2017年8月3日木曜日

日経の悪癖「When抜き」が出た「カンロ、グミの生産能力2倍」

日本経済新聞の企業ニュース記事では、将来のことを書いているのに「When」が抜けてしまう事例が珍しくない。3日の朝刊企業1面に載った「カンロ、グミの生産能力2倍 27億円で新ライン」という記事でも悪癖が出ている。
豪雨被害を受けた比良松中学と近くの橋(福岡県朝倉市)
          ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】 

カンロはグミを増産する。長野県松本市にある松本工場に約27億円を投じて生産ラインを新設。生産能力を2倍に高める。同社はグミを成長事業として位置づけており、市場で現在約1割のシェアを2021年までに2割に引き上げる目標を掲げている

松本工場で生産ラインを1本新設する。10~30代の女性に人気がある主力の「ピュレグミ」や新製品を中心に増産。グミをつくる朝日工場(長野県朝日村)とあわせ生産能力は現状に比べて2倍になる。同社は果実などを加えたヘルシーなイメージがあるグミは今後も需要が高まるとみている


◎「増産する」のはいつ?


この記事の柱は「グミを増産する」ことだ。増産が始まる時期は記事を構成する必須の要素と言える。「増産」と時期が完全に一致するわけではないが「生産能力を2倍に高める」時期で代替する手はある。だが、記事ではいずれにも言及していない。
豪雨被害を受けたJR日田彦山線(大分県日田市)
     ※写真と本文は無関係です

市場で現在約1割のシェアを2021年までに2割に引き上げる目標を掲げている」との記述から増産が「2021年まで」のどこかの時点で始まるのは分かる。だが、これだけでは増産時期に言及したことにはならない。

生産規模に触れていないのも頂けない。「生産能力は現状に比べて2倍になる」ようだが、どの程度の「生産能力」になるのか不明だ。「カンロが生産規模を公表していない」と記者は弁明するかもしれない。だが、「市場で現在約1割のシェア」と書いているのだから、グミの市場規模から現状の生産規模を推測できる。その程度の情報は盛り込む努力をしてほしい。

ちなみに、SankeiBizの記事(2017年3月26日付)に「グミの国内の市場規模(明治調べ)」というグラフが出ていて、それによると2016年の市場規模は「635億円」らしい。

さらについでに言うと、生産能力とシェア目標に整合性の問題もある。ここでは「生産能力は現状に比べて2倍になる」結果、生産量も販売金額も2倍になると仮定する。

グミは今後も需要が高まるとみている」のだから、全体の市場も拡大すると考えよう。全体の市場規模が不変との条件下で、カンロが生産を2倍にして他社のシェアを食えば「市場で現在約1割のシェアを2021年までに2割に引き上げる」ことになる。だが、市場規模は拡大するのだから、自社の生産規模を2倍にしても1割のシェアを2割に高める結果にはならないはずだ。

もう1つ追加で指摘したい。同じ情報の繰り返しについてだ。この記事では「生産能力を2倍に高める」と最初の段落で書き、次の段落でも「生産能力は現状に比べて2倍になる」とダブらせている。これは避けてほしい。短い記事で同じ話を繰り返すと、盛り込める情報量はどんどん少なくなっていく。

ニュース記事を書く記者には、重複を避けて書く技術を身に付けてほしい。記事の粗製乱造に慣れている企業報道部のデスク・キャップがそうした技術を教えてくれる可能性はかなり低い。それが若手の記者にとっては辛いところだが…。


※今回取り上げた記事「カンロ、グミの生産能力2倍 27億円で新ライン
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170803&ng=DGKKASDZ02HJF_S7A800C1TJ1000

※記事の評価はD(問題あり)。

0 件のコメント:

コメントを投稿