2017年12月19日火曜日

文句の付けようがない東洋経済の特集「ネット広告の闇」

週刊東洋経済12月23日号の特集「ネット広告の闇」には文句の付けようがないない。健全な批判精神に基づき、綿密な取材を重ねて説得力のある内容に仕上げている。特集を担当した杉本りうこ副編集長、緒方欽一記者、渡辺清治記者に敬意を表したい。中でも、特集の主要部分を手掛けた杉本副編集長には、記事の書き手として特別な力を感じる。
平塚川添遺跡(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

杉本副編集長が筆者となっている「広告でむしろイメージが損なわれる 日本企業が軽視する ブランド毀損リスク」という記事の一部を見ていこう。

【東洋経済の記事】

今回本誌は、ブランド価値を損なうおそれのある問題サイトを四つ選び、日本の大手企業の広告配信があるか確認した。4サイトはいずれも、広告価値毀損測定の世界最大手・インテグラル・アド・サイエンス(IAS)により、サイト全体またはサイト内の一部コンテンツによるブランド毀損リスクが、同社の定める中程度以上と分類されている。

4サイトとも、リターゲティング広告(リタゲ広告、34〜35ページ)が配信される広告枠を設置しており、閲覧者の過去のネット利用履歴を反映した広告が自動的に表示される。企業が指定して配信する広告枠ではないが、配信禁止サイトのブラックリストを作成したり、一定のリスク要素(アダルト、暴力的、政治的偏向など)に抵触するサイトを排除したりすることは可能だ。今回は結果が特定の人間の検索履歴に左右されないよう記者8人で確認作業を行った。

◇   ◇   ◇

上記の調査結果を広告主の企業に知らせた結果が素晴らしい。記事の続きは以下のようになっている。

【東洋経済の記事】

右ページ画像1.のブライトバート・ニュース・ネットワークは有名。トランプ米大統領の元側近で8月まで首席戦略官・上級顧問だったスティーブン・バノン氏がトップを務め、極右というべき偏向した視点に立ったニュースを主に掲載している。右派有権者層には読者が一定程度おり、この4サイトの中では最もメディアの体を成しているが、米国の大手企業は配信を忌避するメディアだ。このサイトにはトヨタ自動車、日本航空(JAL)、村田製作所、キヤノン、LIXILグループの広告が表示された。

トヨタは日本の大手広告主の中で特にブランドマネジメントに厳しいことで知られる。「出稿全般について、ブランド毀損になりうる不適切サイトへの掲載には対策を講じているが、指摘されたサイトについては認識していなかった。対応を検討する」(広報部メディアリレーション室)。

JALは、「グーグルの広告配信システム(GDN)を介して自動配信されており、通常はグーグルのアルゴリズムで配信先から排除される。グーグルに報告し、改善を依頼した」(広報部)と明らかにした。

また求人広告が表示された村田製作所は、「このようなサイトへの広告掲載は避けるべき。ネット広告に関しては出稿部門に任せており、ブランドマネジメント対策は特に講じられていなかった。リスクに関して周知徹底を図る」(広報室)と答えた。

2.のDcガゼットは、「保守系の最高のニュースソース」をうたう英文ニュースサイト。米国では2016年の大統領選で、事実に基づかず、かつ投票行動に影響する報道をした「フェイクニュースサイト」として認識されている。米メディア大手CBSは、フェイクニュースの代表例としてこのサイトを紹介している。同サイトでは、ソニー傘下の通信事業会社・ソニーネットワークコミュニケーションズや、全日本空輸(ANA)の広告が確認された。

ソニーネットワークは、「このメディアに配信されていることは認識していなかった。アドネットワークによる掲載と思われ、委託先の広告代理店に削除を依頼する」(コーポレートコミュニケーション室)と回答。ANAも「配信先の除外設定(ブラックリスト化)をしていたが、本サイトへは未対応だった」(広報部)と本誌の取材に答えている。

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トヨタ自動車、JAL、村田製作所、ソニーネットワークコミュニケーションズ、ANAなどに、当該企業も関知していなかった問題点を気付かせている。「記者8人で確認作業を行った」のだから杉本副編集長だけの功績ではないが、それでも見事だ。
福岡県立精神医療センター太宰府病院(太宰府市)
            ※写真と本文は無関係です

今回の特集の「大量に並ぶ同一広告 その広告、割に合っていますか?」という記事(筆者は緒方欽一記者)では「ある掲示板サイト」に大量に並ぶKDDIの広告を具体例として取り上げ、「費用面の問題だけでなくブランドイメージの毀損につながりかねない。閲覧した人からすると『KDDIはなぜこんなに多く出しているのか』と疑問を持たれる掲載となっているので、何らかの対処をしたい」とのコメントをKDDIの広報部から引き出している。多くの企業にネット広告の問題点を認識させたという意味でも、今回の特集は評価に値する。

東洋経済は読者からの間違い指摘を当たり前のように無視するなど問題も多い。その元凶と思われる西村豪太編集長も健在のようだ。だが、今回のような特集を生み出せる力を持っていることも否定できない事実だ。東洋経済に限っては、良貨が悪貨を駆逐してくれるよう祈ろう。


※今回取り上げた特集「ネット広告の闇

※特集の評価はB(優れている)。杉本りうこ副編集長と渡辺清治記者への評価はBを維持する。緒方欽一記者への評価はBで確定とする。杉本副編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「TSUTAYA特集」に見えた東洋経済 杉本りうこ記者の迫力
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_27.html

「2.5次元」で趣味が高じた東洋経済「熱狂!アニメ経済圏」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/25.html

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