2017年8月7日月曜日

二兎を追って迷走した日経 松尾博文編集委員「経営の視点」

7日の日本経済新聞朝刊企業面に載った「経営の視点~EV革命と石油の終わり 事業の寿命、自問続けよ」という記事は迷走気味の内容だった。話の焦点が絞り切れていないと言うべきだろうか。筆者の松尾博文編集委員はまず以下のように書いている。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

英仏政府が2040年までにガソリン車の国内販売を禁じる方針を決めた。トヨタ自動車とマツダは電気自動車(EV)の共同開発を視野に資本提携で合意した。EVの台頭や、再生可能エネルギーの急速なコスト低減が、石油の大量消費を前提とする20世紀型の社会・産業構造を変えようとしている

液化天然ガス(LNG)はいつまで必要か

「ずっと続くと信じてやっている」

三菱商事の垣内威彦社長の問いに、エネルギー部門の幹部は気色ばんだ。同社の16年3月期決算は資源安の影響を受け、初の連結最終赤字に沈んでいた。

同年4月に就任した垣内社長がまず手をつけたのは150に及ぶ事業単位の「仕分け」だった。それぞれの事業を5段階に分類し、ピークアウトしたと判断した事業は撤退も考える

三菱商事はLNGビジネスのパイオニアだ。1969年に投資を決めたブルネイLNGプロジェクトは「失敗すれば三菱商事が3つつぶれる」と言われた。この決断が花開き、原料炭などとともに三菱商事を支える主力事業に育った。

だが、「どんな事業、どんなビジネスモデルにも寿命がある」と、垣内社長は言う。過去に安住して未来はない。ピークアウトに向き合い、どう乗り越えるのか。問われているのは変化への対応力だ。中核事業だからこそ自問を迫った


◎なぜ「LNG」?

EVの台頭や、再生可能エネルギーの急速なコスト低減が、石油の大量消費を前提とする20世紀型の社会・産業構造を変えようとしている」と問題提起した後に出てくるのが、なぜか三菱商事の「LNG」の話だ。どうしても記事のような展開にしたいのならば「石油や天然ガスの大量消費を前提とする20世紀型の社会・産業構造を変えようとしている」とでもすべきだ。
九州北部豪雨後の朝倉光陽高校(福岡県朝倉市)
         ※写真と本文は無関係です

さらに言えば「中核事業だからこそ自問を迫った」結果、どうなったのかは触れてほしい。「それぞれの事業を5段階に分類し、ピークアウトしたと判断した事業は撤退も考える」のならば、「LNG」についても「ピークアウトしたと判断した」のかどうか答えが出ているのではないか。「5段階」のどこに分類したのかも入れてほしい。

仮に「LNGに関しては縮小路線に転じない」と判断したのであれば「石油の大量消費を前提とする20世紀型の社会・産業構造を変えようとしている」事例としては不適切だ。

続きを見ると、さらに分かりにくくなる。

【日経の記事】

燃料転換にとどまらず、人工知能(AI)やIoT、シェアエコノミーなど、自動車を起点とする革命は全産業に広がる可能性がある。誰が主導権を握るのか。垣内社長は「見極めるためにも自動車ビジネスに関与し続ける」と話す。



◎「自動車ビジネスへの関与」とは?

見極めるためにも自動車ビジネスに関与し続ける」という「垣内社長」のコメントが唐突だ。「自動車ビジネスに関与し続ける」とは「LNG」事業を続けるという意味なのだろうか。それとも全く別の事業を通じて「関与し続ける」のか。記事からは判断できない。

記事の後半では「事業の寿命、自問続けよ」という話から離れて、石油消費そのものがテーマになっていく。続きを見ていこう。

【日経の記事】

石油のピークはいつか。ここ数年、関心を集めるテーマだ。「地球上には経済成長を支えるだけの石油がない」とするかつての議論ではない。温暖化対策や、自動車・発電の燃料転換によって石油消費は遠からず減少に転じ、石油が余る時代が来るとの見方だ。

「石油の終わり」と決めつけるのは早計だ。英メジャー(国際石油資本)、BPのチーフエコノミスト、スペンサー・デール氏は「現在、200万台のEVが35年に1億台に増えても、失われる石油需要は日量300万~400万バレル。1億バレル前後の需要全体でみれば小さい」と指摘する。EVの実力を見極めるにはもう少し時間が必要だろう。

ただし、国家運営を石油収入に頼る産油国は小さな可能性も見過ごせない。国際エネルギー機関(IEA)の事務局長を務めた田中伸男・笹川平和財団会長は、「国営石油会社の新規株式公開(IPO)など、サウジアラビアが大胆な改革を進める背景には石油の需要ピークへの備えがあるのではないか」と見る。

仏トタルの生産量は10年前、石油が7割、天然ガスが3割だったが、今は5対5。パトリック・プヤンネ最高経営責任者(CEO)は「35~40年にはガス比率がさらに上がり、再生可能エネルギーが全体の2割を占めるだろう」と語る。

メジャーとはもはや、巨大石油企業の代名詞ではない。エネルギー大転換のうねりは速度を上げ、国家と企業に変身を迫る。


◎結局、松尾編集委員はどう見てる?

上記のくだりからは、石油消費のピークアウトについて松尾編集委員がどう見ているのかも分かりにくい。「『石油の終わり』と決めつけるのは早計だ」「EVの実力を見極めるにはもう少し時間が必要」というのならば、「石油の大量消費を前提とする20世紀型の社会・産業構造」が大きく変わると考えるのも「早計」ではないのか。
豪雨で橋梁が流されたJR久大本線(大分県日田市)
           ※写真と本文は無関係です

なのに記事の最後では「エネルギー大転換のうねりは速度を上げ、国家と企業に変身を迫る」と結論付けている。これでは説得力がない。それに記事の後半では「事業の寿命、自問続けよ」という話とほとんど関連がなくなっている。サウジアラビアの「国営石油会社」も「仏トタル」も事業環境の変化に対応しようとはしているのだろうが、「事業の寿命」を「自問」しているようには見えない。

「石油消費のピークアウトが迫っており、関連企業は大きな変革を迫られそうだ」と訴えたかったのか。それとも「企業は中核事業であってもその寿命を常に自問し、時には躊躇なく撤退すべきだ」と伝えたかったのか。焦点が絞り切れずに記事を展開させているので、全体として説得力がなくなっている。「二兎を追う者は一兎をも得ず」。松尾編集委員にはこの言葉を贈りたい。


※今回取り上げた記事「経営の視点~EV革命と石油の終わり 事業の寿命、自問続けよ
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170807&ng=DGKKZO19712870W7A800C1TJC000


※記事の評価はD(問題あり)。松尾博文編集委員への評価はDを据え置く。

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