御堂筋線で言えば、キタは1駅だが、ミナミは2駅にまたがる。

残りの「理由」を見ていこう。

【東洋経済の記事】

関空からミナミまで移動時間はおよそ40分というアクセスのよさも有利。さらに、「ミナミは早い段階からプロモーションを強化し、街をブランド化した。エリアマネジメントが奏功している」と、三菱総研の小泉洋平主任研究員は分析する。


◎結局、アクセスでは?

結局、「関空からミナミまで移動時間はおよそ40分というアクセスのよさ」が決定的な要因ではないかと感じた。記事では、「(大阪への訪日客が増えている)背景には、関西国際空港への格安航空会社(LCC)の誘致がある」と述べている。ならば、関空へのアクセスが良いミナミは、キタや京都より有利だ。

エリアマネジメント」の影響もあるのかもしれないが、記事のような具体性の欠ける説明では何とも言えない。

ついでに他にも少し注文を付けておきたい。記事の続きは以下のようになっている。

【東洋経済の記事】

こういった複数の要因から、多くの訪日客がリピーターとしてミナミを訪れる。三菱総研の調査では、「心斎橋や難波を再び訪問したい」と回答した訪日客の割合は5割前後と、大阪城や通天閣などほかの観光スポットよりも高かった。大阪市によると、訪日団体客を乗せてミナミに到着する観光バスの数は、15年の1日平均266台から16年は同196台に減っている。最初は団体旅行で訪日した外国人が、LCCを使った個人旅行でミナミを再訪しているという行動が浮かび上がる



◎なぜ「キタ」と比べない?

上記のくだりでは「『心斎橋や難波を再び訪問したい』と回答した訪日客の割合」を「大阪城や通天閣」と比べている。なぜキタと比べないのか。三菱総研では当然にキタについても再訪意向を調べていて、差はほぼない。ちなみにUSJも同水準だ。
鳥栖プレミアム・アウトレット(佐賀県鳥栖市)
           ※写真と本文は無関係です

大阪城や通天閣などほかの観光スポットよりも高かった」と書くと、ミナミが他を圧倒しているような印象を受けるが、比較対象を恣意的に選んでいるだけだ。「ほかの観光スポットよりも高かった」と言いながら、具体的な差を見せないのも感心しない。

さらに言うと「観光バス」に関する説明もおかしい。

訪日団体客を乗せてミナミに到着する観光バスの数は、15年の1日平均266台から16年は同196台に減っている」としても「最初は団体旅行で訪日した外国人が、LCCを使った個人旅行でミナミを再訪しているという行動が浮かび上がる」とは限らない。

単に「団体客」が減って、最初から「個人旅行」を選ぶ外国人が増えているのかもしれない。データをご都合主義的に解釈している可能性がかなりある。


※今回取り上げた記事「産業リポート~訪日客が殺到する大阪・ミナミの熱気と困惑


※記事の評価はC(平均的)。梅咲恵司記者への評価も暫定でCとする。

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